「頭、くらくらする・・・」




 完全にのぼせたのか、着崩した襦袢のままはくたりとベッドの上に横たわっていた。

 着物を整える気力もないらしく、赤い顔でぐったりと転がっている彼女を見れば、流石に調子に乗ったとイタチも反省した。




「悪かった。」

「・・・」




 は眉を寄せて、珍しく不機嫌そうな顔をする。ただ、その表情には戸惑いが多く含まれているようで、イタチは少し訝しむ。




「おまえ、大丈夫か?」

「・・・」




 は口を開かない。長い紺色の睫が、の瞳に影を作っている。




「・・・こわかった。」




 しばらくしてぽつりと独白するように小さい声で言う。




「何が?俺がか?」

「イタチじゃないよ。でも、・・・その、」

「感覚・・?」

「・・・うん。怖かった。」




 得体の知れないお化けに怯える子供のような表情で目尻を下げ、は俯いて言った。

 普通の女なら気持ちよいと感じることが、初めてのにはまだ戸惑いと恐怖の対象でしかないのかも知れない。




「ゆっくり、覚えていけば良いさ。」




 出来るだけ優しく、まだ濡れたの髪をそっと撫でる。

 男の方が、多分そういうことを知るのは早いのだろう。

 そして、はイタチよりも5歳も年下なのだから、戸惑いも当然と言えば当然なのかも知れない。




「イタチは、良かった?」




 は恐る恐ると言った様子で、イタチに尋ねてくる。




「俺は、すごく良かったよ。」




 の頭を撫でながら、イタチは思わず笑みがこぼれてしまった。

 随分と待った気がする。年齢を考えれば仕方のないことだと言えるが、それでも随分と待った。だから嬉しいかと聞かれれば嬉しいし、満足感も大きい。ついでに気持ちも良かった。いろいろな意味で。

 は嬉しそうな顔を見れば言うことがなくなったのか、「じゃあ、良いの。」と複雑そうな呟きを漏らした。




「ひとまず、少し休め。」




 イタチはの体の上に布団をかぶせて、とんとんと上から叩き、そっとの額にキスをする。




「お水が飲みたい・・・甘いもの食べたい。」

「わかった。」

「あ、金平糖・・・。」




 は枕に突っ伏したまま手だけをぱたぱたさせる。




「とってくるよ。」




 の頭を一度撫でて、イタチは立ち上がった。




「今日は甘やかしてやるさ。姫宮様。」

「よきにはからえー」




 どこで覚えたのか、は偉そうに言って、ころりと転がって見せた。




「なんだその台詞は。」




 にいまいち似合わない台詞に、イタチは眉を寄せる。




「え?サクラが言ってたの。」




 あっさりとした彼女の返答。

 サクラはに良い影響を与える時もあるが、たまに滅茶苦茶強いことを言ったりに進めたりするので、困る時もある。この間など、ラブホテルとやらに二人で行ってきたらしい。

 社会勉強みたいな気分だったらしいが、当然ラブホテルの従業員は二人がいかがわしい関係であると邪推しただろう。まぁ二人は当然そんなはずもなく、一通り見学し、騒いで爆睡したらしいが。




「そういえばおまえら同期仲良いよな。」




 イタチと同い年の子供達は全くと言って仲が良くない。と言うもの戦乱の時期であり、アカデミーを卒業したのも皆ばらばら。

 当然接点があったとしても上司と部下などの関係が多く、仲良くなることが少なかった。

 ましてや昇進の早かったイタチなどなおさらだ。

 それに比べての年代は皆仲が良いことで有名で、男女問わず助け合い、フォローし合っている。

 ナルトは今里にはいないが、シカマルやキバ、いの、サクラなどの女子組は仲が良く、同年代では比較的気弱なとヒナタのフォローにまわっていることが多い。




「うん。今度は紅さんも含めて遊びに行ってくるよ。」




 皆で図って休みを提出したのだろう、の表情は明るい。




「そういえば、結婚したんだったな。」




 紅は先日アスマと結婚したという話を聞いている。

 アスマは無骨そうなイメージがあったので、紅とぴったり、という感じではなかったが、それなりに関係があったのだろう。




「アスマさんでしょ。この間父上に挨拶に来てたよ。なんか、今年は良くない相が出ているらしいから、注意しろって言われてた。」




 はぴっと指を立てて言う。

 斎はその実力でも有名だが、蒼一族として予言の才能も持っており、昔は起こる事件などをぽっぽと言い当てていたらしい。ただ現在ではあまり予言はしなくなっている。

 イタチもごくたまにしか聞いたことが無いが、斎が注意を与えた限りはかなり悪いのだろう。斎の注意は周りへの注意でもある。要するにまわりも含めてここ一年はアスマの状況に注意してやれと言うことだ。




「大変だな。」

「うーん。どうなんだろうね。当たる時もあるし、外れる時もあるし。」




 はよくわからないと小首を傾げてみせる。




「ちなみにわたしも今年はあんまり良くないらしいよ。」

「・・・本当か!?」

「イタチ、大げさだよ。死にはしないけど、成長と苦難の年かな。ってさ。」




 事も無げには言った。斎がイタチに言わなかったのは、おそらく死にはしないと言うことが既に分かっているからだろう。

 それでも心配なものは心配だ。




「くれぐれも気をつけるんだぞ。」

「イタチ、心配性だよ。わたし、一応もう上忍だよ。」




 は頬を膨らませた。確かには今年上忍となり、同年代でもいち早い昇進と言うことで頼りにされている。

 だが、一本線が抜けているところは変わっていない。




「この間ぽろっと犬神から落ちたという話を聞いたのだが、」

「え?え?」

「狙いを間違えて、シカマルくんすれすれをぶち抜いた、とか」

「・・・そんなこと、あったかな?」




 あまり記憶にないのか、は不思議そうな顔をする。




「シカマルすれすれは、ないと思うよ。わたしもやっぱり友達の時は気にしているし。」

「他はあるのか?」

「・・・一度、サクラが狙いをそらしたからね。」




 わたしのせいじゃない、とは言う。

 そういえばサクラが言っていたが、一番若い上忍であるをなめきっているものもいるらしい。そういうのを蹴り飛ばすのは基本サクラの仕事らしいが、その一環なのだろう。

 の狙いをそらして、そいつを狙わせた、と言うことだ。




「・・・サクラは年々逞しくなるな。」




 イタチは少し眉を寄せながら、男顔負けの怪力も含めてと声を潜めた。



強力 ( 手助け 力の強いこと )