ふわふわと揺れるような感覚だった。
体が酷く軽くて、ふわふわとなんだか自由に飛べる感じだ。
森が綺麗で、楽しくて、あちこちを見て回っていたら、何故かそこにすごく怖い顔をしたイタチがいた。怖いというか、真剣というか、真面目な顔をしている。
何してるのだろう、
遊んで、と言おうとしたけれど、何故か声が出なくて彼の周りをまわっていたら、彼の表行が少し崩れた。
「・・・案内してくれるのか?」
ここはが知っている場所ではなかったけれど、彼が遊んでくれるならなんだって良かった。最近寝たきりで、ちっとも遊べなかったのだ。
今は全くしんどくなくて、体も軽い。
近くに綺麗な水たまりがあったからそこに行ったら魚でもいるかなと、はイタチを連れて行くことにした。
水面の上から中を見下ろすと、透明な透き通った水の中で魚が泳ぎ、綺麗な水草が赤い花を咲かせていた。
「湖、湖、か。」
イタチは当たりを見回して、そう呟いた。
みずうみ、みずたまりじゃないのか。
はそういえば昔同じことをサスケに教えてもらったことがあった気がするな、と思いながら、湖の中央へと進んでいく。
あれ?
そこでは初めて首を傾げた。
自分が、そこにいる。
水面に半分沈んだ形で、銀色の髪の少女がそこに眠っていた。髪の毛は銀色だが、間違いなくだ。
「、っ!」
イタチがその銀色の髪の少女を引き上げ、頬を軽く叩く。焦っているイタチを見ながら、はますます事態が飲み込めず、自分とおぼしき少女を見下ろす。
あれ?わたしが、いる。
あまりの状況に考え込んでいると、イタチがを抱えたまま後ろに飛んだ。それを捕まえるように湖の水がうごめく。
一瞬で世界は漆黒へと変わり、湖は強大な白炎の鳳凰へと姿を変えた。
わたし、・・?
イタチの腕に抱えられているのは、間違いなくだ。でもそのは眠っていて、はここにいる。そしてあの鳳凰なが知っているものだ。あれものだ。
体と心と、力が別々に別の場所に存在しているような、乖離を感じて、ますますは理解できなくなった。
鳳凰は咆哮を上げて、イタチを睨み付けている。
鳳凰の目の前に球体が現れ、それが凝縮されていく。イタチがそれを防ぐべく須佐能乎を出現させ、攻撃に防御する態勢を整えた。
次の瞬間、閃光があっという間に漆黒の闇を切り裂いていく。
須佐能乎は八咫鏡を構えていたが、ビームの前には全く意味がなく、あっという間に崩壊し、イタチは呆然としている。
鳳凰は明らかにイタチに敵意を持っているのか、殺す気らしい。
だめ、だめ、
はくるくるイタチの周りを回る。
イタチに酷いことはしないで、
強く強く、は鳳凰に対して言う。
彼はの一番大切な人で、自分を一番大切にしてくれた人だ。だから彼に酷いことをしないでと、は心からそうお願いした。
ぴたっと今まで怒っていた鳳凰が、動きを止めて、じっと白い蝶の動向を窺う。
イタチが蝶の方に目を向けると相変わらず白炎の蝶はイタチの周りをくるくると回って、鱗粉をまき散らしている。
「・・・、」
鳳凰は羽を閉じ、ただ炎と同じ赤い瞳で蝶の動向を見ていた、が、途端に鳳凰は体を小さくした。視界を埋め尽くすくらいに巨大だった白色の鳳凰が急速に小さくなっていく。
イタチが気づいた時には、あっという間に10歳ぐらいの少年の姿になっていた。
「おまえ、」
「出てけ。」
開口一番、少年はそう言った。
銀色の髪に灰青色の瞳、白い肌。神社の神主が着るような古い形の着物を着た少年はイタチを睨み付けていた。
「おまえが、鳳凰なのか?」
鳳凰が人型をとれるという話は聞いたことが無かったし、どうして姿が幼いのかもイタチには良く理解できなかった。
「今まで、おまえが殺してきたのか?」
のチャクラを封印することに、何人か炎一族の者が挑戦したと聞いている。その誰もがこの鳳凰に敵わず、失敗して死んだ、とも。
「あたりまえだ!なんで離れなきゃならないんだ!」
少年は苛立った声音でそう言って、莫大なチャクラをざわつかせる。姿は変われども彼は鳳凰であるようで、その言葉にはイタチの背中を悪寒が走るほどの威圧感があった。
