引っ越しの手伝いにはシカマルやヒナタ、ナルトやサクラも集まって、がやがやと部屋の片付けをすることとなった。

 つわりが始まったは体調もあまり良くないので、荷物を運び出す友人達を柱にもたれてのんびり見ていた。結婚してから2ヶ月、この家に越してきても同じように二ヶ月であるため、それ程荷物も増えておらず、下手をすれば段ボール箱のまま運び出すといったものも沢山あった。





「なんかほこりっぽいってばよ。」





 ものを運び出したためか、埃が舞っている。ナルトはそれを意味もなく手で扇ぎながら、を見下ろした。





「おまえ、大丈夫か?」

「うーん、気持ち悪い。」




 先ほど食事をしてから、なんだか酷く気持ちが悪いのだ。そういう日が、何日も続いている。

 所謂つわりという奴で、妊娠においては全然珍しくない普通の生理現象らしいが、初めてのにとっては風邪を引いた時が長い間続いているような感じでなかなか不快だった。




「まぁなんかして欲しいことがあったら何でも言えよ。何でも手伝ってやっから。」





 シカマルがを見下ろして、棚を運んでいた時の汗を拭く。





「そうそ。同期で初妊娠だしな!俺らも良い経験だってばよ。」




 ナルトは明るく言っての肩を軽く叩いた。





「そうだな。おまえ、結婚式で失敗したもんな。」




 シカマルはにやりと笑ってナルトに言う。ナルトはシカマルの突っ込みにむっとして「それは言うなってばよ」と反論した。

 と言うのも、ナルトは祝儀たるものを知らなかったため、サスケに言われるまで気がつかず、夜中にお金がないとかき集めることになったのだ。挙げ句祝儀に小銭まで入れたという笑い話付きである。

 その上よくわからないので結婚祝いを結婚式でダイレクトに渡したというエピソード付きだ。

 は結婚が同期で一番早いため、誰も礼儀としてどうしたら良いのかわかっていない。

 25歳くらいになると皆出産することが多いのだが、まだ17歳であるためが同期の中で妊娠も早く、その分戸惑いも多いが、皆独身、一人暮らしが多く暇なので、助けられるところは精一杯助けるつもりでいた。




「ありがとう。助かるよ。」





 は淡く笑ったが、吐き気がこみ上げてきたのか、大きく深呼吸をした。






、あまり食べ物が食べられないようなら、すぐに言うのよ。」





 サクラがあまりに辛そうなの前にしゃがみ、言い聞かせる。




「うーん。でも大丈夫・・・。」

「大丈夫じゃないからね。赤ちゃんが大丈夫かが重要なのよ。」





 の反論をいなして、サクラは一つ、伸びをする。

 大体大きなものの運び出しは終わり、後は小物や本ばかりだ。煩雑な仕事になるので少し退屈だが、たまに面白いこともある。




「ちょっと休憩ね、これ見ましょ。」




 をちゃぶ台の所まで引っ張ってから、サクラは少し大きめの本を開く。




「それ。どこから見つけてきたの?」 

「そこの本棚にあったんだよ。」




 が見覚えのある大きなアルバムに首を傾げると、穏やかにヒナタが言った。




「なんだってばよ。」




 ナルトが上から本をのぞき込む。狭いちゃぶ台の上に広げられた大きな本にはたくさんの写真が貼られている。表には“子供たち”と端麗な字で書かれていた。

 最初の頁を開くと、そこには指をくわえてこちらを見る紺色の大きな瞳の、少し色白の赤子がいた。




ちゃん!?可愛い!」




 ヒナタが声を上げての方を見る。

 その写真の下にはやはり端麗な字で“、1歳、”と書かれている。アルバムの写真はの年齢順に並んでいるらしい。サクラが順番に頁をめくってみると、そこにはを抱いているイタチが映っている。

