旧10班のメンバーであるシカマル、いの、チョウジ、そしてついでにサイが見舞いに訪れたのは、次の日のことだった。




「やっばーい・・・」




 軽い台詞だったが声音は深刻で、いのは達の怪我を見るなり真っ青になった。





「・・・こりゃひでぇな。」





 シカマルも四人の状態を見て呆れと言うか、絶句というか、ひとまず呆然とした面持ちで中に入ってきた。ちなみにチョウジは持っていた菓子箱を落としていた。




「でも勝ったわよ―!!」





 サクラは万歳をして清々しい顔で主張する。相変わらずサクラのベッドに入り込んでいたも身を起こし、ガッツポーズをした。




「負けたってばよ・・・・。」




 ナルトはずーんと沈んだ表情で報告する。サスケはと言うと、ベッドについている簡易机に肘をついて、無言でそっぽを向いていた。

 シカマルは思わず笑って、ひとまずとサクラの前にチョウジが落とした菓子箱を置いた。




「ま、中身はくずれてねえな。お袋から、おはぎだ。」

「やったーーー!」





 シカマルの母のおはぎが大好きなは、手を上げてその箱に飛びつく。結構大きな重箱で、10個以上は軽く入っているだろう。




「あ、これ、僕から、温かいもの飲みたいって言っていたから。」




 サイがに緑茶の袋を渡す。ついでにポットとお湯のみも買ってきていた。

 のベッドの隣にはイタチが持ってきた電気ケトルがあるので、これでちゃんとお茶も一緒におはぎを堪能できる。




「ありがと。本当にありがとう。」




 は本当に嬉しそうにシカマルとサイに言って、電気ケトルの電源を入れるべく、サクラのベッドから下りようとする。




「いや、俺が入れるよ。」




 チョウジは困ったような顔をして、のベッドの側へと行って、電気ケトルの水をもらいに行った。




「その辺の椅子に座ってよ。」




 明るい笑顔と共にサクラはいの達に席を勧める。

 いのも遠慮せず、そのあたりの椅子を引っ張ってきてサクラのベッドの近くに陣取った。もサクラのベッドの上にいる。




「大丈夫なの?あんたたち。」




 いのは真剣な顔でとサクラに尋ねた。

 確かにもサクラも酷い状態で、などは顔に大きな湿布、左手はぐるぐる巻きと誰が見ても大けがだ。サクラもそれは変わらず、どちらも酷い。




「大丈夫大丈夫、」




 サクラはさらりと笑って、言う。

 怪我は正直大丈夫ではないが、気分の問題だろう。サスケやナルトに勝利したため、気分はかなりすばらしいのだ。




「あんま無茶すんなよ。」




 シカマルは苦笑して、の頭を撫でる。




「うん。でも、楽しかったよ。」




 も明るい笑顔を向けた。シカマルは次にとでも言うように、ふてくされている男二人に振り返る。




「おまえらは大丈夫か?」

「・・・」

「・・・別に。」




 ナルトは無言、サスケは素っ気なく一言を返すのみだ。




「負けたからって早早落ち込むなよ。」




 シカマルが慰めるように頭を掻きながらサスケとナルトのベッドへと歩み寄り、近くの椅子を引きずってきて、ナルトとサスケのベッドの間に座った。




「なんでおまえまで知ってるんだってばよ。」




 ナルトは不機嫌そうに頬を膨らませる。




「決まってんだろ。俺らも見せてもらったからな。」

「はぁ?」




 初めて聞く話に、サスケは目を丸くする。




「あぁ、同期だけは鑑賞会してたんだぜ。あの試合。」




 シカマルは得意げに笑った。




「俺たちだってやるって聞けばみたいだろ。それに上層部に訴えたのも俺ら共同だしな。」




 めんどくさかったけど、とシカマルは付け足した。

 ことの始まりはサスケに苛立っていたサクラが、サスケを殴りたいがためだけに模擬戦を企てためだ。

 しかし普通ならサスケに避けられて殴ることなんて不可能だし、サスケは案外容赦がない。実力なら勝てっこないサクラは次ににそれを話した。もサスケに少しむっとしていたこともあり、協力することを約束した。

