結局は妊娠2ヶ月から4ヶ月の2ヶ月間に5回も入退院を繰り返すことになった。
入院して点を一日中すると少し好転するのだが、やはり帰って点をやめるとすぐに体調を崩した。食事を出来ないのだ、吐き気が酷すぎて。体もだるい上、体重も減り続けており、通算15キロ痩せることになったが、4ヶ月に入る頃に、ふと突然、吐き気は消えた。
「・・・すごい、卵のおすましが飲める。」
ここ2ヶ月のつわりで喉が切れて血を吐いていたは、自分が普通に、イタチが食べていたサスケが作ったおすましを飲めたことに驚く。
「本当に、大丈夫なのか?」
イタチは心配そうにの表情を窺っている。
あれほど悪阻が酷かったのだから、突然食べられると言っても信じられないのは当然のことだろう。だが、今日は嘘のように朝から調子が良かった上に、吐き気もほとんどなく、イタチが昼食を食べている隣にいてもにおいに吐き気がこみ上げることもなかったので、すましを飲んでみようと思ったのだ。
「無理するなよ。」
サスケもの様子をこわごわ見ている。食べて吐いてを繰り返していたため、二人も心配しているのだ。
「う、うん。大丈夫そう。」
は布団の上ですましの、入っている卵を含めて飲み干す。
「あまり突然沢山食べるのは良くないぞ。」
イタチはの背中を撫で、まだ食べたそうにしているを諫める。
「そうだな。夕飯を粥を作る。」
サスケは少しほっと胸をなで下ろしながら、イタチに提案する。ちなみに最近ご飯を作っているのはサスケだ。
もちろん炎一族邸には侍女もいて家事もしてくれるし、食事も作ってくれるが、何分好みもあるし、任務もあって時間も不定期になるため、サスケが作ることが多かった。
「無理はしなくて良い。おまえが出来そうなことだけすれば良いんだ。」
イタチは自身が他の妊婦と同じように食事が出来ないことも、そのために子供のことを素直に喜べないことも、酷く気に負っている。
それを知っているイタチは、にできる限り優しくするように努めた。
自分に出来ることはそれしかない。まるでがチャクラに苦しんで、死にそうになっていた頃を思い出して、歯がゆくなる。
「うん。でも、本当に食べたいなってちょっと思うんだよ。」
は少し明るい表情で、頬はこけているが微笑んだ。
「それに頑張って食べないと、赤ちゃんにも悪いしね。」
自分の痩せたお腹を撫でる。
少し膨らんで見えるのはが痩せているのか、お腹が膨らんだのか、正直なところよくわからない。の痩せた体に膨らんだ腹はある意味異常で、幼い表情も相まって不釣り合いこの上なかった。
イタチはとの子供が本当に欲しかった。
だが、が苦しむ姿を見れば本当にこれで良かったのか、よくわからないと言うのが、今の本音だった。
「イタチに似て元気な子だと良いな。」
は不安そうな顔をする。小さいときから体が弱かった自分に似て欲しくないと、心配しているのだ。サスケはそれを聞いてちらりとイタチを見た。
「きっと大丈夫さ。兄貴に似てしぶといって。」
サスケはにやりと笑って自分の兄を見る。
イタチは丈夫な子供だったと母からも聞いている。
確かに流行病の結核に偶然関わり手術する羽目になったが、それ以外に目立って体調が悪くなったこともないし、の莫大な鳳凰のチャクラを封印しても、それを保てるだけの強いからだがある。
「言っておくがおまえと俺は兄弟なんだからな。俺がしぶといなら、おまえも十分しぶといぞ。ついでにと俺の息子はおまえの甥だ。おじさん。」
イタチも負けじとサスケに反論する。同じように比較的サスケも体の強い子供だった。
だが、何よりサスケにとっては語尾の“おじさん”の言葉が気に入らなかったらしく、あからさまに嫌な顔をした。
するとイタチはさらりと言う。
「サスケおじさんだろ?まごうことなく。」
「俺はまだ17歳だぞ。」
17歳でおじさんと呼ばれるのは複雑な気分だ。イタチは22歳であるため、お父さんで良いかもしれないが、17歳でおじさんと呼ばれるのはショックがある。
「だったとしてもおじさんだぞ。なぁ?」
イタチはに同意を求める。
「まぁ、確かにおじさんだけど。ね。」
系譜的にはどう考えても、の子供にとってサスケはおじさんだ。
「ほら見ろ。」
の賛同にイタチはサスケの方を振り返る。
イタチがこれ見よがしに唇をつり上げて笑って見せると、サスケは嫌そうに眉間の皺を深くした。
「そっかー、サスケ、青白宮の伯父上みたくなるんだね。」
の母、蒼雪には兄がおり、それが青白宮で、医者でもあるため、が体調の悪いときは良く見に来てくれていた。一番母に似ており、優しい伯父だ。
「まぁでも強い父上と叔父上がいるから心強いね。」
はお腹を撫でながらにこにこ笑う。
「・・・あ、」
「なんだ?」
変な声を上げたイタチにサスケは不機嫌丸出しのまま尋ねると、彼はの顔を見て言った。
「斎先生は、おじいちゃんになるのか・・・?」
イタチの疑問系の問いに、もはっとする。
サスケがおじさん以上に、斎がおじいちゃんというのが信じられない。もう40近くになった今でもそのベビーフェイスのせいで20歳後半に見られ、熊パーカーの似合うお兄さんだ。ピースしてきらっ☆とかやってても許せる容姿である。
のりも軽く、下手をすればイタチよりも若々しい。
「・・・斎さん、おじいちゃんか。言われて見れば、そうだよな。斎さんおじいちゃんになるんだよな。」
サスケも思い出したのか、俯いて呆然とする。黄昏れたくなるほどミスマッチな事実だ。
「まぁ、良いおじいちゃんになるよ。父上。」
「おじいちゃんってか、お兄ちゃんだろ。どう見ても。」
サスケはのぼけに冷静に突っ込む。
「斎先生が伯父さんで良いんじゃないか?」
「なに?じゃあサスケはお兄ちゃん?」
イタチの言葉には首を傾げてサスケを見上げる。
「お願いだからお兄ちゃんで留めてくれ。流石に17歳でおじさんって呼ばれんのは嫌だぜ。」
「立派な叔父上が待ってるぞ。早く出てこい。」
「だからお兄ちゃんで留めろって言ってンだろ。」
「どうしてもお兄ちゃんらしいぞ。怖いな。」
イタチは半笑いながら、のお腹を撫でて言う。
「なんかわかんのか?」
サスケはイタチやが良く子供のいる腹を撫でているので、何か分かるのかと尋ねる。
「まだわからないさ。膨らんでるだけで、動いているとかはな。は、わかるのか?」
「わからないよ。」
胎動を感じるような時期ではない。
だから膨らんでいるし、お腹が張るため子供がいるとわかるが、まだ動いているとでも分からないのだから、外から触って分かるわけがない。
「サスケも触ってみる?膨らんだだけだけどね。」
は柔らかに笑って自分のお腹を撫でる。そのの申し出を軽く受け入れられるほど、子供と向き合う自信はサスケにはなかった。