が次の日起きたのは昼も過ぎておやつの時間にさしかかった頃だった。




「ぅう、」




 何やらはれぼったい瞼を開けて、あたりを確認すれば真っ白だ。

 体を包む感触は酷くくすぐったい。どうやら裸のまま眠っていたため、素肌に当たる上布団が、気持ちよいけれど、変な感覚だった。




「ぁ、ぅ、」




 体を捩って、痛みに眉を寄せる。

 まだお腹の奥に変な感触が残っている気がする上、下腹部がひりひりと何やら痛くて、なんでだろう?とかふっと考えて、は枕に突っ伏した。




「ふぁ、あああああ・・・」




 奇声を上げて、枕を抱きしめる。

 起き抜けはいつも頭がふわふわしていて眠たいはずなのに、あっという間に頭に血が上って逆にパニックになった。

 フラッシュバックのように昨晩のことが思い出される。

 貧相な自分の体を晒すのが恥ずかしくて、恥ずかしさと与えられる感覚が酷く熱くて、そして体が裂けそうなくらい痛くて、ただずっと泣いていた。

 最初は怖かったと言うよりは、よく分からなかったし、羞恥と熱で頭がおかしくなりそうだった。イタチの手は優しくて、そのくせに残酷で、でもを思いやってくれているのはすごく分かった。

 最後は聞いていたとおり痛くて、痛くて、イタチの手を握りしめながらずっと終わるのを待っていた。

 終わった時は本当に疲れていて、なんの言葉も交わせぬまま、もう崩れるように眠ってしまった気がする。




「うぅ、」




 はずっと下からイタチを見上げていたはずだったけれど、目をつぶったり、顔を背けていたためか覚えていることは少ない。

 でも、見たこともない眉を寄せた表情とか、男の人らしい筋肉のついた体とか、そう言ったものを思い出してしまって、顔に血が上るのが止められなかった。




「ど、」




 どんな顔で彼に会ったら良いのだろうか、とベッドの中でもそもそしていると、人の気配がした。

 顔を上げれば、風呂からイタチがちょうど出てくるところだった。




「あ、」




 隠れる前に顔を合わせてしまい、は凍り付く。




「あぁ、起きたのか。」





 イタチはいつも通り適当なシャツを羽織って、タオルで髪をタオルでわしゃわしゃと拭いていた

 シャツの襟元から覗く肌を見て昨日のことを思い出してしまったは、枕に顔を埋める。イタチはタオルを持ったままのベッドに歩み寄ってきて、の髪をそっと撫でた。




「痛いのか?」




 突然顔を隠したを、本気で心配しているらしく、声音は真剣だった。




「い、痛い、けど、大丈夫。」




 まだ酷く痛いのは事実だ。

 けれどそれよりも頭をいっぱいにするのは羞恥心だ。耳まで真っ赤になっているだろうと枕にぐりぐり自分の顔を押しつけていると、イタチは知ってか、知らずか、セミダブルのベッドの端に座った。

 が恐る恐る枕から顔を上げてイタチを見ると、彼は鼻歌を歌い出しそうな程、機嫌が良かった。




「・・・い、イタチ?」




 ここ数年で久々に見た酷く幸せそうな顔で、はぽかんと口を開けてイタチの名前を呼んだ。




「なんだ?大丈夫か?」

「大丈夫、だけど。」




 そういえば、行為の最中もイタチは結構楽しそうだった気がする。




「どうだった?」

「ど、どうだったって?」

「昨日、」




 昨晩の行為をイタチに示されて、は俯いて顔を真っ赤にするしかない。

 よく考えたら、自分からしても良いなどとはしたないことを言って、イタチを誘った気がする。昨日はどうして良いか分からず言ってしまったが、今考えたら恥ずかしくて血が顔に上って行くのを止められない。




「・・・い、痛かった、」

「まぁ初めてだからな。痛くなる前は?」




 聞かれて、は少し眉を寄せて考えた。

 痛みがあまりに酷くてそればかり思い出していたが、最初はイタチの手が肌に直接触れてくるのが恥ずかしくて、何故か触れられた場所が酷く熱くて、どうしたら良いのか分からなくて必死でイタチに縋り付いていた。




「痛くなる前は嫌じゃなかったか?」




 もう一度イタチに尋ねられ、はあのときの熱を思い出して目眩がした。




「・・・嫌、じゃ、ないけど、熱く、て、よくわからなかった、」




 心地よいような気もしたし、酷く怖かったような気もする。




「なら良い。」




 の答えが満足だったのか、イタチはすこし唇の端をつり上げて笑った。

 その表情が、ふっと昨晩苦し紛れに見上げた彼の顔にだぶる。

 は熱くて、余裕がなくて苦しかったのに、彼は息を荒げていても余裕があったらしく、を慮ってくれていたのは事実だが、が身を捩る場所ばかりを触ってきた気がする。

 あれ?

 ふっとは幼い頃、サスケが言っていた言葉を思い出す。




 ――――――――兄さんって、本当に意地悪いよな。




 年が離れているので手は出さないが、いつもイタチにちまちまと皮肉やら嫌みやらで虐められていたサスケは、にぽつりとそう言ったことがある。

 フガクがサスケに意地悪をするなとイタチに注意したのも見たことがある。

 はと言うと、そのたびにイタチは優しいと庇っていたが、行為の最中に見せたイタチの意地悪さを思い出す。




「ねぇ、イタチって案外意地悪?」

「はぁ?」




 イタチは突然のの質問に首を傾げる。




「・・・だ、だって、」




 はなんと説明したら良いのか分からず、俯きがちに頬を染めた。

 すると、昨晩のことについてイタチには思い当たる節があったのだろう、すぐに困ったような顔になった。




「ん、」




 いつまでも芋虫みたいに布団にくるまっているわけにもいかず、は上布団で体を隠しながらゆっくり身を起こす。

 しかし、やはり足を動かせば体の奥に鋭い痛みが走って、反射的にきつく目を閉じた。




「眠っていても良いぞ。」




 イタチはそっとの背中を手で支え、が身を起こすのを手伝う。




「う、うぅん。」




 上布団に肩までくるまったまま、は首を振って身を起こした。




「・・・ちょっと、だるい。」

「悪かったな。」




 イタチは短く謝って、の肩をそっと上布団ごと引き寄せて、抱きしめる。は目をぱちくりさせてイタチを見上げたが、彼の嬉しそうな顔に閉口するしかなかった。




「でも、俺のだ。」




 すりっと裸の肩に頬を押しつけられて、はびくっと体を震わせる。

 イタチの長い髪の感触がくすぐったくて、それが昨晩の行為を思い出させて体の奥がつんと熱くなる。 

 まだどうして良いのか、まったくわからない。

 それでもイタチの嬉しそうな顔を見れば、これで良かったのかなと心から思った。




念願 ( ずっと思い続けてきたこと )