「冗談、だろ・・・」
サスケは呆然と首筋に後ろから突きつけられた錆び一つない薄水色の刃に呟く。
「冗談じゃないよ。」
高い弾んだ声が後ろから響いて、サスケに最後通牒を突きつける。
サスケはちらりと横目でナルトの方を窺った
ナルトはと言うと、ぼろぼろに崩れたり、焼かれたりしている崖の近くでサクラに口寄せの巨大な蛙ごと殴られたのか、崖と蛙に挟まれて昏倒していた。
サスケはため息をついて、手を上げる。
「降参・・・」
やられた、と思いながら、サスケにはその選択肢しかなかった。
その言葉と同時に、薄水色の刃はサスケの首元から離れ、の腰元にある黒塗りの鞘へと収められる。
「やったわーーーーー!!」
サクラが清々しい表情で天に手を振り上げる。
彼女の服はぼろぼろで、擦り傷に痣、切り傷、打撲その他酷い傷だらけだったが、そんなことは勝利の歓喜に比べたら些細なものだ。
「いたた、でもやった!」
もサスケに着物の袖を片方持っていかれていた上、大小様々な傷だらけ、ついでにサスケの雷を直接受けそこねたため、左手はぼろぼろだったが、満足げにサクラの方へ近づく。
右足をずるずると引きずっているのが痛々しい。
「みんな、お疲れ様でしたー、生きてる?」
少し遠くで4人の本気の模擬戦を見ていたの父、斎はぱちぱちと手を叩き、イタチは顔を引きつらせながら救護箱を持ってきた。
「傷は大丈夫か?」
カカシはと言うと今にも倒れそうなサスケに肩を貸す。
あたりの木はなぎ倒され、地面や崖には巨大な穴。クレーター。まるで爆弾でも落ちた後のようにあたりはぼこぼこになっている。
「なんとか、生きてるが・・・」
サスケはの白炎に食われかけた右腕の痛みに堪えながら、ナルトの近くまで歩み寄る。
ナルトはと言うと口寄せの巨大蛙の下敷きにされていたが、ぽんと巨大蛙が消え、へらへらになったナルトが出てきた。
「・・うーん、生きてる。かな。」
斎は倒れ伏すナルトの元に座り込み、ぺちぺちとナルトの頬を叩く。
「・・・ん?・・・いっ!」
流石回復の早いナルトで、斎の行動にぱちと目を見開き、起き上がったが、胸あたりの骨を折ったのか、痛みに体を丸めた。
「ほら、動かない動かない。」
斎はそう言って、ぽうっと明るい色合いのチャクラをナルトの胸元に向ける。
彼はチャクラコントロールにも定評があり、医療忍術の心得も多少あったため、最初に怪我の酷いナルトの治癒をしていく。
「・・・なぁ、俺ら、負けた・・・?」
恐る恐る、ナルトは治療を受けながらサスケを見上げる。
「・・・負けた。」
サスケは思い切り渋い顔で、ナルトに答えた。
「嘘だろ・・・・・・・」
ナルトは脱力したように息を吐いたが、胸が痛んだのだろう。表情を歪めて地面に横たわって力を抜いた。
「・・いたたたた、」
も怪我が酷いらしく、サクラが治癒をしている。だがやはり勝利した女子二人の表情は清々しく、達成感があった。
「女の子をなめちゃ駄目だって、ことだね。」
カカシも苦笑しながら、ナルトとサスケを見る。二人ともそのカカシの言葉に納得する以外に方法はなかった。
3年里を抜けていたサスケが、紆余曲折あったが、里に戻った。まぁその紆余曲折は割愛したとして、本気の模擬戦をしようと言いだしたのは、サクラだったように思う。
久々だし、男と女でわかれて、本気の模擬戦をしようというのだ。
本気の模擬戦はある程度のレベルの忍になると許可が必要になるが、は父の斎と恋人のイタチ、担当上忍のカカシを監督役にすることを条件に、その許可を綱手からもぎ取ってきていた。
サクラはこの3年間サスケとナルトに振り回され続けた恨みがあり、それをすっきりさせたかったらしい。
サスケはサスケで、サクラとに申し訳ない気持ちがあり、一発ぐらい殴られても仕方がないかと思っていたし、は強敵だが、とサクラのコンビに、サスケとナルトが二人して負けるはずがないと高をくくっていた。
明らかにこちらが有利と踏んでいたため、もし勝てれば今度サイ、カカシ、ヤマト、そしてイタチも含めて行く温泉のとサクラの代金はサスケとナルト持ちで、と言う条件にしていた。
まぁ、ないだろう。
そんな甘いことを考えていたサスケとナルトの幻想を振り払ったのは、とサクラのチームワークだった。
「あーーーーすっきりしたわ!!!」
サクラはふっきれたような清々しい表情で声を上げる。
「うん。すっきりしたね。」
も近くの倒れた木に腰を下ろし、サスケに蹴られた腹を撫でながら、同じように朗らかな笑みを浮かべている。
そりゃすっきりするだろう。
散々振り回されてむかついていたサスケとナルトを思いっきり殴れた挙げ句、この3年間修行してきたのは皆同じはずなのに、結局彼女らの方が強いと言うことが証明されたのだ。
おそらく単独ではサクラは長距離戦闘に目立った手を持たず、は近距離戦闘に非常に弱い。
だがお互いの欠点を補うとサクラのあうんの呼吸といえるコンビネーションは、油断してなんの打ち合わせもなく、またろくすっぽ連携という言葉を意識したことのないナルトとサスケを翻弄するには十分だった。
特に彼女たちは相手の欠点も利点も知っており、それを信頼している。
サクラの体の一ミリ先をの攻撃が通るといった、かなりすれすれのことも二人はお互いを信頼し、やってのけた。
その信頼が、明らかにサスケとナルトの隙を作ることになった。
「完全に敗北だ。」
サスケも疲れのあまり治療を受けているナルトの近くの岩に腰を下ろし、額に自分の手をやった。
違う意味で脱力感と共に頭痛がする思いだった。
「簡単に勝てると思ったんだろ。」
イタチが口元に手を当てて、苦笑いをしてサスケに言った。
「普通そう思うだろ。」
むしろ女相手で手加減しなければと思っていたくらいだ。その考えもの本気の攻撃を受けて吹っ飛んだが。
「・・・死ぬかと思った。」
サスケが頭を抱えていると、ナルトも同じだったのだろう、空を見上げながら「だよな。」と同意した。
傷は痛いし、骨は折れているだろうし、あわせる顔はないし。
「ざまぁみろだわ。女をなめるんじゃないわよ。」
サクラがを支えながらやってきて、唇の端をつり上げて言う。
「馬鹿にして、ね。」
も少し怒ったようにサスケとナルトに言った。
もう正直何も言うことがなく、ナルトとサスケは傷の手当てを受けながら、二人して黄昏れるように空を眺める。
3年間何をやってきたんだっけ?
切にそう思わずにはいられなかった。
脱力感
( 力がごっそり抜ける感覚
)