金曜日、はイタチとサスケ、両親共にいないので、朝からうちはミコトとフガクの所にいて、イタチとサスケが帰って来たら一緒に炎一族邸に戻ることになっていた。




「美味しいー」





 は緑茶と共におはぎを食べながら、ご機嫌でちゃぶ台の前に座っていた。




「そりゃ良かったわ。」





 イタチの母、ミコトはイタチに少し似た笑顔で安堵したような顔をして、の湯飲みにお茶を注ぐ。

 満足しているの前ではフガクは近くで新聞を読んでいる。

 の家とは違う庶民的なちゃぶ台と近い台所。

 なのに、イタチと行く時、いつもは何となくイタチとサスケなど子供達と、フガクやミコトなど親との距離が遠いような気がしていた。

 の両親が若すぎるせいか、父の斎はいつもを抱きしめて頭をぐしゃぐしゃしてくれるし、蒼雪もいつも優しくを抱きしめて声を掛けてくれる。本当ならの家の方が大きな一族の宗家なのだが、距離という観点から行くと、はいつも誰よりも両親に近く、いつも両親の特別だった。




「うちはのおばちゃまのおはぎいつも美味しいよね。」




 はおはぎなど甘いものが好物だ。シカマルの母のおはぎも絶品だが、ミコトのおはぎは少し甘さ控えめで、小豆の味がしっかりしていて美味しい。

 反逆事件があった後、牢に幽閉されていたミコトやフガクに頻繁に会いに言っていたは、確執の出来てしまったイタチやサスケ兄弟よりそういうものが理解できないおかげで、仲良くなった。

 昔はを炎一族の東宮として扱い、敬っていたミコト達も、がただの子供であることに気づき、最近では普通に接するようになった。




ちゃん、体調の方は?」

「うーん。たまにだるいくらいかな?何も分からない。」




 妊娠していると言われても、まだ月のものが止まった程度で、1ヶ月半くらいでに感じるものはまだない。

 最近眠たいのは事実だが、それも別に特別な程ではなく、我慢できるくらいだ。

 だから、妊娠していると言われてもまだまったくぴんと来ず、なんで任務を休みにされたのかもよく分からないような気分だった。




「退屈は退屈ー、だってサスケもイタチもなんにもさせてくれないの。」




 は緑茶を飲みながらぷくっと頬を膨らませる。

 当然妊娠してから任務は全面ストップ。イタチとサスケはいつもを心配して、座っていろ、俺がすると何でもしてくれる。おかげでのすることは、ほとんどない。元々家事は苦手だったが、苦手であるが故に良い時間つぶしだった家事がなくなると、することがなくて困ることになった。




「このままじゃまるまる太って熊さんになっちゃうね。」

「なんで熊?」

「だって昔父上が食べて寝てばっかりいると熊さんになるよーって。あれ?なんで熊だったんだろう?」




 普通牛とか豚になるよって言うものじゃないンだろうかと、今更ながら、父の教えに首を傾げていると、ミコトはをクスクスと笑っていた。




ちゃんはのんびりしていて、本当に良いわ。」

「え?」

「だって、サスケもイタチもせわしなくて。」




 賢い、とも表現できるのかも知れないが、二人とも物わかりが良く、のんびり意味のない会話をすることは少ない。男の子だからと言うのもあるのだろう。

 結論を急ぐところもある。

 は一人っ子のせいか、それとも斎の教育方針のせいか、随分のんびりしているし、結構不思議な疑問を口にしたりする。

 それはミコトにとってはとても新鮮だった。





「斎さんとかとはどんなふうに話すの?」

「普通?おかえりーただいまーはぐーみたいな?」





 誰が見ても、と斎は良い父娘関係を保っていることで有名だ。

 そっくりな顔でも有名だが、任務をもらいに行くときでも火影の前でも、斎に会えば抱きしめられ、頭をぐしゃぐしゃされるのは今も昔も変わっていない。




「そっか・・・そりゃうちには無理だわ・・・」




 ミコトはちらりと隣のフガクを見る。フガクは新聞を見ているふりをしているが、話を聞いていたらしく、肩をぴくりと揺らしていた。

 確かに、フガクがそんなことをするのは想像できない。





「うん。イタチにやったら殴られてたよ。」

「え?」

「昔父上殴られてたから。今はないけど、」




 斎が抱きついてくるのは普通のことなのだが、イタチは恥ずかしかったらしい。の前だからと言うのもあったのかも知れないが、2歳ぐらいの頃、が見ている前で、顔を真っ赤にして思いっきり殴っていた。イタチは6,7歳だったと思う。

 今では慣れたらしく、「あーはいはい。」という感じであしらっているが。





「聞いたことも無い話が一杯ね。」

「あんまりイタチは家でお話しないの?」

「うーん。そうね。あんまり。」





 イタチは家では少なくとも饒舌ではなく、何を考えているか自分の息子ながら分からないところがある。実際にクーデターの時も、誰も彼を疑っていなかったのだから。




「ふーん、イタチいつも父上と喧嘩して遊んでるのに。変なの。」





 は不思議そうに自分のお湯のみに浮かんでいる茶柱を見つめる。 

 イタチとの父、斎はいつもくだらないことで嫌みの応酬や口論をしている。結構白熱している時もあるが、彼ら自身は楽しんでいるようだ。

 別にイタチと斎が大きく喧嘩になったのをは見たことがない。

 というか、斎が怒ったのを、は17年生きてきて一度も見たことがなかった。彼はを諫めることはあっても、頭ごなしに怒ったりすることは絶対にない。理由を聞いて、何が悪かったか、とうとうと話すのだ。

 だから、斎が他人に対して怒る姿というのが、は未だに想像できなかった。

 イタチ曰くたまにあると言うことだが。




「それにイタチはいろんなことを知っているし、いろいろなことを話してくれるよ。」 




 家でのイタチは少なくともサスケより遙かに饒舌だ。サスケはたまに突っ込みを入れるぐらいだが、イタチとはよく話す。

 今日あったこと、つまらないことを。




「そっか。やっぱ女の子は違うのかな。じゃ、子供は女の子だと良いわね。」




 ミコトはまぶしそうにを見ながら、お茶を飲みながら心から思う。

 のお腹の子供のことだ。





「どうして?」






 は子供の性別についてを全く考えたことがなかったため、驚いてミコトを見上げる。

 炎一族において、白炎を持っているかどうかは重要だが、正直男性でも女性でも跡取りになれるため、炎一族全員がが無事に出産することだけを願っている。そのため、もイタチも性別についてこだわりは全くなかった。

 斎や蒼雪がその当たりの話を口にしたこともない。




「お父さんもそう思いますよね。」




 理解できないのかわりにミコトは話をフガクに振る。




「え?どっちが良いとかあります?」





 は不思議そうに紺色の瞳をぱちくりさせて、フガクを見る。




「宮が無事で、無事に生まれてこればどちらでも良い。」




 フガクは一瞬なんと言って良いのか分からなかったようだが、ふっと息を吐いた。なかなか堅実な意見に、はまた湯飲みのお茶をすする。

 彼は確かに固いところもあるが、よく行くようになると、の体を良く心配してくれるただの不器用な父親だった。ちょっと斎と違ってフレンドリーではないが、イタチやサスケに対しても愛情がないわけではない。

 ミコトも同じだ。

 だからこそ、イタチが父母に複雑な感情を持っているのは分かっているが、はここに来るのをやめない。




「ありがとうございます。」





 自分を確かに心配してくれるのは、イタチを心配しているからだ。

 はフガクの優しさを確かに感じ、柔らかに笑ってお礼を言った。


男女間