目が覚めるとなんだか不思議な空間にいた。

 綺麗な野原と、青い空。木も沢山あり、美しい自然とでも言うべきものが見渡す限り広がる、山のど真ん中とでも言うべき場所だ。





「なんだ、ここ」






 を助けるために、鳳凰のチャクラを自分に封印する役目を担ったはずだ。

 自来也は確か、まずのチャクラに干渉しなければならないと言っていた。だが、そもそもは一体どこにいるのだろうか。

 しっかりとやらなければならないことは覚えているのに、何故か、どこにもが見あたらない。




「ひとまず、を探すか。」




 イタチは鳳凰に真っ先に会わないことを願いながら、奥へと進んでいく。その時、ふっと見覚えのある何かが、イタチの傍を通り過ぎ、風のように駆け抜けていく。

 それはの白炎の媒介である、白い蝶だった。

 鱗粉をまき散らしながら、イタチの周りを数度回ると、案内するとでも言うようにふわりと奥へと飛んでいく。





「・・・案内してくれるのか?」




 疑いながらも、イタチは蝶の去って行った奥へと進んでいくと、森の中から少し開けた場所に出た。




「湖、湖、か。」




 泉と言うには大きく、湖と言うには小さいが、見渡す限り水は澄んでいて美しい。透明度が高く、水底にある水草には赤い花が咲いているのがはっきりと見える。魚も泳いでいて、時々鳥が鳴いている声が響き渡る。

 白い蝶はイタチを誘うように鱗粉をまき散らして湖の中央を舞っている。




「・・・、」




 イタチはチャクラで水面に吸着し、湖の真ん中へと歩いて行くことにした。罠の可能性もあるため慎重に気をつけて歩いていたが、はっとして湖の中央へ駆けだした。




!」




 湖の中央へ、半分水につかる形でがいた。

 しかしいつもの長い紺色の髪は、真っ白で、ほとんど水の中にあり、体も半分は水につかっており、顔も沈みかけているところだった。慌ててイタチはを湖の中から引き上げ、白い頬を軽く叩く。




っ!」




 声をかけるが、反応はない。

 の顔は相変わらず紙のように白く、温もりも全くと言って良いほどなかった。

 の蝶がイタチの焦りも知らず、ふわふわとイタチの周りを飛んでいる。イタチはの様子を確認しながら、初めてが濡れていないことに気づく。イタチも同じだ。

 湖の中には水がたたえられ、魚が泳いでいるというのに、沈みかけていたはずのはまったく濡れておらず、またイタチの手も濡れていない。

 イタチは自分の写輪眼で、その湖をじっと見据える。




「これは、」




 チャクラの塊だ。水の形をしているが、写輪眼で見る限り湖はそこにあるはずなのに透明で、イタチは慌ててを抱えたまま、湖から退く。

 それと同時に、湖の水が、まるで生き物のように突然イタチとを捕まえたいとでも言うように、動いた。




「速い、」




 イタチは空中で避けることも出来ず、咄嗟に万華鏡写輪眼に自分の目を変え、須佐能乎で自分の身を守る。

 湖の外に何とか着地したが、やはり白炎だったらしく須佐能乎は徐々に崩壊していく。




「・・・」




 イタチは湖からどうにか距離をとるべく、ゆっくりと後ろに下がるが、その途端に周囲の世界が崩壊して、突然真っ暗になった。

 恐れるようにせわしなく、白炎の蝶がイタチの周りを飛ぶ。

 イタチはの体をもう一度抱え直して、じっと湖のあったあたりをじっと見据える。崩壊していく自然そのままの世界はすべて真っ暗の牢のような場所へと行き着き、湖のあった場所にいたのは、巨大な白色の鳥だった。




「あれが、鳳凰、か?」




 イタチは白炎の化身をまっすぐと見据える。色としてチャクラの流れを見る写輪眼を通せば、本来白炎使いの炎は透明で、見えない。だが、背景が陽炎のように揺らぐほどの莫大なチャクラだ。

 写輪眼でも、チャクラの流れが視認できる。

 イタチはあまりのチャクラの量にゴクリと唾を飲み込む。

 が莫大なチャクラを持っていることは昔から知っていたし、うちは一族の者たちが皆、に怯えていたのは知っていたが、まさかこれほどのものだとは思いもしなかった。

 多分イタチ自身、の可愛らしいイメージが強すぎて、どこかで見ないようにしていたのかも知れない。




「・・・、」




 の体を軽く揺すったが、が目を覚ます気配はない。

 自来也はのチャクラに干渉して、と言う言い方をしていたが、が目を覚まさないだけで泣く、実体なのかすらわからないが、チャクラの流れすらも見えず、どうしたら良いのかイタチ自身よく分からなかった。




