「ごめんなー俺んちきたねーけど、なんかその辺に座ってくれよー。」
ナルトは自分の部屋の適当なクッションやら本やらをばさばさとどかせながら、なんとかソファーにが座る場所を空ける。
ついでにテーブルの上にはカップラーメンやらゴミだらけ、その隣にナルトは先ほど買ってきた持ち帰りラーメンと甘味をばさっと置いて、向かい側に座った。
「ラーメン冷めちまうし、先食うか。片付けは後で。」
とナルトは勝手に決めて、袋から二人分のラーメンを出した。はひとまずソファーに腰を下ろし、楽しそうにラーメンを並べている彼を見た。
ラーメン屋へと足を運んだだったが、ばったりナルトに会ってしまったのだ。
迂闊だった。病院から出てきて一楽に行ったは良いが、元々あのラーメン屋はナルト御用達であり、任務が休みのナルトがあそこにいないはずがない。と言うか任務があったとしても帰りに寄っていくだろう。
が先日から検査入院だということを知っていたナルトは、もちろんこんなところでが遊んでいるのを見てびっくりしたが、外で一楽のラーメンを食べるのは流石に妊婦の躯にさわると言い、持ち帰ってナルトの家で食べることとなったのだ。
お勘定は、何故かナルトが持ってくれた。
その上途中の道で通った甘味屋のおはぎと桜餅を買って、そこから一番近いナルトの家に直行することとなった。
「ほら、食えよ!冷めんだろ。」
どんと一楽ラーメンを目の前に置かれ、はしばらく沈黙したが、冷めてしまうのも嫌なので大人しく食べることにした。少し麺はのびているが。
「そういや、なんであんな所にいたんだ?イタチ兄ちゃんは?」
ナルトはラーメンをずずっとダイナミックに食べながらに尋ねる。
妊娠してからの隣には大抵誰かいる。イタチか、サスケ。時々サクラ。そうしないとが急変したときに対応できないからだ。
そういえば、イタチも任務を減らしたため、ほとんどそばにいてくれていた。
「うん。家出したの。」
「うぐっ、げほほほほっ!」
「大丈夫?」
素直に白状すれば、ナルトは呆然とした面持ちでラーメンの麺を喉に詰まらせ、慌てた様子で胸を叩く。
しばらく病人のようにナルトはゼイゼイ言っていたが、近くにあった水を一飲みし、やっと落ち着いたらしく、「なんで!」とグラスを置くと同時に問うた。
「この子と一緒にいるため、」
はお箸を持っていない左手で、ぽんと自分のお腹を軽く叩く。
「わたしの躯のためにみんな、この子を殺せって言うんだ。チャクラが多すぎるから。」
「・・・なんだよ、それ。」
「でも嫌だから、わたし、ご飯が終わったら、この子と一緒にそうだね・・・、短冊街にでも行こうかな。」
お腹の中で見えないかも知れないけど、きっと楽しい場所だ。
木の葉の商店街を本当は見せたいけれど多分イタチたちが探しているだろうから、やめておこう。
「生まれてなくても、生まれてこれなくても、この子はわたしの子供だもん。」
子供が少し動くのを感じるようになった。それがとても愛おしい。
このまま死んでしまったとしても、幸せだと思える程に、子供が動くその瞬間が幸せだ。それが自分とイタチの子供だと思うと、なおさら。
「俺ってば、難しいことわからねえってばよ。」
ナルトはあっさりとが言うので、ことの重大さがよく分からない。だがそれでも彼女の覚悟は理解できて、目を伏せた。
「イタチ兄ちゃん、なんて言ってた?」
「わかんない。」
「そっか。」
イタチとはいえ、のために子供を殺す決断をすることは、出来なかったのだ。忍である限り非情であらなければならないが、それでも何よりも家族を大切にするイタチだ。苦しい選択を迫られていることだろう。
「病院にいたら、本当に子供とられちゃうかも知れないから、出てきちゃった。」
の容態は入院するほど悪かったわけだが、あっさりとした告白に、ナルトは苦笑を零すしかなかった。