鳳凰の莫大なチャクラに当てられ、鳥肌が立つ。
「俺も殺す気なのか?」
「出て行かないなら、殺す!」
はっきりと少年はそう宣言した。毛を逆立てる猫のようにイタチを威嚇する。
「が生きるためには、悪いが、俺はおまえを俺に封印しないといけないんだ。」
イタチはため息をついて、争いになるのは承知で彼に告げた。
はもうこの鳳凰のチャクラを自分の体で支えることが出来ない。大きすぎるチャクラは、の体を既に限界まで蝕んでいて、余命は幾ばくもない状態だ。
イタチは自分の目を万華鏡写輪眼から普通の目に戻さず、鳳凰の少年の動向から瞬きするいとますら惜しいほどに凝視する。
「え?」
襲われるかと思っていたイタチの予想に反して、鳳凰の少年は目をぱちくりさせた。
「なんで?」
ふっと彼の体から放たれていた痛いほどの殺気が消える。
「は体が弱くて、おまえのチャクラを支えられない。そのせいで、死にかけてる。」
「え?」
「だから、おまえを俺に封じる。が生きていくためにはそうするしかないんだ。」
イタチは少年の前に歩み寄り、説明をする。
「嘘だ!今までだって、大丈夫だった。神の系譜だ。そんなはずない!おまえが力を欲しいから、そんなこと言うんだ!!」
彼は酷く驚き、狼狽えた表情をして、信じられないと首を振った。
「大丈夫じゃないから、俺はここにいるんだ。」
「私は何人もそうやって守ってきた!そんなはずない!!」
鳳凰はイタチを睨み付けて、体から白炎を生み出す。それがイタチの周囲を囲もうとした時、ずっとイタチの傍でぱたぱたと舞っていた蝶の鱗粉が、鳳凰の白炎を押し返す。
鳳凰は驚いた顔で蝶を見たが、ますます殺意を持った目で、イタチを見た。
「・・・」
これ以上の説得は無理か、とイタチはため息をつく。じわじわとだが、鳳凰がイタチを守っている白い蝶を鱗粉を、押し返していた。
「俺が信じられないなら、それで良いがな。おまえがを殺すなら、俺がおまえを殺す。」
イタチは一歩後ろに下がり、緋色の瞳で彼を睨み付ける。
鳳凰の殺気など怯むものではない。を守るために強くなったのだ。むしろを傷つけるその鳳凰の方がイタチにとっては十分に殺意の対象だった。
すると、鳳凰は眉間に皺を寄せ、子供のような顔を真っ赤にして怒りを浮かべる。
少年が炎を纏った手をイタチに向けようとしたその瞬間、白い蝶が彼の目の前で大きく弾け、分裂した。
「なっ、」
少年は呆然とした面持ちになって、その蝶を凝視し、振り払おうとする。だが、鱗粉がぱっと散っただけで、増殖を続けて少年を包む。
「やめろっ!!!」
少年は手を動かしてその白い蝶から逃れようとするが、あまりに蝶の数が多すぎて、鱗粉をまき散らすだけだ。
「・・?」
イタチは白い蝶々を窺うように見る。炎の蝶はイタチに目を向けてもらったことが嬉しいのか、一匹の蝶がイタチの周りを楽しそうにぱたぱたせわしなく舞う。
「え、あっちのは?」
イタチは白い蝶と後ろに眠っているとおぼしき少女を交互に見比べる。仮にこの白い蝶がのチャクラなら、あれは何。
すると白い蝶はぱたぱたとの方へと飛んでいくと、ふっと突然消えた。
「・・・え?」
のチャクラすら見失ったか、とイタチは固まったが、次の瞬間、むくりと少女が起き上がる。
「イタチがいる!」
起き上がったがくるりと振り返り、目を輝かせて嬉しそうな顔をする。声音は確かになのだが、目の色もいつもの紺色ではなく灰青色で、一瞬イタチは硬直した。
髪の色先ほどは紺色だったのに、今は美しいほどの白銀で何やら違和感がある。そんなこと知らないとでも言うように少女はぱっと立ち上がって、イタチへと駆け寄ろうと一歩を踏み出した。
が。
「わちゃ!」
べしゃ、とは闇に足を取られたのか、それともただ単にけつまずいたのか、見事に転ぶ。
「・・・」
あ、これは間違いなくだな。
目の色も髪の色も違うが、イタチは何となく納得した。というか納得するしかなかった。
路
( みち )