 とはいえ、これでサスケに勝てるチャンスはあるだろうが、2対1では卑怯なので、適当にナルトを追加。

 そもそもナルトが女相手に本気になれないことはなんとなくわかっていた。

 ついで本気の模擬戦には上忍会、火影、そして上層部の許可がいる。

 とサクラは同期に協力を求め、上層部に模擬戦の許可をもらいに全員で直談判しに行き、イタチと斎、そしてカカシを監督官にするから安全だと説き伏せ、




「だからってなんでおまえらが鑑賞出来るんだよ。」




 サスケはいまいち納得出来ず、シカマルに尋ねる。

 もちろん近場に行けば巻き込まれる可能性があるため、直接見て、周囲に結界を貼っていたのは斎とイタチ、そしてカカシだけだ。

 彼ら3人は火影並の手練れであるため、もしものことがあった時の管理を含めて任されたのである。

 のような透先眼が無い限り、遠目からでは詳細は確認できないはずだ。




「それは、イタチさんのおかげだぜ。」




 シカマルはにやりと笑ってサスケに言う。




「斎さんの、水鏡さ。」

「水鏡?」




 知らないサスケは眉を寄せる。なんだそれはと思ったが、は声を上げた。




「あ、それ知ってる。透先眼で映すやつね。」




 水を鏡にして、透先眼で視ている情報をそのままに映すのである。

 もちろん効力は限定的だし、水に関しても色々と条件がつけられるのだが、映画のように大画面にして映し出すことも可能だ。




「よく知ってたね。わたしも2回しか見たことないよ。」 




 斎の娘であるも、父が水鏡をしているところは聞いたのも含めて2回しかない。父はそう言ったことを進んでやるようなタイプでもないから、シカマルか誰かが頼んだのだろう。

 知っていたこと自体に驚いたが、シカマルは違う違うと首を振った。





「確かに僕らも見たいって言ったのは事実。だけど最初はやっぱりだめだって言われたよ。」




 サイがふっと息を吐いたが、当然だというのも納得していた。

 模擬戦とはいえ、本気となれば、サスケ、ナルトはまごうことなく本気でやり合えば火影並で、周りへの影響など考えていられない。

 当然巻き込まれる危険性があるので、近づくな危険である。




「でも、イタチさんが教えてくれたんだぜ。斎先生の水鏡なら見れるんじゃないかって。」





 シカマルがにっと笑ってサスケを見る。

 斎の弟子であるイタチならば、斎の水鏡の存在は知っていただろう。 斎も頼まれれば教育の一環と思って鑑賞会にも同意したのだ。




「あいつ・・・今回の件に一枚も二枚もかんでやがるじゃねぇか。」




 サスケは怒りのあまり舌打ちと共に兄の所業に憤る。

 既に戦略を考えたのはイタチであると聞いていることもあり、苛立ちは増す。今頃ほくそ笑んでいるに違いない。




「一枚も二枚もどころか、サクラと一緒に今回主催者じゃねえの?」




 シカマルはサスケの言葉に語弊があると感じた。




「なに?」

「・・・は?、サクラ。おまえら先週模擬戦したよな。イタチさんと。」

「うん。したね。」

「したわね。」




 とサクラは隠すことなくあっさりと事実を認める。




「何してたんだよ。」

「え?万華鏡写輪眼の対処法の勉強?」




 はさらりと真実を答えてみせる。

 天照など特殊な瞳術を持つ万華鏡写輪眼にも、出てくる時の目の文様の変化、タイムラグなど一定の弱点、余裕が存在する。

 が自分の血継限界を駆使して、いかに万華鏡写輪眼に対抗するか、の講義である。




「大変だったわ、やっぱわたしじゃ天照は何しても駄目だったわよね。」




 サクラは桃色の髪を掻き上げる。




「わたしも天照受け損ねて、燃えそうなったしね。」




 もえへへーと苦笑する。

 の白炎は相手のチャクラごと燃やすため、相手の術を簡単に破れる。

 だがはサクラを守る必要もあったため、天照など万華鏡写輪眼の瞳術も基本的にいかにして燃やすか、どの程度のスピードでどこから燃やすか、が重要になってくる。

 最速で破れる方法を探すため、またサクラもが助けるまでどうしたら時間を稼げるか、を学んだのだ。別にが術を破れるので、サクラが探すべきは、が助けるまでの時間、どうすれば長時間自分の手持ちで耐えることが出来るか、だった。




「は?」




 あまりの事実にサスケは驚いてとサクラを見るが、本当なのか二人はけろっとしている。





「イタチさんは要するに直接手を下さなかっただけで、主催者だろ。以上に。」




 シカマルは呆然とするサスケに肩を竦めてみせる。

 彼も彼でストレス発散の術として、とサクラにかけたのだ。




「ま、イタチさんなりの愛情じゃねぇの?」




 シカマルは届かないだろうなと思いながらもサスケを慰める。

 イタチは万華鏡写輪眼という点では、サスケとイタチは同等だが、イタチはの鳳凰を使用できるために、明らかにサスケよりも強い。

 だから直接手を下すのはあまりにも不公平だと思ったのだろう。




「女に負けるくらいなら、兄貴に殴られた方がよっぽどましだったさ。」




 サスケは息を吐いて、ベッドの上の簡易机に突っ伏す。

 プライド上、ほれた女に負けるくらいなら、兄であるイタチに負けた方が百倍ましだった。

敗北感 ( まけた )