綱手は四人の酷い怪我を見て、ぽかんと口を開いた。
「おまえら、本気でやったのか。」
本気の模擬戦の許可をもらったとは言え、本気のレベルは人による。
怪我の治療に病院へやってきたサクラ、、ナルト、サスケの状況は酷いもので、まず肋骨の折れ、内臓損傷のサスケは即病院の手術台に行くことになった。当然入院。
も内臓が損傷を受けるほど蹴られていたが、チャクラが多く治りが早いため大事には至らなかったものの、検査のため入院。
ナルトは全身打撲で即入院、ついでに左足の骨が折れており、サクラもサクラで自分の手当をしていたが、即席で手当を出来るレベルを超しており、左手が酷い向きに曲がっていた。
痣やら切り傷やらの話をしたらもう数えきれず、結局四人は同じ病室で入院することになった。
「でも勝ったんですよ。」
サクラは親指を立てて綱手に言う。
「そうですよ。勝ちましたよ。」
もこくこくと頷くが、そういうレベルの怪我ではないと綱手は怒鳴りつけたい気分になって、弟子達の暴挙に軽く目眩がした。
サスケが里に戻ってからも、サクラとは、里を抜けたサスケや彼を取り返すと人を振り回し続けたナルトへ複雑な思いを抱えていたことを知っている。
そのため七班で集まっても何とも言えない微妙な空気があったものだが、今はそう言ったものは全くない。
あるのは目に見えて落ち込んでいるサスケとナルト、そして清々しいほどに明るい目をしたサクラとだった。
男達を殴れ、勝てた分だけすっきりしたのだ。
「まぁ、来週から温泉だと聞いていたから、もう良いがな。任務は。」
こんなぼろぼろになって任務に出せるはずもなく、綱手は下を向いてため息をつく。
「くれぐれも安静にしろよ。特にとサスケ。見た目の割に内臓関係の損傷は厳しいからな、」
「はーい。」
は当てにならない返事をする。綱手は悩ましげに眉を寄せてから、部屋を出て行った。
綱手が出て行くと、は点滴を引きずりふらふらとしながらサクラのベッドへと一緒に入って、隣に寝る。
「おまえら、本当に信頼し合っているんだな。」
サスケは仲の良い二人を見ながら、しみじみと言った。
信頼、と言う言葉はサスケがあまり意識できなかった言葉だったが、模擬戦の時見た二人の連携は信頼という言葉一つに成り立っていた。
の白炎は恐ろしい。
多少のガードは打ち抜く上、チャクラを燃やす性質を持つため、チャクラでのガードが通じるのは本当に一瞬だ。本来なら掠るのすら恐ろしい攻撃。
けれどサクラはそれを全く恐れず、が外してもしかしたら自分が攻撃を受けるかも知れないと言う危惧を感じさせなかった。
それはが自分に当てたりしないと、の能力を信頼しているからだ。
そしてもまた、サクラがどの程度の速度で動くのか、どちらに動くのかを驚くほど正確に秒単位で先読みしており、一ミリの差で攻撃を放つ。
お互いがお互いのことをよく知り、信頼しているからこそ出来る技だ。
サスケやナルトの口寄せや大技による強力な攻撃はが全部防ぎきった。が防ぎきることを、サクラは全く疑っておらず、次の攻撃の用意をしていた。
サスケとナルトは完全にそれに敗北したのだ。
「当たり前よ。3年間一緒に戦ってきたの。なめないでよね。」
サクラは軽くサスケを睨んで、隣のを抱きしめる。
「うん。信頼してるよ。誰よりも一緒にいたもんね。」
は笑ってサクラを見て、まわっているサクラの腕に自分の手を重ねる。そうやって共に歩んできたからこそ、培った信頼だ。
「わたしたちはね、サスケにも、同じようにそうしていきたいんだよ。」
はサスケに、まっすぐな紺色の瞳を向ける。
いろいろなことがあった。
信頼が揺らぐようなことも、裏切りも、沢山の複雑な感情がそこにあった。でも、今こうやって模擬戦で彼らに信頼を示すことで、サクラとは今までの感情を水に流そうと思った。