はいつもは控えめで大人しいが、ものを決めるとてこでも動かないのだ。
「でもさ、、死ぬかも知れないって、ことだろ?良いのか?」
何となくしか事態は分からないが、かなり危ないのだろう。は体も弱いから何か大きな問題があるのかも知れない。それは何となくなる共に分かった。
「うん。良いの。」
は優しく目を細めて、そっと自分のお腹を撫でる。その姿は、ナルトが見たことのない“母親”だった。
「行くとこないんだったら、うちにいれば良いってばよ。」
ナルトの口からは、気づかないうちにその言葉が漏れていた。
「え?でも、イタチたちにばれちゃうよ。」
同じ里内だ。の友人達は同期も含めてすぐに探すことだろう。だからこそ、それもわかりきって短冊街に行こうと思ったのだ。
「大丈夫だって。このあたりに結界張ったろ?」
ナルトは案外鋭いところがある。
斎の透先眼にあっさりと見つかる可能性が高いため、は写輪眼でも見えない透明な結界をナルトの家の周りに張った。それが分かっていたらしい。
「・・・、でもナルト、嘘下手じゃない。」
はじっとナルトに疑いの眼差しを向ける。
「そりゃ否定しねぇけど。どうせ、は子供を堕ろす気はねぇんだろ?」
「・・・もちろん。」
「だったら、一緒だろ。誰んちにいても。俺からイタチ兄ちゃんに話しとく。」
見つかっても見つからなくても、は絶対に子供を堕ろさない。
ならばどこにいても結果は同じことで、ナルトはの気が晴れるまで、そしてイタチや家族達の気分が落ち着くまで、がここにいれば良いと思っていた。
は悪阻も酷かったし、それがましになったと思ったら次はこれで、家族とて気を落ち着ける暇もなかっただろう。
少し距離を置くことで、両方が頭を冷やすことが出来れば良い。
「要するにはしばらく、イタチ兄ちゃんとかに会いたくねぇんだろ。」
ナルトは驚くほど鋭く、の本心を言い当てる。はナルトの言葉に僅かに眉を寄せて、息をついた。
その通りだ。
堕胎しろと、言った全員に会いたくない。大きな不信感がそこにはあって、自身どうして良いか分からなかったし、お腹の子供にも会わせたくなかった。
「だから、俺からイタチ兄ちゃん達に言っとくってばよ。」
「でも、イタチが本気で迎えに来たらどうするの?」
イタチはいつもは非常に冷静で真面目だが、のことになると見境のない時がある。が危ないとなればナルトであっても排除しようとするかも知れない。
それはそれでかなり危険だ。ナルトも無事では済むまい。
「そん時は、俺が守ってやるよ。」
「イタチ強いよ・・・」
「え、も助けてくれんだろ。」
ナルトはにっとに笑う。
「そりゃ、もちろん。」
「じゃ、大丈夫だってばよ。イタチ兄ちゃんも話せば分かる人だって」
のことを理解していないわけではない。ただの命を大切に考え、どの決断をすれば良いのかを見失っているだけ。
「それにさ。のチャクラはさ、封印できねぇの?」
「え?」
「赤ちゃんのチャクラは、封印できないってのはわかる。だって生まれてねぇもン。でもさ。の残りのチャクラは、いけんじゃねぇ?」
ナルトは突拍子も無いことを言いだした。
のチャクラは既に半分イタチに封印されている。に残っているチャクラを、またもう一度何かに封印しようと言うのだ。
「え。でも、それっていけるのかな。」
はよく分からず、首を傾げる。だが、ナルトは封印術に長けたうずまき一族の末裔だ。もしかすると可能なのかも知れないと彼を見上げる。
「大丈夫だってばよ。」
「ほん、とう?」
「な。心配すんな。」
ナルトは不安げに紺色の瞳を揺らすの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
はやっと安堵の笑みを浮かべ、ふんわりと笑った。それを見て、ナルトも同じように笑う。母親の顔をしたは、それでもやっぱりナルトには幼い顔をして無邪気に笑う、幼なじみただそれだけだった。