自分の夢の中にイタチがいることが嬉しくて、自由に動けることが嬉しくて、はイタチに思い切り抱きつく。

 先ほどちょっとこけたけれど、そんなことは関係ない。





「イタチだーーー!!」





 体が軽いから、今なら抱きつける。思いっきり体当たりの勢いで抱きついたけれど、ちゃんとイタチは抱きしめてくれた。

 最近体が辛くて、ろくに抱きつくことも出来なかった。





。会いたかった。」




 イタチはが抱きつけば、強く抱き返してくれる。震えるような声で、会いたかったと言われて、も目を細めた。幼い頃からずっとともにあった柔らかい薫りはイタチで、うれしさのあまりイタチの肩に頬を寄せた。

 会いたかった、こうして抱きしめたかったのは、だって一緒だ。




「なんでこんなところにいるの?どうしたの?」




 はイタチを見上げて尋ねる。

 ここは、の夢の中だった。が要するに鳳凰を飼っている空間なのだが、はそれを夢の中でしか見ないため、夢の中だと思い込んでいた。





「おまえを、助けに来たんだ。」
 



 珍しく緋色の瞳のイタチは、少し戸惑った様子での髪を撫でつけて、言った。




「助け、に?」





 はよく分からず、首を傾げる。





「そうだ。鳳凰を封印して、おまえのチャクラを半減させる。」

「なんで?彼はわたしをまもってくれてるだけだよ。」






 イタチの言うことがわからない。

 鳳凰はが生まれた時からずっと一緒にいて、自分を守ってくれる存在だ。の白炎がが敵に攻撃を受けた際、自動防御するのは、彼の強い意志が未だにの白炎に宿っているからだ。 





「イタチに攻撃するの、よくないけど、わるい子じゃないよ。」





 は必死でイタチに言う。

 いつも彼はを守ろうとしてくれているだけで、確かにたまに酷いことをする時もあるし、過剰防衛の時もあるけれど、決して悪い子ではないのだ。




「おまえは、彼のチャクラを支えられないんだ。だから、病気なんだよ。」




 イタチはゆっくりとの前に膝をつき、そっとの銀色の髪を撫でる。

 彼は確かに悪い子ではないのかも知れない。だが、は鳳凰のチャクラを支えられるほど、体が強くはないのだ。






「だから鳳凰のチャクラを俺に封印する。そうすれば、おまえの病気は治る。」






 言い聞かせるように、イタチは穏やかにに言った。





「そいつは嘘を言ってるんだ!そいつはうちはだぞ!」




 鳳凰がよく分からないを怒鳴りつける。歴代の宗主の中にも鳳凰を持っている人間は何人もおり、それを欲する忍もたくさんいた。

 中にはうちは一族の者もいたのかも知れない。

 確かにその危険性を鳳凰が疑うのは当然のことだし、ましてや幼いを言いなりにするのは簡単だと誰でも思うだろう。だが、きちんと説明すれば、にはイタチが言っている意味がわかるだろうとイタチは思う。





