サスケが転がり込んでいるのは、とイタチがいるアパートメントだった。

 狭いアパートメントの居間をサスケは使わせてもらっているため、4日ぶりに入院先から戻ると、イタチが料理をしているところだった。




「あぁ、おかえり。」




 鍋を気にしながら、サスケの方を見ることなく言う。




「ただいまー。」




 一緒に帰ってきたは、まだ左手がぐるぐる巻きだったが、何とかサスケの手を借りながら靴を脱いで部屋に入っていく。




「怪我は大丈夫か?」

「うん。多分もうすぐ直る。」




 チャクラが多く傷の治りの早いはナルトと同じく今日退院した。

 明後日からは任務にも出るらしいが、サスケはサクラにやられた肋骨の治りが悪く、しばらくは絶対安静だった。

 とはいえ、2日後からは温泉に皆で行く予定なのだが。




「どうだった?」



 を抱きしめて頭をぐしゃぐしゃにしながら、イタチはサスケの方を向く。

 無表情を装っているようだったが口角が僅かに上がっており、サクラからイタチもあの模擬戦に荷担していたという話を聞いていたこともあって、サスケは思いっきり荷物を台所から続く居間へと投げつけた。




「別に。」

「そうか」




 サスケの短い答えに、ふっとイタチはざまぁみろとでも言う笑みを浮かべた。

 里では既にサスケとナルトのコンビが、とサクラに負けたというのが噂になっており、同期をはじめ知人が病室にこぞって見舞いに来て鬱陶しかった。

 全員が良くやったとの頭を撫で、サクラの雄志を誉める中、いたたまれないサスケとナルトは二人で空を見てふてくされているしかなかった。

 能力の秘匿性の問題もあるため、同期だけだが、それでも同期のほぼ全員が斎の水鏡で鑑賞会をしていたのだ。

 要するにナルトとサスケ、とサクラがタッグを組んでやり合うことは皆承知で、同期一丸となってこの模擬戦の許可を取るために上層部に直談判に訪れたそうだ。

 ちなみに勝敗を触れ回ったのはの父斎かと思っていたが、意外なことにイタチだったらしい。

 苦労をかけたのは本当に理解しているので、遠回しな嫌がらせに、サスケは思わず閉口するしかなかった。




「そういえば、兄貴、任務じゃなかったのか。」

「今日は休みだ。ついでに斎先生が明日の夕方にお好み焼きと甘味をおごってくれるらしい。ナルトやサクラも来ると言っていた。」

「俺は甘いの嫌いだぜ。」

「そうか。俺は好きだ。」




 サスケの嗜好などイタチは全く意に介さず、から離れて鍋を見る。




「今日はうどんだが、それで良いか?一応消化の良いものにしたのだが。」




 とサスケの体調を気にしてだろう。

 ショウガなども既にすってあり、台所の小さなテーブルの上には、だしも用意されていた。サスケは目を細める。

 二人用に買ったというテーブルは本当に手狭で三人座るのがやっただが、どこか温かい。

 両親はまだうちは一族反乱の罪が許されておらず、服役中だが、それでもここには優しい“家庭”が確かにあって、とイタチは温かくサスケを迎えてくれた。

 そこに愛情がないなんて、もう言わない。




「うん。」




 は奥の席に座って、にこりと笑う。

 サスケも戻ってきたし、来年の春にとイタチは結婚することになって、もう少し広い家を近くに借りようという話になっている。

 新婚にまでお邪魔するのは悪いと思ったが、二人はサスケが気兼ねしなくて良いように、ちゃんと別に部屋も用意するつもりらしい。

 複雑な感情は当然まだあるが、それでも素直にサスケは苦労をかけた二人の結婚を喜んでいた。




「それにしても、本当にすばらしいチームワークと戦いぶりだったな。」




 イタチはうどんの入った鍋をそのままぽんとテーブルの真ん中において、に言う。




「兄貴、しょっちゅう修行を見てたって言ってたな。」

「あぁ。この3年間、サクラとの修行は何度となく見たし、任務で一緒になったこともある。二人の連携はすばらしい。戦略次第で絶対にサスケとナルトにも勝てると思った。」

「で、戦略を立てたのが、兄貴ってことかよ。」




 サスケは吐き捨てるように自分の椀にだしを入れながら言った。




「そうだな。」




 隠すこともなく、彼はあっさりと認めて、のお椀と自分のにだしを入れる。




「俺もなかなか出来た作戦だと思った。」




 しみじみと言う様子を見ていると、そのほかにも事細かにいくつも作戦を与えたらしい。

 この感じだといくつか写輪眼の瞳術への対処法をもサクラに教えた様子で、思わずサスケは険しくなる表情を隠しきれなかった。




「それにしてもサクラの気合いがすごかったね。まさか口寄せ蛙ごとナルトを殴り飛ばすと思わなかったもん。」




 はお箸でショウガとネギをだしの中に入れながら、小さく息を吐いた。




「それよりも俺はサクラがサスケを殴った時のあの清々しい顔が忘れられないがな。」





 イタチはにっこりとに笑って、うどんを鍋からとる。

 笑顔は確実にサスケに対するあてつけだろう。帰ってきてからと言うもの、イタチの嫌がらせはちくちくと心に響く。

 ただサスケも苦労をかけた兄への罪悪感はあるし、こうして実際に家に住まわせてもらっているのだから文句を言うことも出来ず、甘んじて受けるしかなかった。




「ところで結局サスケは下忍のままなのか?」

「決まってんだろ。俺は犯罪者だぜ。」




 隊長になれるような権限など与えられるはずもない。

 サスケの行為を振り返れば、今もやら友人達の部隊に配属されていることからもわかるとおり、信用されていないのだ。

 実力の問題ではなく、資格がない。




「それに、遠慮なく殴れるのがありがたい。」




 サスケはと任務を共にすることが増えた。

 は上忍で自他共に認める優秀な忍であり、同期の中でも一番最初に昇進して、今も高ランクの任務に隊長として配属されることが多い。

 彼女はもともと人に命令するのが苦手で、任務を班員に与える時も、「お願いします。」だ。

 だからこそをなめ腐る馬鹿も後を絶たない。

 そういう時はサスケの出番だ。サスケは元々犯罪者で誰もがサスケに冷たい目を向けている、今更班員の一人や二人殴っても評価は全く変わらない。




「そういえばサクラも似たようなことをしていたな。」

「・・・そうなのか?」

「姉妹弟子で良かったと言っていたよ。話だけ聞いて殴れないとかむかつきすぎて憤死しそうだ・・・とか。まぁ、それで任務前に病院送りになった奴が何人もいたさ。」




 イタチは別段困ったという様子もない。おそらくざまぁ見ろと思っているのだろう。のことになるとなかなか他人に冷たいのがイタチである。




「本当にサクラは恐ろしいな・・・・」




 敗因の半分はサクラをなめたことにあったサスケは、思わず顔が引きつる。その話を先に聞いていれば、もう少し彼女を警戒したかも知れない。

 サスケは彼女に殴られた肋骨がまだ痛む気がして、胸元を撫でる。

 肋骨を粉砕する勢いで、内臓まで完全に損傷していたため大変だったと綱手は話していた。サスケには医療忍術などさっぱり分からないのでどんな状態だったか知らないが、死んでもおかしくなかったという。




「サクラもこれですっきりしただろうから、きっと結果オーライだよ。」




 はにこにこ笑って言う。

 今までのサクラの苦労の精算は、サスケを殺したくなるほど大きかったんだよと言われた気がして、サスケはますます頬を引きつらせた。


共犯者 ( ともに協力し合う犯人 )