そして、彼らを再び信頼するために歩こうとふたりで決めた。
「思いっきり殴れてすっきりしたし、今までのことは、お互いもう言わないようにしましょ。」
サクラは明るい笑顔を浮かべる。
「ね。」
も紺色の髪をさらりと揺らして、サクラの言葉に賛同する。
とサクラにとって、この模擬戦はお互いが感情的に前へと進むためのワンステップだったらしい。
「ちなみに種明かしをしてしまうと、はサスケ君と一度本気で戦ったことがあったから、私たちのサスケ君対策はばっちりだったのよね。」
サクラは人差し指を立てて、くるりと回す。
「でもそれはサスケも分かっているから、絶対にわたしを狙ってくるって思ってたんだぁ。」
はいたずらの成功した子供のように明るく言う。
は形質変化が火と風、サスケは火と雷で、火に関して特殊な血継限界を持ち、火という観点に関しては誰にも負けないは、基本的に雷は風に弱いと言うのが常識的な話のため、そもそもサスケに対しては一歩能力的にリードしていると言って良かった。
ましてやサスケとの戦闘経験があるため、対策が立てられている可能性があると、サスケは能力的にも不確定要素の多いから仕留めにかかることをナルトに提案した。
「要するにに気にせずサクラから先に倒してしまうべきだったと言うことか。」
サスケは納得して、はぁと自分の額に手を当てる。
元々のチャクラは相手のチャクラを焼くという特殊な能力が付随されており、サスケの写輪眼は全く意味がなく、のチャクラは透明で見抜くことも出来ない。
その上長距離に天才的な才能を持つは、長距離に関しては絶大なガードと、攻撃力を誇っている。
長距離に対して明確な手立てを持たず、大抵の攻撃をあっさり防いでくる彼女に対してサスケはまず、を自分が得意とする近距離戦闘に持ち込むことが第一だった。
サスケにとって長距離の一番の手のつもりだった“麒麟”を前の戦いの時に一度防がれている経験もあったので、なおさら長距離でこちらに分はないと思い込んでいた。
ただは極めて近接での避けるのが上手だった上、捕らえられないと焦っている間にサクラがサスケとナルトにとどめを刺しに来たのだ。
彼女の怪力は恐ろしく、あっという間にKOされるほどの致命傷になる。
しかも少しでもサスケやナルトが離れれば、今度はの中遠距離用の白炎が二人を狙い撃ちするわけで、結局このコンビネーションを崩すことが出来ず、サスケがサクラに殴られ、ナルトの口寄せがサクラにKOされた隙をやられた。
敗因はふたりとも、を強敵で、を先にと固執しすぎたことにあった。
「ちなみにこの作戦の協賛はイタチさんでーす。」
サクラは楽しそうに笑う。
「イタチ、そういえば乗り気だったよね。」
「そうね。やっぱほら、たまるものが違うのよね。きっと。」
「あいつ・・・」
イタチにも鬱憤があったのだろう。
サスケの自業自得とは言え、今頃影でほくそ笑んでいるに違いないと思って、サスケは正直イラッとした。
イタチは昔から優しい兄だったが、少し意地の悪いところがあった。
サスケへの意趣返しとして、嬉々として作戦立案に協力したことに間違いは無いだろう。
「俺ってば巻き込まれただけだってばよ・・・」
ナルトは脱力したようにベッドにぐでっと横たわる。
正直サクラがサスケを殴りたかったというのがこの模擬戦の趣旨で、とナルトは巻き込まれたに等しい。
ただ、サクラも一人では絶対にサスケを殴れなかっただろうし、も同意したと言うことだ。
要するに、ナルトだけが数あわせのていの良いばっちり。
「でもわたしもすっきりしたよ。楽しかった。」
はころころと鈴が鳴るような高い声音で笑う。
サスケは昔と変わらぬの無邪気な笑顔を見ながら、まぁ良いかと大きく息を吐いたが、それすら殴られて痛めた肋骨に響いた。
爽快感
( 清々しい気分 )