なんやかんやながら、何故かはナルトの家で楽しくやっていた。






「なんでおはぎって黒いんだろー?」

「え。でも赤飯って赤くね?湯がく前ってちょっと赤っぽいし。」

「じゃああんこは黒いインク入れてるの?」

「そうかもしんねぇ。なんか食う気なくしたぁ・・・」






 ナルトはぐでーっと最近勝ったというこたつ机に頬をすりつける。





「そっか黒いインクは子供に悪いのかな?」





 は目の前にあるおはぎに手を伸ばそうとしていたが、手を引っ込める。化学薬品は子供に悪いと言われるため、食べるのは避けていたらしい。






「えーイカスミ黒いから大丈夫じゃね?」

「あ。そっか。インクはいかすみなのか。」





 変なところで納得して、またはおはぎに手を伸ばす。





「誰かつっこめよ!!それおかしいだろが!!」





 二人の会話をドアを開けたままの体勢で聞いていたサスケは大声で主張することにした。





「大体なんで黒いもんはイカスミって確定されてんだ!」

「え?インクってイカスミじゃないの。黒いじゃない。」

「黒いもんは全部イカスミか?ペンキは全部イカスミか?どんだけイカ消費するんだよ。」

「じゃあインクって何ものだってばよ。」

「知らねぇよ。ウスラトンカチ!」





 とナルト、この二人のぼけを一人でさばききるなど至難の業である。話が全くの間違いと共に最初から大きく離れたところに着地点すら逸脱して進んでいくのが常なのだ。

 サスケはふたりでだらだらとこたつに座るナルトとを冷たい目で見つめた。

 絶対似たもの同士である。






「あ、でも、きっと小豆の黒いのはイカスミだよ。」

「んなわけねえだろ。気色悪ぃ。」





 小豆のデザートの上に海産物入れて煮るという発想が気色悪い。

 サスケは思いながらサクラがどうしてこの場にいないのかと呪いたくなった。二人のぼけに一人では対処できない。






「おまえ兄貴へこんでんのに随分元気じゃねぇか。」





 サスケは息をついて、大人しくこたつに入る。

 イタチはと子供が死ぬかも知れないという事実を受け入れきれず、酷く沈んでおり、の父である斎に慰められていた。

 が家出したという事実にも落ち込んでいたわけだが、とうのはと言うと少し顔が赤く熱は下がっていないが気分としては元気そのもののようだった。





「うん。なんかナルトといると、悩んでもどうせ変わらないし、悩むのばからしいなって思っちゃって。」





 はこたつの上でミカンを剥いて、もきゅもきゅと食べている。さっきから同じことを繰り返しているせいか、の隣にはミカンの皮の山が出来ていた。

 子供と自分の命かかっているのに、なんて気楽な。

 ただ昔から、とナルトが揃うとなんか気楽でふわふわーっと浮いた、何でも出来そうな空気に周りが支配されるのだ。






「おまえが良いなら別に良いけどさ。」






 とナルトを見ていると、なんだかそれで良いんじゃないかな、なんて気がしてくるから不思議だ。

 サスケはため息をついて、ナルトと同じようにこたつのぬくぬくとした温かさに身を浸すことにした。どうしてもここに来るとだらだらしたくなる。

 こたつのせいか。この心地よい空気のせいなのか。





「なぁ、おまえ良いのか?本当に。」 






 サスケは隣でみかんをむいて食べているを見つめる。

 いつもは白い肌は少し赤く、熱があるのだろう。これからどんどんチャクラに躯が冒され、体調を崩す。子供とともに死を迎える可能性も高い。もし子供が帝王切開で無事に出されても、彼女が無事で済むとは思えない。

 どちらにしても、子供を長らえさせるという決断をすれば、はどこまで生きながらえることが出来るのか。運の問題だ。






「いいよ。それに、チャクラが増え続けるなら、押さえてもどうせ対処療法くらいにしかならないし、」






 病院で出来るのはのチャクラを一瞬押さえる対処療法だけのことで、根本的な解決にはならない。

 にもそれは十分に理解できていた。






「だからまぁ、精一杯、赤ちゃんだけでもどうにか出来るように、ナルトと話し合って、頑張ってみることにしたんだ。」






 別にナルトの家にたらたらといるのは、とて意味なくではない。

 うずまき一族は封印を比較的得意としており、その術の中でのチャクラをどうにか封印したり、半分に分けたり出来ないかという模索のためだ。






「出来ないこぁないってばよ。ただ、普通にのチャクラを無理矢理引っ張るわけだから、にもかなり負担あるし、チャクラで自分動かしてるから。」





 ナルトは顎をこたつ机に乗せたまま、目尻を下げる。

 のチャクラを無理矢理引っ張り、何か器に入れることは、の躯の方に莫大な負担を強いる。

 また、は元々自分のチャクラで身体機能を動かしている節があり、のチャクラを封印すればしたで、は手足自体がろくに動かせない可能性が高く、身体的な部分で普通に負担が増える。 

 今まで子供のチャクラからの躯をある程度は守っていた自分のチャクラも消失する。





は寝たきりって言うか、どこまで動けなくなるのかわかんねぇけど、子供の帝王切開まで2ヶ月って言うんなら。チャクラだけなら押さえられる。」







 のチャクラが喪失すれば、の抱えるチャクラの総量は当然減る。要するに身体機能を破壊することはなくなるため、子供は生きていけるだろう。

 ただし、の躯の自由はほぼ利かなくなる。

 そして質の違う子供のチャクラにどんどんの躯は壊されていくだろう。あくまで緩慢な破壊であるため、2,3ヶ月が生きるのに問題はない。

 後々が回復しないであろうだけだ。





「・・・賛成したくねぇけど、おまえはそうする気なんだな。」





 サスケはを窺うが、の表情は穏やかそのものだった。





「うん。イタチに赤ちゃんだけでも残してあげたいの。」





 綱手も初めてのことなのでよくわかっていないようだが、何となくはこの赤子のチャクラが急成長していることに気づき始めていた。

 緩やかだった成長は、明らかに最近急激になっている。

 封印術なしにが自分と子供二人分のチャクラを保持するなど、不可能だ。そして、子供を生かすにはそれしかない。





「明日からしばらく、おいしいご飯を食べて、一週間後には、そうするよ。」





 はへらっと相変わらずの笑みを浮かべる。





「本当はイタチにも、お腹、撫でてて欲しかったけど、」





 本当は最期まで傍にいて欲しかった。でも何よりもを大切にしてきた彼にとっては酷なことだろう。死にゆくを見ながら、笑えなどと。

 と子供のどちらも失う。

 それが残されるイタチにどれほど重みになるのか、には少しだけ分かる気がした。






「もし、もし、わたしに何かあっても、わたしは本当に幸せだから、それだけはイタチに言っておいてね。」





 イタチに愛されて、その子供を孕むことが出来た。

 それ以上の幸せをは思い浮かべることが出来ないし、それを与えてくれたイタチに本当に感謝している。イタチは本当に今、辛いだろう。がいなくなるかも知れないという重さに耐えきれないかも知れない。





「イタチも駄目だったら、子供のこと、お願いね。」






 イタチが、が死んだとしてどうするのかは分からない。でもサスケはきっと大丈夫だ。忍としてもすばらしい技量を持っている。






「当然だろ。オレの甥か姪になるんだぜ。」







 サスケはむっとした顔をして、の頭をこづく。






「俺も俺も!」






 ナルトもにっと笑ってに言う。心強い友人達には笑いながら、そっとお腹を撫でた。