「勝った−!!」
が手を上げてはしゃいだ声を上げる。
「負けた・・・また負けた。」
サクラが項垂れて、ぺたりとその場に座り込んだ。
は着物の袖がぼろぼろで、服もあちこち裂け、サクラに殴られた足や頬は痣。
一方サクラも服がの炎の爆風にあてられぼろぼろで、風の刃に引き裂かれたのか、服の端が切れ、切り傷が全身にあった。
「・・・しっかし二人とも酷い格好だね。女の子とは思えないマジ気・・」
斎は二人の姿を腕を組んで見ていただけだったが、少し唇の端を引きつらせた笑みを浮かべていた。イタチも斎の隣で苦笑する。
姉妹弟子となったとサクラの二人の修行は任務がない日の午前中にやることになっていた。体術、忍術を基本とした二人の修行は、8割方の勝利で終わるが、たまに体術でサクラが勝利することがある。
始めた頃は子供のお遊び程度だったのだが、ここ数年はふたりとも強くなりなかなか本気で、
痣やら切り傷やらが二人とも耐えなかった。
たまに骨折することもある。
男顔負けの過酷な修行で、斎とイタチもたまに見に来てびっくりすることになった。
「はーい。一応へとへとで悪いけど高評から行きましょうか?」
斎がぱんぱんと手を叩いて、座り込んでいるサクラと、疲れて岩に座ったに歩み寄る。
「は今回体術は課題だらけ。近距離の回避が極めて悪い。攻撃は良いけどもう少し回避の正確さ、相手がどう攻撃してくるかをよく見ましょう。忍術はチャクラの無駄遣いが多い。荒い。」
「はーい。」
「忍術のチャクラの振り分けはもう少し慎重に。チャクラが多いのは分かるけど、無限、ではないからね。」
は父親からの注意に素直に頷く。斎はそれを確認してサクラに目を向けた。
「サクラちゃんは回避はOK,良く回避したね。ちょっと感動したよ。攻撃も良かった。ただし、攻撃後の隙が多い。」
「あと、ですか?」
「そ。当たった!って思った後の隙がね、あからさまなんだ。」
「あー・・・・」
思い当たるところがサクラにはあったらしい。軽く自分の頭を押さえる。
「イタチからなんかある?」
斎はイタチの方を振り返って、尋ねる。
「そうですね・・・、今回は全体的にサクラの方が良かったかな。」
勝利したのはだが、体術など動きに関してはサクラが断然良かったとイタチも思った。ただ、やはり斎が言うとおり、攻撃が当たったと思った時のサクラの隙が大きすぎ、がそこを見逃さなかったのだ。
最初から押しているのはサクラだったというのに、それで負けた。
「だからまぁ、かなりもったいないなかったな。」
「あーーーしゃーんなろーーーー!!」
サクラは悔しそうに叫び声を上げる。せっかくの勝利の可能性を不意にした自分が許せなかったらしい。
「は随分今日は荒かったが、何かあったのか?」
イタチは心配そうに言って、の隣に座る。
「そうだよ。。今日は本当に全体的に荒かった。勝ってなかったら落第点だよ。」
斎も腰に手を当てて、困ったような顔でを見た。
はと言うと、うーんと岩に腰を下ろしたまま三角座りをして唸っている。
「あ、あんたまだあのくそ野郎の言葉気にしてるんでしょ−。」
サクラが隣のを見て、呆れたように言った。
「くそ野郎?何それ?」
斎は思い当たる人物がおらず、思わず首を傾げる。
「私たちより二つ上の学年で、がこの間隊長だったんですけど、が強く言わないのを良いことに、3日連続遅刻して、が注意したら、逆ギレしてめちゃ反論してきたんですよ。」
サクラがことの事情を斎とイタチに説明する。
は順調に昇進したこともあって、ついこの間上忍になった。同年代で一番早く、の優秀さが窺えるが、現在いる上忍の中では一番年下だ。当然他の中忍、下忍より年下の時もあり、の性格が温厚であることも手伝って、実力を知らない中忍達はを軽んじることも多かった。
「それ、どうしたんだ?」
イタチは素朴な疑問を口にする。
逆ギレされたとしても、が声高に相手を言い負かす姿は想像できない。だが大事にならず、任務に出たと言うことは、何らかの形でことは片付いたのだろう。
するとサクラはあっさりとVサインを作った。
「私のストレートで一発。」
「・・・・」
「ふざけんじゃないわよ。実力もないくせにぐだぐだ言いくさってさぁ。」
けろりとサクラは言ってみせる。斎は笑みを引きつらせたが、イタチは無言。
「まぁでも、その、わたしもちょっと言い方が悪かったのかも。」
「何言ってンの。男のくせに任務で遅刻してきて、が任務の時間を言わなかったとか、他の2人来てんだからそんな言い訳通じるはずないでしょ?」
が一応フォローするが、サクラはばっさりとそれを切った。
「実力は年齢じゃないんだけど、まぁそれも洗礼かな・・・」
斎は苦笑しての頭を慰めるように撫でた。
彼もイタチもまた、昇進が早く天才とうたわれていたため、同じように年上の中忍や下忍に文句やひがみを受けた。二人とも性格がくせ者だったため気にしなかったが、は違うのだろう。元々あまり悪口に縁がないし、性格も温厚で言いかえさないのだ。
「そうだ。気にすることはない。皆通る道だ。」
イタチも笑っての背中を叩く。
「うん。・・・でもこれで5回目だから・・・。」
はしょぼーっと俯いた。
「あんた温厚に見えるのよ。」
サクラはを見る。
は小柄で、童顔。目は大きく垂れ目で、一見とても大人しそうに見える。と言うか性格も大人しく温厚で人に文句を言わず、自分で黙々とやるタイプだ。
その上任務で隊長になるとは言え、口調は至って丁寧。
だからこそ、何を言っても許されると勘違いする馬鹿が増えるのだ。
「どうやったら怖い顔出来ると思う?」
は真剣な顔でイタチと斎に尋ねる。
それって真剣に尋ねるようなことなのだろうかと、長い忍生活で誰からも聞かれたことのない悩みに、イタチと斎は一瞬硬直した。
「そ、そうだな・・・」
イタチは答えに迷い、目を泳がせる。良い案がいまいち浮かばなかったらしい。
「私、と本当に姉妹弟子で良かったと思うわ。」
唐突にサクラは言った。
「ど、どうして?」
話の流れが分からず、がサクラに言うと、サクラは「当たり前でしょ。」と眉をつり上げた。
「同じ班で任務出来るでしょ。」
とサクラは姉妹弟子である上、長距離と近距離という真反対の戦闘スタイルも手伝って、ほぼ毎日同じ任務だ。
「違う班だったらむかつきで憤死するわよ。」
同じ班であるから、サクラはをフォローできる。だが、話だけ聞くのであれば、を思ってむかつきのあまり憤死しそうだ。
「あははは、親の僕にとってサクラちゃんみたいに強い親友が娘にいることはとても安心だよ。」
斎は面白いと思ったのかけらけらと笑って言う。
「いえいえ、こっちこそお世話になってばっかりなんで。」
サクラは愛想良く笑って見せたが、イタチは少し視線をそらした。斎は最近任務に忙殺されて知らないのだ。
サクラが倒した班員はこれで3人目で、一人は任務に行くことなく病院送りだったことを。
怪力
( ある意味ですべてを解決する力 )