「彼は、お友達だよ。わたしに酷いことは、しないよ。」





 はイタチの手を握って、首を振る。





「うん。でもな、。おまえのチャクラは、大きすぎるんだ。だから、このままじゃおまえが死んでしまう。鳳凰とおまえ、二つのチャクラは支えられないんだ。」





 イタチはの見たこともない灰青色の瞳をじっと見つめる。

 このが現実ののどこまでの記憶を持っているかは分からないが、イタチを守ろうとした以上、ある程度理解しているだろう。そして理解できるはずだ。





「死んじゃう・・・うん。、死んじゃう。」




 は何度か灰青色の瞳をぱちぱち瞬いて、思い出したように鳳凰を振り返った。




「そうだ。死んじゃうんだよ。言うの忘れてた。」

「なに?」




 鳳凰は初めて聞く話だったのだろう、目を丸くしてを凝視する。





「言うの忘れてた。もうすぐ死ぬの。あと1日か二日だって。」





 青白宮と斎の話を聞いていたのだろう。イタチはずきっと心が痛むのを感じた。あと1日ほどで、もうは死ぬ。

 その話を聞いた時、イタチはどれほどの悲しみに包まれたか、は知らないだろう。なのに、当の本人であるはさも当たり前のように言う。受け入れている。





「なんで?」





 鳳凰は呆然とした面持ちのままに問う。





「ずっとあんまりよくなかったけど、どんどん悪くなってたから。だから。」

「だから、俺がここにいるんだ。」





 イタチは鳳凰を見つめる。理解していなかった彼にも、信じられなかった彼にも、分かったはずだ。




「おまえは、を傷つけるんだ。」




 の肩を抱きながら、イタチは鳳凰に言う。くしゃり、と鳳凰の少年の表情が歪み、一緒に空間も歪む。




「私はを守りたかっただけなんだ!」




 咆哮のような怒鳴り声音が、空間のすべてを支配する。





「我らが子らを守りたかっただけなのに!!なんで!?」






 悲痛な声が当たりに響き渡る。少年の表情は泣きそうだった。

 生まれた時から、は鳳凰を体の中に飼っていた。そういう白炎使いは、宗家の中に何人かいたのは事実らしい。ただ、のように元から莫大なチャクラを持って生まれており、鳳凰と重複したのは初めてだと聞いている。

 この鳳凰が何であるかをイタチは知らない、

 だが、言葉尻からただを守りたいという意志だけは感じられた。今までそう思って、鳳凰はを守ってきたのだろう。





「あぁ、俺もを守りたいよ。」






 イタチはの肩を抱き寄せ、目尻を下げる。




「だから、手を貸してくれ。」




 気持ちは、イタチも鳳凰も同じはずだ。を守りたいと思っている。

 ただ、鳳凰がの中で、を守ることは不可能だ。彼の大きすぎる力を支えるだけの健全な体を、は持っていない。





「・・・その気持ちに、嘘はないんだな。」





 少年の姿をした鳳凰はじっと炎のように煌煌と赤い瞳で、イタチを値踏みするように見た。





「もちろんだ。でなければ俺はここにいない。」





 が生きていること、生きていくことを何よりも望んだからこそ、イタチはここにいるのだ。その気持ちには欠片の嘘偽りもない。





「私がおまえに封印されれば、は助かるんだな。」





 確認するように、鳳凰はもう一度イタチに問うた。




「あぁ。」





 イタチは鳳凰に対してしっかりと頷く。

 チャクラを半減させれば、少なくともは生まれてからずっと悩まされていた体調不良から開放される。様々なものを見ることが出来るはずだ。





「守りたかった、だけだったのに。」





 掠れるような震えた声で、鳳凰は自分の手の平をじっと見つめた。

 先ほどの言葉からも分かるのは、間違いなく鳳凰にを傷つける意志はなく、よかれと思ってに宿っていたのだろう。また、イタチを敵と見なし、を守ろうとしていたことは明白で、このような事態を予想していなかったように見える。





「・・・あぁ、守ってくれ。」




 イタチは鳳凰に向けて、笑う。





を、一緒に。」





 これから何があるのか分からない。が回復すれば、外に出て行くことも増えていくだろう。危険も同時に増えるはずだ。

 イタチは強いが、十分ではない。彼の力を借りる日もくるかもしれない。





「そうだな。おまえが死ねば困る。悪くはないな。」





 鳳凰は事態をすべて理解し、納得したのだろう。笑う。





「え、さよならしなきゃだめなの?」




 が、灰青色の瞳に涙をためて、イタチを見上げる。イタチはの目尻をそっと指先で拭って、首を振った。




「違うよ。今度は俺と一緒にいるだけだ。」





 守ってくれることに、変わりはない。

 そう説明すれば、銀色の髪をしたは寂しそうながら納得出来たのか、イタチから離れ、鳳凰の少年の元へと歩み寄った。





「またね、」 






 がふわりと鳳凰の少年を抱きしめる。





「うん。またな。」





 少年が答えたと同時に、莫大なチャクラが一瞬にして圧縮され、今まであった空間が崩壊していくのを感じて、イタチは強く瞼を閉じた。





( みち )