初詣に行こうと言い出したのはだった。

 毎年ナルトが正月を一人で過ごすと聞いて不憫に思って、正月の間、がナルトを自分の家に呼んだのだ。大晦日の二日前からの家にいるナルトは、何となく夜中から初詣に行こうと言い出した。

 それにあっさり賛同したと、たまたま父親と共に年最後の挨拶に来ていたサスケと、炎一族邸に居候中のイタチ、夜は危ないので保護者として斎を従え、寒い中を炎一族邸近くにある神社まで、白い息を吐きながら歩いて行った。




「…大丈夫か、。」




 イタチはの手を引きながら、後ろを振り返る。

 は毛皮の裏地のついた着物に毛皮の襟巻き、足下は足袋をはいてころころと鳴る下駄を履いている。歩は酷く遅い。




「うん。」




 白い息をほぅっと吐いて、は頷いた。

 身に宿す炎の血継限界から熱には異常に強いだが、逆に寒さに弱いところがある。防寒もしっかりしているが、やはり寒いのだろう。動きは緩慢だ。

 初詣客を迎えてか、神社は賑やかで、露店や音が響き渡っている。だがそこに行くまでには長い階段を上がっていかなければならない。




「大丈夫か?おんぶするぞ。」

「うぅん。大丈夫だよ。」




 は自分の着物の前をかき合わせながら、笑って言った。




ー遅いってばよー」




 ナルトが階段の上からぶんぶんと手を振る。どうやらもう登り切ったようだ。ナルトの隣にはサスケもいた。

 サスケは無理矢理ナルトに連れ出されたのが不満なのか、イタチの同伴が不満なのか、ひとまず何か不満なのだろう、酷く不機嫌そうにむすっとして、眉間に皺を寄せていた。




「サスケ、ナルトくん!離れるのは良いけど、はぐれないでね!」




 斎が下から二人に声をかける。

 木の葉の人々もこの神社に集まっているためか、歩けないほどではないが結構人が多い。簡単に迷子になれそうだった。




「はぁ、やっと上ったー。」





 は石段の一番上に来ると大きく息を吐いて、それから前を見た。





「わぁー。」





 露店が沢山建ち並ぶ境内をが見るのは初めてだ。は素直にはしゃいだ声を上げて、ぱたぱたと走っていく。




「ちょ、!はぐれるから!!」




 斎が慌てるが、イタチがの後ろをついて行ったのを見て、斎は娘の行動を容認した。





、すごいはしゃぎようだってばよ。」




 先ほどまでテンションを上げていたナルトだったが、何やらのハイテンションに出遅れたらしい。




「仕方ないよ。あの子、こういう所に来る機会に恵まれなかったから。」




 前年まではは病のためにほとんど外に出ることが出来なかった。だからのはしゃぎようも斎にとっては十分に理解できることだった。




「さて、さて、!先にお参りに行ってからだよ!」





 食べ物を物色し始めたに、斎が声をかける。ところがその時にはすでに時遅く、とイタチは大きなブドウ飴を持っていた。





「う?」





 ブドウで口をもこもこさせながら、が振り向く。イタチも同じである。大きなブドウ飴を一口で食べたためか、二人とも口元が何やら膨らんでもこもこしている。




「…君たち、なんでそういう所だけ、一緒なのかな。」




 斎は困ったような、呆れたような顔をして、こめかみを押さえる。

 ひとまずふたりは食べながら、神社の本殿に向かうことになった。沢山の人が同じ方向に向かっているため、流されるように進んでいく。




「人が多いねぇ。」




 は嬉しそうにブドウ飴をかじりながら言って、イタチの手を握り直す。




「そうだな。はぐれるなよ。」




 イタチは先頭に立っている斎から目を離さないようにしながら、なんとかついて本殿の前までやってきた。押されながら賽銭をなんとか投げ入れ、手を合わせる。ナルトたちも何とか本殿の前までたどり着いて、綱を揺らして鐘を鳴らした。




「何お願いした?」




 ナルトがに尋ねる。




「あ、忘れた…。」

「それ意味ねぇじゃん。」




 は人の多さとイタチについていくのでやっとだったらしい。ナルトが半目で抗議して、サスケが白い息を俯いて下向きにはいた。




「よし、おみくじみんなでひこうか。」




 斎は神殿近くに社で売られているお神籤を見て、声を上げた。サスケは嫌そうだったが、斎がお金を払ったため、渋々引くことになった。




「一番お願いします。」




 は棒を引いて、その番号を巫女の女性に言う。そして細長いお神籤の紙をもらった。




「あ、俺も一番だってばよ。」




 ナルト、斎、、イタチ、サスケがそれぞれお神籤をもらったところで、同時にお神籤を開く。




「よっしゃー!俺大吉だってばよ。しかも一番!!」

「わたしも、一番大吉だよ。」




 二人で「おそろー」と手をつないでナルトとは笑う。





「おや、僕は21番の大吉だよ。ちょっとたちには負けた感じかな。」





 斎も大吉なのでかなり良いのだが、それでも一番に比べると何となく悪い感じがする。




「サスケとイタチは?」




 斎が明るい声音で尋ねると、後ろから暗いサスケの声が帰ってきた。




「・・大凶かよ。」

「…俺も凶だ。」




 イタチもあまり良くない神籤だったため、眉を寄せる。




「ありゃ、うちは兄弟は揃って凶か。なんて書いてあるの?」




 斎はイタチのくじをのぞき込む。

 そこには『苦しき決断を迫られる。正否ともに苦あり。然らば吉に転ず。』と書かれていた。





「すこぶーる良くない感じだね。」




 斎がありゃりゃと言いながら肩を竦める。確かにそのようだった。




「サスケはどうだ?」

「オレも最悪だな。」




 サスケが神籤をイタチに見せる。『陽極まれば陰生ず、陰極まれば陽生ず』と書いてあった。





「どういう意味?」




 はよく分からず、首を傾げて父親の斎を見上げる。





「良いものも過ぎれば悪いものをうむ。影も過ぎれば陽をうむってことかな。」

「…?」

「いろいろなとらえ方が出来るよ。要するに真面目もいきすぎれば悪くなることもあるから、僕ぐらいサボっているぐらいで良いってことだよ。」





 斎がへらりと笑って茶化すように言う。




「遅刻や先生のだらしなさを正当化しないでください。」




 そんな斎をばっさり切ったのはイタチだった。












正月 ( 一月 )