入院1日目はかなり点滴で回復していたが、次の日には体調はまた悪化、吐き気も戻ってきたのか洗面器片手に胃液を吐くことになった。





「うぅ、」




 起き上がる力もなく、ベッドの上でぐったりと横たわっているは、泣き言も言わず黙りこくっている。

 なかなかの過酷な状況に、見舞いに訪れたサイは目をぱちくりさせるしかない。





「・・・こういう時ってどうしたら良いの、かな。」





 お見舞いにと持ってきた花を窓辺において、サイは戸惑いを浮かべる。何が見舞いに良いか分からなかったので、一瞬女の子が一般的に好きそうな甘いものを持ってこようかと思ったが、食事が出来る状況ではないのでやめた方が良いとサクラから止められた。

 花で良かったと正直に思う。とはいえ、花がどこまで彼女の心を和らげるかは疑問だが。





「氷なめるのがやっとで。すまないな。」





 イタチはのベッドの上に座って、気持ち悪いと唸るの背中を撫でている。要するに、それぐらいしかしてやれないと言うことだった。





「妊娠って、祝い事って感じだったのに、大変なんだね。」





 サイはしみじみと言って、のベッドの隣に椅子を持ってきて座る。





「・・・うん、ごめんね・・・せっかく来てくれたのに、」






 はベッドの上でぐったりとしながら、申し訳なさそうに目尻を下げた。




「いや、良いんだよ。気にしないで。僕が来たかったわけだし。」





 サイは不器用ながらも必死でを慰める。だが、どうしても空気が暗くなってしまうのは止められなかった。





ーはっろぉー!!」





 突如底抜けに明るい声が響いて、病室の扉がばんっと音を立てて開く。そこにいたのは背のひょろりと高い、紺色の髪の男が現れた。

 の父、斎である。

 病院には不釣り合いな明るい声音と表情で入ってきて、暗い空気を見事に一掃する。






「斎先生、ここ病院ですよ。ちょっとは静かに。」

「個室なんだし、良いじゃないか。堅いこと言わない言わない。」





 常識的なイタチの意見を軽くいなして、斎は娘の方へと駆け寄るが、ふと隣を見て斎は少し驚いた顔をした。





「あれ?サイも来てたんだね?」

「あ、・・はい。」






 サイは恐縮しながら、頷いた。





「あ、そっか。サイの上司だもんね。父上。」





 はだるそうに間延びした声のまま、納得する。

 ダンゾウがいなくなった現在、暗部の親玉は完全に斎になり、サイの直属の上司は斎と言うことになっている。

 だが固かったダンゾウと違い、斎は至ってフレンドリーな上適当で、よく部下に「仕事したくないーやだー!」とかごねる人で、サイはいつもどう答えて良いか分からず、狼狽えるばかりだった。




「サイってば、なかなか暗部の中でも優秀なんだよ。」





 斎はサイの隣まで椅子を引っ張ってきて、同じようにのベッドの側に座る。





「根だったから何してるか、どんな子か知らなかったんだけど、優秀で嬉しいよ。僕も頼りにしてるんだ。」

「恐縮です。」




 面と向かって誉められ、サイは目を伏せて頬を染める。





「サイもご両親いないらしいから、僕が後見人になることになったんだ。これからは一般任務にも出るんだよ。」




 斎は身寄りのない自分の弟子や、友人の子供であるナルトの後見人だ。

 特に暗部はその特殊性から身寄りのない子供も多く、蒼一族は今は亡くなった一族だが、莫大な資産はそのままで、斎はそれを使って身寄りのない子供の援助をしている。そのことをが知ったのは、最近のことだった。




「・・・その、今は斎様から修行もつけてもらっているんだ。」





 サイはおずおずと言った様子で、に言う。





「え、そうなの?」

「そうだよ。僕の弟子。サイは筋が良いんだよ。」





 斎は楽しそうにに話す。も斎の明るい空気に押されてか、体調が悪いながらも話を聞き入っていた。

 サイがイタチを見ると、彼は肩を竦めてみせる。その表情から、彼も斎の意図を理解しているようだった。

 娘の妊娠に、斎は頻繁に時間を見つけて娘の見舞いに訪れている。

 重傷のに彼が明るい話をわざわざするのは、自分に出来ることが何もないと分かっていて、体調の悪いの気を紛らわせるためだ。


 を慰めても、もう何の意味もないほど酷い状態になっている。

 だから、斎は自分に出来ることをしようとしているのだ。イタチは真面目で、の顔を見れば心配で表情を曇らせてしまう。

 わかっていてもどうしようもないなら、斎は少しでもの気持ちが楽になるようにと思ったのだ。




「いつも通り、話した方が良いと言うことなの、かな。」





 サイは隣で楽しそうに話す斎を見て、顎に手を当てて、うん、と一つ頷く。





「斎様、結構スパルタなんだよ。」

「え?そうなの?」




 しんどそうな声ながら、はサイの話に相づちを打つ。

 自来也も、綱手もスパルタだと知っているが、自分の父である斎がスパルタだという話は聞いたことがあまりなく、また自身イタチと斎が修行をしているのを見たことがあるが、それ程辛そうには見えなかった。

 だが、イタチはそれを聞いて苦笑した。





「・・・確かに、斎先生は簡単そうでしっかりやられるからな。」





 へらへらっと笑いながら、チャクラを限界までこってり絞るのが斎だ。

 別に辛くはなく、最初は気づかないのだが、修行が終わる頃にはぐったりで、チャクラも零だ。斎の修行は量ではなく、密度であり、しょっちゅう斎に直接相手をしてもらえたのはありがたい限りだったが、その分実力差も明確なので精神的にも辛かった。




「僕にとってイタチさんは兄弟子になるんだけど、・・・斎様に勝てる方法って、ありますか?」




 サイは笑ってのベッドに座るイタチに尋ねる。




「それは俺が聞きたい。」




 そんな都合の良い方法があるのなら、イタチが聞きたい所だ。




「何か良い方法は見つかったか?俺は火遁がやられるんで困ってる。」




 うちは一族お得意の火遁だが、斎は形質変化が風と水である。火遁はすぐにいなされるため、斎を相手にするには火と風の形質変化を持つイタチはなかなか不利だった。

 ついでに写輪眼はある程度の先読みは出来るが、斎の透先眼が持つ短期未来予測には敵わない上、透先眼は他にも色々効用がある。

 未だにイタチもこれと言って有効的な戦略を編み出せずにいた。





「そうですね。僕も色々やってみたんですが、今の手持ちでは難しくて、でもやっぱり土遁は結構いけましたよ。」

「やっぱり土遁か・・・あまり得意ではないんだがな。」





 イタチはサイの言葉にため息をつく。水遁に強いのは土遁だ。有効的な手段であるのは事実だったが、形質変化が離れているため、難しいのは事実だった。

 どうしても火遁を極めてしまうのだ。




「近接戦闘にこちらに分はないですしね。」




 サイはこの間、長距離が駄目なら近距離の接近戦でとたたみかけてみたのだが、斎は合気道を長年やっており、相手の力を利用する流れるような動きが得意だ。近接戦闘で斎を捉えようとするのは、100年早い。





「難しいな。」




 イタチは真剣な表情でサイと共に考え込む。




「うふふ、やっばー。僕、もうそろそろやばい?」





 斎は肩を竦めて、斎討伐前線を組み始めたイタチとサイを見て、に笑う。

 も体調は良くなかったが、サイとイタチが楽しそうに話しているのを斎と一緒に見ているのは、辛いのを少しだけ忘れられるほどに本当に楽しかった。




心配はあるけれど