 下には“3歳、イタチ8歳”の文字。




「ちょー美少年!」




 サクラは真剣な顔で写真を凝視する。

 元々彫りの深い顔立ちのイタチだが、小さい時は華奢で、整った顔立ちも酷く可愛らしい。すらりとしたまだ男らしさのない腕で、を抱えている。

 はと言うと、大きな紺色の目が印象的で、紺色の髪を綺麗に背中まで伸ばしている。





「なんだ?」




 イタチが上から手を伸ばして、サクラのアルバムを手に取る。




「あぁ、斎先生のか。」




 一目見て、イタチはそれがなんのアルバムか分かった。




「え、父上のなの?」

「あぁ、この間なくなっただのなんだの言っていたが、ここに紛れてたんだな。」





 斎がないない言っていたが、おそらくの部屋に何かの時に放っていって、そのままが引っ越しの時に持ってきてしまったのだ。

 斎は非常に片付けが悪いので、十分考えられることである。





「ここからはサスケの写真があるぞ。」





 イタチはその頁を開いて、ちゃぶ台にいるサクラにアルバムを返す。イタチが開いた頁には、仏頂面の、頬を膨らませたサスケが、やイタチと一緒に映っていた。

 正月なのか、の着物の色合いは華やかで、前には貝あわせが置かれている。




「ぶはっ!サスケ、全然変わってねぇってばよ!」




 あまりの不機嫌そうな仏頂面が今のサスケと同じで、ナルトは笑い転げる。





「・・・餓鬼の頃から眉間に皺だったっけ?」





 シカマルも苦笑しながら写真のサスケの眉間を指さして指摘した。5歳のサスケの眉間には、深い皺がある。イタチは堀が深い顔をしているが、サスケは眉間の皺が深い。





「サスケ君が、5歳、か。」





 サクラは交互に写真と、向こうで大人しく段ボール箱を広げているサスケを見比べる。





「なんだ?」





 サスケは視線を感じ、不機嫌そうに振り向く。




「いや、やっぱ変わってないわ。変わらずふてぶてしい。」





 サクラはあっさりと言って、次の頁をめくった。





「なんだ。失礼な。」





 サスケは仏頂面でやってきて、サクラの見ているアルバムを上からのぞき込む。





「なんだそれ。」

「父上のアルバムだって、サスケとイタチも一杯いるよ。」




 は笑ってサスケにそれを見せる。が見せた頁には、サスケとイタチ、そしてが映っていた。

 先ほどの写真と違い日常風景なのか、は寝台の上で、サスケは仏頂面でイタチに何かを言っている。

 とイタチは笑っていることが多いが、サスケはなんだか不機嫌そうなことが多い。それは焼き餅かも知れないなと、サクラは影で思った。





「餓鬼の頃の奴か。斎さん、ため込んでたんだな。」




 サスケは上からのぞき込みながら、小さなと笑いあうイタチの表情が今とほとんど変わっていないことに気づく。

 写真の中のサスケは無邪気にを見ているけれど、イタチの目には既に明らかな恋愛感情があった。





「兄貴、いつからが好きだったんだ?」





 サスケはふと気になってアルバムを楽しそうに見ているイタチを見下ろす。

 兄が昔からのことが好きだったのは知っていたが、一体いつからなのだろう。サスケがを好きになったのは、アカデミーに入る少し前くらいだった。イタチはどうなのだろうと疑問に思った。

 イタチはサスケの突然の質問にぱちくりと目を瞬かせて、サスケを見上げる。




ちゃんが2歳の時から、一緒にいたんですよね。」




 ヒナタがイタチに穏やかな目で言って、答えを求める。イタチは少し考えるそぶりを見せ、を見てから、クスッと笑った。





「さぁ。覚えてないな。でも少なくとも、が4歳になる頃にはもう好きだったな。」




 イタチが9歳くらいと言うことになるので、イタチの年齢としては別に普通だ。だが、が4歳の子供であったことを考えると、そこに犯罪的なにおいを感じたのは、全員間違いなかった。




恋愛感情