「で、結局のとこイタチさん、したいに決まってますよね。」
サクラの直球過ぎる質問に、イタチはテーブルに肘をついたまま、眉を寄せる。
「・・・」
女性としてそういうことを友人の彼氏とは言え男の前で口にするのはどうなのだと思ったが、それは今回の議題とは全く関係ないので言わないことにした。
昨晩、結局あの後はいてもたってもいられなくなったらしく、夜中にもかかわらずサクラの所に駆け込んだらしい。
サクラも一人暮らしで、泣きじゃくるを家に招き入れたそうだ。
まぁが親友で耳年増のサクラを頼るのは当然の成り行きと言えば成り行きで、今日、サクラがイタチに話をしに来たのだ。
当のはと言うと、サクラのアパートメントで落ち込んでいるらしい。
だが、落ち込んでいるのは正直イタチも同じだった。
「・・・あそこまで怖がられるとは思わなかったさ。」
流石には初めてなので躊躇いもあるだろうことは分かっていた。
ただ、がしても良さそうなそぶりを見せたので、難しいかなとは思いつつも、少し手を出したのだ。
もちろん最初から、が嫌がればやめるつもりだった。
初めてのにトラウマを植え付けたいわけではないし、いつもイタチはを大切にしたいと思っている。
だから嫌がればそうかと笑って、頭を撫でてやるつもりだった。
「ちょっと、ショックだった。」
あそこまで怯えられるとは思わなかった。
一瞬イタチも本気で抱いてしまおうかと思ったのは事実だが、それでも何とか押しとどまったというのに、あの後は酷く怯えていた。
今までに手を上げたことは誓って一度もないし、乱暴にしたつもりはなかったけれど、にとっては十分に昨晩のことは怖かったのだろうかと、イタチは昨晩のことを思い出せば自分の気分まで沈みそうだった。
居間で寝ると言ったのも、あそこまで怯えられて、咄嗟にどうしたら良いか分からなかったからだ。
「は、大丈夫そうか?」
「んー、泣いてるって言っても、そのイタチさんを責めてるとかじゃないんで。ってか、自分を責めてるんで。」
サクラも夜中に来られて流石に驚いたが、はずっとどうしようと言ったままだった。
落ち着かせてよく話を聞いてみると、緊張してしまったし、怖いと思ったのは事実だったが、嫌ではなかったことと、拒絶してイタチを傷つけたのではないかと酷く自分を責めていた。
「別に、嫌ではなかったけど怖かったみたいで、拒んじゃったどうしよーみたいな。」
「・・・そうか。」
イタチは納得して、息を吐いた。
とイタチは幼なじみ同士で、イタチはのことを2歳の時から知っており、誰よりもをよく知っていると思っていた。
だが、やはり年頃になるとそういうわけにはいかない。
今まで分かっていると思っていたことが分からなくなり、に対してどう接して良いか分からない時も増えた。
担当上忍の斎にその話をすると、けらけらと楽しそうに笑われた。
――――――――――それはお互い成長した証拠だよ。“恋愛”してるんだよ。
斎もまた妻の蒼雪とは幼なじみ同士だと聞いているから、イタチの感情が理解できるのだろうが、なんの助言にもならない。
別にに不満があるわけではないが、たまにに対してどうして良いか分からないことがある。
もう少しイタチは自分が器用だと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
を大切だと思っているし、愛している。
その感情に変わりはないし、それをいつも伝えているから、大きな不和が生まれることはないが、それでも小さな諍いと言うべきか、問題は何度もあった。
は人に自分の感情を話さず、抱え込んでしまうところが多い。
しかも大方のことは自分に問題があると考えてしまう。
イタチが忙しいせいか、それとも異性と意識しはじめたせいなのか、は自分の思っていることをイタチに話すのが下手になった。
そういう時、サクラの出番だ。
「まぁ、一応本人はやること自体には嫌ではないらしいですよ。今日明日には家に戻しますから、ただ、自分が拒否したことを気にしてるんで。」
「分かっているフォローするさ。」
が悪いわけではないし、多分イタチが焦りすぎたのだろう。
イタチは男なのでさっぱり分からないが、嫌ではない、ただ怖い、というのは女性としては普通の考え方なのかも知れない。
痛いという話も聞いている。
初めてのことなので、怖いと思うのは当然の感情で、ただ正直それをどうしたら良いのかイタチには分からなかった。
いつまで待てば良いんだ?と言うのが本音だった。
「すまないな。いつも。」
イタチは素直にサクラに礼を言う。
同性の親友という間柄、はサクラによく自分の気持ちを話すようになった。サクラの気が強く頼りがいがあるお姉さん気質なのもあるのだろう。
「いや、いつも修行とかでお世話になってるんで良いですよ。」
サクラはひらひらと手と首を振った。そして「でも・・・」と続ける。
「イタチさんもよく待ちましたよね。もう15歳ですよ。」
「・・・まぁな。流石にの実家はな。」
「あ、やっぱりそれ気にしてたんですか。」
イタチとは炎一族邸、要するにの両親と同居だった。
もちろんは東の対屋を占領しており、両親は寝殿に住んでいると離れになっているのだが、それでも真面目なイタチとしては実家でに手を出す気にはなれなかったのだろう。
まぁ予想通りでサクラも納得する。
「イタチさんって、経験ありますよね。」
サクラが躊躇いがちに尋ねる。
「あるに決まってるだろ。俺は20歳だぞ。」
は15歳だが、イタチは5つも年上だ。当然それなりに経験はある。
ずっとがいるので恋人とかを作ったことはないが、忍という職業柄任務で抱いた女もいるし、商売女を相手にしたこともある。
には口が裂けてもそういうことを口に出さないが、20歳ともなればいろいろと人には言えない経験はある。
「イタチさん。もてそうですもんね。」
サクラはあっさり納得する。
とは違い、そこそこ耳年増なサクラはそう言ったことは気にしない性格で、イタチも話すのが楽だった。
しかもがショックを受けそうなことは口が裂けても言わない。
良い友人である。のことではイタチも頼りにしていた。
「本当に、どうしたものか。」
イタチはコップの水を飲み、またため息をつく。
「あれ、イタチさん、本気で傷ついてます?」
「まぁな。怖がられたのは初めてだからな。」
ショックだったのは事実だ。
が出て行った後、サクラの所に行ったのは分かっていたが、やはりかなりショックだった。
「でもいつもは恐がりだし、それぞ、にお酒でも飲ませて勢いつけるとかしないと、いつでも引け腰ですよ。」
「初めてが酒の勢いってのも最悪じゃないか?」
「にはそれぐらいの大胆さと思い切りが必要だと思いますけど?」
サクラは楽しそうに笑って見せる。
一応慰めてくれているらしいと言うことに気づいて、イタチは心の中で明るい彼女に感謝した。
友人
( 隣り合う人 相談に乗ってくれる人 )