綱手はサスケの言葉を聞いて、目を丸くした。
「のチャクラを、何か忍具に封印する?!」
ナルトの提案した方法は、あまりにの躯に負担をかける方法だった。忍具に封印するなら、のチャクラを無理矢理の躯から引き離さなければならない。
それも前封印した鳳凰ではなく、自身のチャクラをすべてだ。
「だが、それで質の違う子供のチャクラを支えられるのか?」
イタチは素直に疑問を口にする。
確かにと子供のチャクラの総量が大きすぎるためは苦しんでいる。ナルトの言うとおり封印すれば一時の躯に負担はかかるが、総量自体は減少する。
質の違うチャクラはじわじわ毒としてを浸食するだろう。
または身体機能をチャクラ支えていた部分があり、もしもなくなれば下手をすれば指一本動かせなくなる。
「・・・自分の躯が耐えられなくても2,3ヶ月、自分の腹が保てば良いって。」
子供のチャクラはの躯を傷つけるだろうがそれは緩慢としたものだし、子供のチャクラなのだから子供自体にはなんの影響もない。
「自分を犠牲にしても、子供を生かすか。」
綱手はらしい答えに、頭を抱えるしかなかった。彼女の頭には欠片も子供を殺すという考えはないらいし。
例え自分の躯が朽ち果てようとも。
「・・・わたしは今の子供はチャクラが強すぎるから堕ろし、次の子供をと思ったが・・・そういうわけにはいかないのか。」
綱手から見ても、が今孕んでいる子供はチャクラが強すぎる。
とイタチの子供だから仕方がないと言ってしまえば終わりだが、それにしても恐ろしいと綱手が思うレベルだ。
あんな子供そうそういないのだから、次の子供をと思ったが、には今孕んだその子供が大切なのだろう。
「女、だな。」
綱手はどこか、心の中でをまだ子供のように見ていた。自分の弟子だからと言うのもあるだろう。紺色の髪を柔らかに揺らして笑う、結婚などしていると言われても現実味のない少女。
でも、はもう母親なのだ。
「イタチ、おまえはどうだ?」
綱手はイタチの方を振り返る。
これでは死ぬ可能性が高くなったが、子供は生まれる可能性が高くなった。これで、良いのかとイタチに尋ねる。
「・・・良くないに、決まっているでしょう。」
イタチは目を伏せて、はっきりとした言葉で答えた。
「片親の覚悟をしろとでも言うんですか。」
どこかその声音は怒っているようにも聞こえた。だが、仕方がないと言ってしまえばそれまでだ。
このままと子供、どちらも殺すわけにはいかない。そしてどちらも簡単に助かるような答えはどこにも転がっていない。
「だがどのみち、おまえが決断しなくても、は決断したぞ。」
はもうどうするかの答えを出してしまった。ならば綱手も、そしてイタチも何とか心を前に向けて、進んでいかなければならない。
「兄貴、オレも、できる限りは支える。子供の面倒だって喜んでみる。だから、」
「だからって、がいなくなることを受け入れられるわけじゃないだろう?」
サスケの言葉に、イタチは手を組んで自分の額に押しつける。
子供が助かるかも知れないというのは嬉しい。でもがいなくなるのは悲しすぎる。弱っていくを傍で見ているのは辛いに決まっている。
「どうやって、笑うんだ。」
イタチだってわかっている。
もう正直イタチが選択できるのは残された時間をと共に過ごし、少しでもを支えてやるだけだ。だが、イタチは目の前に見える終わりの前で、笑える自信がない。
「イタチは真面目に考え過ぎなんだよ−」
場違いなほど明るい声が聞こえて、イタチが顔を上げるとそこにはの父親でもある斎が立っていた。
「もう仕方ないじゃん。」
斎は肩を竦めて軽い言葉を吐く。
「仕方ないって、わかってますよ。けどが死ぬんですよ!?」
イタチは耐えきれず声を荒げた。
「そんなことわかってるよ。」
斎とて、サスケとナルトから既に話は聞いているし、の覚悟も何となく分かっていたことだった。
自分の娘のことだ。悲しいに決まっている。
「でも、が最期に見る僕の顔が、泣いている顔なんて嫌でしょ。」
かつて、斎はが危なくなっても、ずっと笑おうと努力していた。愛しているよ、と何度も言いながら、でも笑っていた。
「僕がなら、泣き顔ばっかり見るの嫌だもの。だから、辛いけど、笑わなくちゃ。」
斎はすっとイタチの座っている椅子の隣に腰掛けて、イタチの頭をくしゃくしゃと撫でつける。
「僕らは無理をしてもまた楽しいことがあるよ。でもは今が大切なんだ。だから。ね。」
やりきれない思いはよく分かる。
でも、今はそれもすべて押し込めて、に笑いかけてやらなければならない。が僅かでも苦しい中で楽しい思い出が出来るように。
「頑張れイタチ。イタチも強くならなくちゃ。お父さんになるんだから。」
斎はと同じ色合いの紺色の瞳を細めて、まぶしそうにイタチを見る。
「・・・。」
「何?忘れてたの?駄目だよ。の方が自覚できちゃったのに。」
妊娠当初戸惑ってあまり喜んでいなかったのはの方だったというのに、今や命を賭けても良いと思うほどに子供を愛している。
立派な母親であり、強い女だ。
「で、僕おじいちゃんになるんだよね。どうすれば良いと思います綱手先生?」
「おまえ、それは嫌がらせか?私に対する嫌がらせか?」
斎の人の悪い質問に、綱手は近くにあったソファーを軽く持ち上げ、斎を脅す。
「冗談だよー。みんな綱手先生が行き遅れだって知ってるよ。」
「黙れと遠回しに言っとるのがわからんのか!!」
勢いをつけて、綱手の持っていたソファーが斎の方へと飛んでくる。
斎と隣に座っていて巻き込まれ賭けたイタチは慌てて飛び退いたが、壁にはへしゃげたソファーと大きな陥没が残ることとなった。
「やだなぁ。冗談なのに。」
斎は子供っぽく小首を傾げてへらへらっと笑っているが、イタチの方は真っ青だ。サスケの方も顔色が良くなく、頬が引きつっている。
そりゃそうだ。巻き込まれたら死ぬ。
「一片死ね。かしこの皮を被った馬鹿め。」
「嫌だなぁ・・・綱手先生。僕が賢いって知ってるでしょ?」
「おまえの行動は馬鹿そのものだ。その血継限界と才能が無ければおまえなんぞ願い下げだ。」
「それ自来也先生にも言われたー言われ慣れたよ。」
天才の凡人。
斎はいつもそう言われてきており、才能は一級品のくせに漫画やゲームやと一般人顔負けの遊び好きで、自来也も苦労していた。
「イタチ、おまえはこんな奴まねる必要ないからな。」
綱手はぷりぷりと怒って、ため息混じりにひしゃげたソファーを元の場所に戻す。どう見ても使い物になりそうではないが。
「いや、それは・・・ちょっと」
無理だろ。
綱手の怒りを受けて生きていられる人間が何人いるのかというのが、正直な意見だった。