「勝てる、か?」




 イタチは冷静に判断すべく、鳳凰の動向をじっと窺う。

 真っ暗闇の中だというのに、鳳凰の力なのか彼の周辺は酷く明るく、酷い熱気がこちらまでやってくる。

 白炎はチャクラを燃やすという性質を持つだけではなく、高温の“炎”だ。

 火遁などとは比べものにならないほどの温度を誇る。




「・・・やばいな、」




 自来也にのチャクラを使えと言われたが、そもそもののチャクラとやらがどこにも見あたらない。

 もともとイタチの形質変化は風と火であるが、火ではこの鳳凰に勝つのは百%無理だ。

 風は火を煽るため、逆にイタチが鳳凰に勝てない程度の火遁しかない時点で、既に欠点にしかなり得ない。


 うちは一族だけに、正直水遁は苦手だ。


 そもそものチャクラに干渉するため形質変化は火と風が必要だと言うが、それだけでこの鳳凰に勝つのは非常に厳しい。

 よほど水遁などが得意でないと、と思いながら、イタチはの父である斎の姿を思い出す。

 彼は形質変化が水と風であるため、水遁が得意だ。





「どうする?」





 イタチは自問する。

 あと使える手と言えば、いくつかの水遁と、火遁の上に特殊な効能を持つ万華鏡写輪眼故のいくつかの術だけだ。万華鏡写輪眼の利点が大いに使えると思っていたが、須佐能乎だとは言え白炎に煽られて保てるのは多分、2分程度が限度だ。

 白炎はチャクラそのものを燃やすため、幻術はすぐに穴が出来る。

 手数は正直限られている上、高らかに声を上げている鳳凰はあまり自分に友好的では全くなさそうだった。




「・・・困ったが、まぁ、どうにかするしかないか。」




 諦めても、諦めなくてもここまで来た限り、イタチが生き残る道はこの鳳凰をどうするかしかない。

 とともに死ぬか、と共に生きるか。




「面白い、賭だな。」




 そういうのも、嫌いじゃない。

 イタチは大きく息を吐いて、の頭をそっと撫でる。髪の毛は何故か銀色と言うべきか、真っ白だが、間違いなくのようだ。その顔立ちをイタチが忘れるはずもない。




「一緒に、斎先生の所に帰ろう。」




 あのいつもひょうひょうとしている先生が泣きそうな顔をしてるんだぞ、と心の中で呟く。彼を、と二人で笑ってやらなければならない。




「出し惜しみをしても、駄目だな。」




 イタチは須佐能乎を身に纏い、鳳凰に緋色の瞳を向ける。

 鳳凰もその気らしく、大きな咆哮を上げていた血を睨み付けている。真っ白な鳳凰はそれでいながら、目は真っ赤で、炎のように赤い。

 莫大なチャクラが、鳳凰の口元へと集まる。

 それが高密度のチャクラの塊となり、放出される瞬間、イタチの須佐能乎が大きな八咫鏡を構えた。

 一瞬閃光が目をついたと思うと、光が視界を支配する。

 やばい、と思う間すらもなかった。




「・・・、」





 放出されたビームのような閃光が、イタチの真横をそれて突き抜けていく。嫌な感じがして、肩あたりに手をやれば、掠ったわけでもないのに服が燃えていた。幸い火傷はない。

 一瞬で須佐能乎と八咫鏡をも突き抜けてきたとでも言うのか。

 白炎が他人のチャクラを燃やすと言っても、タイムラグはあると思っていたイタチは自分の予想が外れただけでなく、鳳凰を甘く見ていたことにぞっとする。

 思えばイタチは、白炎のことを何も知らない。

 神の系譜と戦う機会などないし、幸い蒼雪は木の葉の忍であり、敵同士となることは全くなかった。あまりにも身近すぎて、忘れていたのかも知れない。




「ビームは、防御不可か。」




 確認するように口にして、後ろのを確認すれば、無傷のようだった。鳳凰にはを傷つける気はないのか、もしくは後ろのは実体がなく、鳳凰では傷つけられないのか。

 イタチはもう一度自分の体を確認する。服は燃えていたが、幸い掠った右手も無事そうだった。

 ちらりと当たりを確認すれば、相変わらずの炎の媒介でもある白い白炎の蝶は、相変わらずイタチの周りを鱗粉をまき散らしながら、飛んでいる。




「・・・もしかすると、近づく必要はないのか?」




 そもそも白炎の塊である鳳凰に生身のイタチが近づけば、炎一族宗家のように火に強い血継限界を持っているわけでもないので、死ぬに決まっている。

 これは骨が折れるな、とイタチは心の中で呟いた。


( きぼうのかぜ )