うちは邸は昔と全く変わっていなかった。
変わったことと言えば、暗部がミコトとフガクの見張りとして配備されていること、二人が勝手に出かけることが出来ない軟禁状態であることだけだった。
木の葉の里内での差別が原因とは言え、イタチは両親が木の葉に反逆したことについて、非常に怒っていた。また、イタチもうちは一族の反逆を里に密告したこともあり、ほとんど互いに会うことがなかった。
サスケも同じで、イタチから事情を聞きすべてを知り、すべての元凶がミコトとフガクだと理解した時、やはりどうしてもクーデターという強硬手段に出た事実を許すことが出来なかったらしい。
との結婚式の際は特別にミコトとフガクも出席を許されていたが、イタチは一言も彼らと話していない。サスケも同じだ。兄弟思う所は違えど、行動は一緒だった。
だと言うのに、はしょっちゅう牢にまでミコトとフガクに会いに言っていたという。
「妊娠1ヶ月ちょっとだそうです。」
がぽやーとした雰囲気のまま言うと、フガクは膝の上に湯飲みを落とした。
「ちょっ、お父さんっ!」
ミコトは慌てて雑巾を台所に取りに行く。
フガクはなんと言っていいのか分からないらしく、イタチとの顔を何度も見比べて、呆然としている。イタチは素知らぬ顔で湯飲みのお茶をすすっていた。
はフガクが湯飲みを落としたことに驚いている。その後ろでサスケは驚く気持ちが十分に理解できて、はーっとため息をついた。
「そりゃな。」
特に雰囲気として、17歳で幼いから聞くのと、22歳で適齢期のイタチから聞くのでは、子供が出来たと言う報告も、全く違う風に聞こえる。
から聞くのは、幼い容姿もあってなかなか衝撃的だ。
「そ、それにしても早かったわね。」
雑巾を持ってきてそれでフガクの濡れた手やお膳を拭きながら、ミコトも驚きの声を上げる。
17歳ののことを考えれば、子供はもう少し待つと全員が思っていたのだろう。サスケも同じことを思っていたので、母の考えも納得出来る。
「なんか、出来ちゃったから。」
は間の抜けた声で的外れな答えを返した。
まるで立派な人参が勝手に畑のど真ん中に生えたような言い方だが、当然種をまかなければ人参も生えない。
種をまいた方の人間は涼しい顔で、出された芋ようかんを甘いもの嫌いのサスケの分まできっちり平らげていた。
「でも、これからどうするの?ご実家に?」
今はイタチとサスケ、そしての三人暮らしである。イタチは任務で忙しく、サスケも気が利かないし、そもそも女性ではない。やはり妊娠と言えば年上の女性と共にいるのが安心できるだろう。
の母、蒼雪は健在だし、実家に戻るのだろうかとミコトが問えば、は少し考えるそぶりを見せた。
「サスケも俺もいない時は、斎先生のところだよな。」
イタチはに確認するように言う。
サスケは任務が少ないのでほとんどないが、本当にたまに、サスケもイタチも不在の時がある。何かあっても不安であるため、そういう時は実家に戻ると言うことになった。
「それ以外もひとまず体調が悪かったり、戻りたい時は戻って良いからな。」
イタチはを慮って、の背中を撫でる。
ストレスをためないようにすることが一番大事だとサクラは言っていた。の感情を一番に優先にした生活をとサクラにイタチもサスケもこれでもかと言うほど念を押されているため、家事もがやりたいと言わない限りはサスケとイタチがやると言うことで落ち着いた。
3ヶ月までは流産の危険性もあるため、しばらくは絶対安静である。
「・・・うん。でも、あの、金曜日のイタチとサスケがいない時、ここに来ちゃ駄目ですか?」
窺うように、はミコトを見る。
「え?」
「金曜日は、母上も父上も家にいないから。」
父は暗部の会合にイタチと一緒に出ているし、母も上層部との会合で金曜日は絶対に家にいない。サスケがいる時は良いが、それ以外の時はどうしても一人になってしまう。
の両親もイタチと同じく手練れの忍であり、非常に忙しいのだ。
幸い、ミコトもフガクも反逆者として今も刑に服すべき立場にあり、この屋敷に幽閉されているため、いつでもこの屋敷にいる。
フガクとミコトは突然の申し出に、目を丸くする。
「?」
イタチは珍しく不機嫌そうにを見て、真意を窺うような顔をした。
「だって、わたし、ひとりになっちゃうし・・・」
は不安そうにしょんぼりと俯く。
初めての妊娠で、何があるかなどには全く分からないし、不安は当然のことだ。マタニティーブルーになることもあるとサクラにも聞かされている。
家で一人になる状況は避けてやった方が良いだろう。
確かににとってはフガクとミコトは義父母である。頼るのは当然のことなのだが、なにぶんイタチとサスケの感情は複雑だ。
「いや、別におまえが悪いって言ってるんじゃない。だがな・・・」
イタチとしては、まだ両親を許せないところがある。ただ、の意見に反対しないまでも、賛成できないようだった。
「まぁ、金曜日にオレが任務だと、人がいねぇのは事実だよな。」
サスケはイタチほど両親に対して怒りの感情はないが、それでも気分は複雑だ。イタチの方を見て、肩を竦める。
「、おまえが一番安心できる方法を考えたら良いさ。」
イタチは兄弟の意見の一致を確認し合ったが、サクラの話を思い出しての肩を叩き、ちらりと窺うようにミコトとフガクを一瞥した。
の意志が、一番だ。
例えイタチとサスケが気に入らなかろうと、にとって一番ストレスがかからず、安心できることが一番重要である。
サクラにを最優先にしろと言われたばかりだ。
「もちろん私たちはいつでも歓迎よ。」
ミコトは笑って、に言う。
「貴方はイタチの奥さんだもの。私にとっても娘だわ。いつでもいらっしゃい。」
ミコトとフガク、そして息子達の間には反逆事件以降、溝が出来てしまった。その後のいきさつもある。
しかし、それにが巻き込まれる必要はないのだ。
イタチはイタチ、はで、が望むのならば悪いことではないのだから、イタチが拒否するべきことではない。ましてや出産するのはイタチではなくなのだから。
「初めての妊娠は不安なものだもの。力になれることは何でも言って頂戴。なんと言っても私は二人の息子の母親ですから。」
の母の蒼雪は一人しか産んでいないが、ミコトはサスケとイタチ、二人の子供を産んでいる。しかも男の子だ。
経験という意味では、蒼雪の2倍あることになる。
「特に男には聞きにくいこともあるでしょうしね。」
家にいるのは常にイタチとサスケ、蒼雪も任務で忙しい。同年代で出産をするのはが初めてだと言うことも考えれば、が不安に思うのは当然だろう。
頼れる場所は多いに越したことはない。
「良かった・・・」
はほっと胸をなで下ろす。心許ない様子が窺えて、なんだかミコトはが可哀想になると同時に、時期尚早な気がして自分の息子を少し睨んだ。
「・・・食べて良いか?」
イタチはの残していた芋ようかんをちらりと見て、尋ねる。
「え、サスケの分も食べちゃったのに、まだ食べるの?」
「おまえは食べないんだろ?」
「食べないけども。」
は甘いものを胸が悪くなりそうなほど食べるイタチに呆れながら、自分のそれをイタチに渡す。
イタチは相変わらず育ち盛り真っ盛りで大食らしい。
おまえが大食でどうする。
妊娠しているを差し置いて甘いものを一人で独占しているイタチを見ながら、ミコトは複雑な気分になった。
大食漢