自来也はじっとイタチの背中を見つめる。

 今まで多分、のチャクラを押さえる方法を調べていることを表向きに見せたことはなかっただろうが、危篤でいつ死ぬとも限らない状態では、側を離れることは出来ない。

 斎が十年をかけて探した答えを、イタチは多分二年の間にほとんど探し当てている。

 その努力たるや尋常なものではなかっただろう。暗部に入ってから任務に忙殺されていたが、何も任務だけではなかったということだ。




「・・・、もしも答えを探し当てても、それは非常に難しい話だ。イタチ。」




 自来也はイタチの肩を叩いて、首を振る。




「その答えを斎は見つけておる。」

「え?」

「でも、対価が大きすぎる。」




 イタチと同じように、の父である斎も死にものぐるいでを生かす方法を探し当てようと努力した。しかし、それは徒労に終わった。

 答えは見つかった。




「おまえが一番難題だと思っているものは、簡単に解決する。他人のチャクラが駄目なら、のチャクラで封印すれば良い。のチャクラを引っ張れば良いのだ。」




 自来也の言葉に、イタチは目を見張る。

 確かに鳳凰のチャクラは確かに他者のチャクラを燃やす力を持つが、その両方のチャクラを持つのはである。のチャクラと鳳凰のチャクラは別に動くが、同じ性質のものだ。

 他者のチャクラで封印できないなら、一瞬でものチャクラに干渉し、のチャクラを操って鳳凰のチャクラを他人に封印すれば良い。




「じゃあ、」




 イタチは長年努力しても探し当てることの出来なかった問いへの答えに驚き、自来也に詰め寄る。




「だが、二つ問題がある。」




 自来也は悲しそうな顔で、イタチを見る。それが、斎がどうしてもこの術式をに出来なかった理由。




「一つは、のチャクラに干渉するためには形質変化が一緒である必要がある。もう一つは、鳳凰が別意志で生きとる。要する術者の方が食いつぶされる可能性が高いことだ」




 鳳凰のチャクラはと一緒に存在しているが、厳密に言うならばが鳳凰を体の中に飼っていると思った方が正しい。

 チャクラをではない他者に封じようとすれば、鳳凰は抵抗するだろう。そのことはの体に負担をかけるし、同時にかなりの能力を持った術者でないと、鳳凰を押さえることがそもそも出来ない。その上莫大なチャクラを身に宿すことになるのだ。器の技量も重要になってくる。

 当然鳳凰を押さえることに失敗したら、燃やされて術者は死ぬだろう。

 また、のチャクラに干渉し損ねて封印術に失敗しても、末路は同じだ。人柱力が尾獣を抜かれたら死ぬと言うことはよく知られている。封印術に失敗すれば術者自体も死ぬことになるだろう。

 術者のリスクが高すぎる。




「でも、斎先生なら、可能性が。」




 イタチは自来也の腕を掴み、言う。

 斎は強いため、確かにチャクラを燃やす性質は厄介でも、鳳凰を押さえる術を考えられないことはないだろう。手数の多く、透先眼という特殊な目を持っている。

 力で鳳凰を押さえることだって、十分に出来るはずだ。




「無理だ。あいつはそもそも最初のステップを満たしておらん。形質変化が、あわんのだ。」




 例え鳳凰を力で押さえ込めても、と形質変化があわなければ、のチャクラに干渉することが出来ない。よって自分に封印することも出来ない。




「鳳凰に勝つために、そしてその器となるためには、類い希なる忍びの才能を持っておらねばならん。その上、形質変化も一緒でないといかん。」




 自来也は目を伏せてを見る。

 悲しいことには炎の血継限界と、もう一つ自分の形質変化を持っている。要するに幼いその体に、既に二つの形質変化を持っていることになる。

 これが、大きな問題となった。




「器にもかなりの技量がいる上に、火と希少な風と来れば、形質変化で既に当てはまる忍はおらんのだ。」




 ましてや、見ず知らずの人間では、彼女に命はかけられまい。

 自来也やカカシ、の両親である斎や他の多くの忍達が名乗りを上げたが、そもそも形質変化が当てはまらないことが多く、不可能だった。




「・・・それが、答えだ。」




 自来也は目を細めてイタチを見る。斎は確かに答えを探し当てた。でも、役に立たない答えだったのだ。

 鳳凰は、強い。

 下手をすればチャクラの形質からいけば九尾以上に厄介で、並大抵の忍では殺されて終わりだ。実際に何人か炎一族の忍が東宮のためにと器になると名乗り出て挑戦したことがあるが、結局は死んだ。

 上忍レベルのものでも、駄目だったため、このことは炎一族内では極秘とされている。

 炎一族は東宮を自分たちの命よりも大切に思い、敬っている。無謀とは分かっていても、のために命を捨て、僅かでも可能性にかけてみたいと言うことは、わかりきったことだった。




「だから、」




 誰もが、諦めるしかなかった。

 自来也は弟子の斎が、その妻の蒼雪が娘のことに心を痛め、泣きじゃくるのを長年見てきた。心を痛めてきたが、もうどうしようもなかった。

 大人の誰もがそれを理解している。




「そんな簡単に諦めるんですか。」





 イタチは惚けたような声音で言って、自来也を見上げる。




「大きいことだ。イタチ。の命はそりゃ重い。だが、他の人間の命も同じように重いんだ。」




 小さな命のために、普通に生きられる命を失うかも知れない。それは非常に大きな決断であり、確率が低ければ低いほど、なおさらだ。

 自来也は、未だにを生かす方法を探しているイタチにあきらめを促すように言う。

 希望は、ないのだ。

 確かに人の命を失うというのは、重いことだが、諦めることも大人になるために、また超えていくために必要な時もある。

 どうにもならないものが、この世界にはあるのだと、教えたかった。

 だが、返ってきたのはあまりにはっきりとした言葉。




「小さいことですよ。」




 イタチは軽く、鼻で笑うように言って、自来也をまっすぐ見上げる。





「先生も本当に残酷な人ですね。なんで、言ってくれなかったんだか。」





 優しく漆黒の瞳を細め、もう一度を見下ろしてから、安堵したように息を吐く。それから、瞳の色を緋色に変えた。

 うちは一族の証である、写輪眼だ。




「詳しいやり方を教えてください。」

「何?」

「俺なら、出来るはずだ。」





 イタチは緋色の瞳で自来也を見据え、はっきりと断言する。




「・・おまえ、風と、火か?」

「そうです。俺なら、のチャクラに干渉出来る。」




 今の弱り切ったならば、写輪眼でも操ることが出来るだろう。それは要するにのチャクラに干渉することが出来ると言うことだ。形質変化が同じであれば、なおさら。




「だ、だが、わかってるのか?」




 自来也はイタチが形質変化の条件を満たしていることを、理解する。

 だが、それは所詮最低条件を満たしたことにしかならない。鳳凰は九尾と同じように莫大なチャクラを持つ存在であり、同時に他人のチャクラを燃やし、術を無効化させる力を持つ、厄介な存在だ。




「たったそれだけで良いなら、俺はいつだってのために命をかけられる。」





 この数年間、ずっとイタチはを失う覚悟を求められ、出来ずにここまで来た。

 その絶望感に比べれば、自分が命を失うかも知れないという覚悟をする方が、ずっと、遙かに簡単な決断だった。








( いきる )