チャクラを封じると当初の予想通り、の熱は下がったが、代わりにはほとんど動けなくなった。




「手に力が入らないんだよね。」





 はコップすら持てない自分の手を少し叩きたくなったが、そもそも手が上がらないので無理だった。

 生まれた時から莫大なチャクラを持っていたは、その消費のためにもチャクラで躯を動かす助けをすることが多かった。

 そのチャクラを封じれば、当然は自分で身を起こすことも歩くことも出来なくなった。

 ただぼんやり座っているだけ。

 それでもお腹の子どもが動いているのはよく分かるし、退屈なだけで気分も悪くなかった。ほとんど躯を動かすことが出来ないだけだ。





「体調は、悪くないの?」





 サクラは心配そうにをのぞき込む。






「うん。躯が動かない以外は、まだ何もないよ。」 





 自分のチャクラを封印したと同時に、お腹の子供の質の違うチャクラにまともに当てられることになるは、徐々にそのチャクラに犯されていくだろう。

 だが、今のところは大丈夫のようだ。

 当面の問題は動けない、それだけだった。





「・・・このまま2ヶ月ちょっと、もてば良いんだけど。」





 は小さく息を吐いて、自分のお腹を撫でた。

 幼い容姿に不釣り合いな、膨らんだお腹。それでもの表情は今まで見たことがないほどに優しい。





、頑張って。大好きよ。」







 サクラはの手を伸ばし、そっとその体を抱き寄せる。





「絶対子供を抱くのよ。」





 力の入らない手であったとしても、絶対自分の手で抱いて欲しい。

 サクラとて医療忍者で、の状態が決して良くないことも理解しているが、先がないなんて思わないで欲しかった。





「出来れば、そうしたいなぁ。」





 はふわりといつものように笑うけれど、その笑みには諦めも含まれていた。




「おっじゃまー」





 いのの明るい声音が響いて、病室の扉が開く。その後ろにはシカマルとチョウジの姿もあった。




「これ、おふくろからのおはぎだ。」





 シカマルがの傍にある小さな簡易テーブルに大きめの風呂敷包みを置く。

 ナルトはが危ないことを同期にもきちんと話した。だからどちらに転んだとしても、支えてやって欲しいとも。もちろん同期もが妊娠していることは既に知っており、危ないとわかれば誰かが毎日のように病院に訪れるようになった。

 仕事帰りに30分ぐらいなら、誰でも訪れることが出来る。





「ありがとう。おはぎー。」





 もともと甘いものに目のないなので、誰かが甘いものを差し入れしている。

 最近は大分食事も食べるようになり、体重も徐々に増えてきていた。今のうちに体重を増やしておかなければおそらく次に来る子供のチャクラによる体調悪化に耐えられない。

 子供のチャクラとは言え、にとっては異物だ。

 は今チャクラがほぼゼロの状態であり、子供のチャクラであっても、莫大であり異物であれば防御手段も無くもろに当てられることになる。

 元気なうちに、やれることはやって、楽しまなくてはならなかった。





、元気にやってる?」

「うん。ちょっと妊婦らしいことが出来てるよ。」





 この間までぐったりの状態だったのだ。

 それに比べれば、体にだるさは残っているとは言え、本当に気分も良いし、動ける状態だった。通信販売とは言え、赤ちゃん服を見てみたり、食事を楽しんだり、ここ数日とは言え、楽しくやれている。






が妊婦なんて信じられないけどね。」





 チョウジは肩を竦めて言って、の近くの椅子に座る。






「そうかなぁ?」

「まぁ一番早く結婚するのは分かってたけど、なんか釈然としないのよね。」





 いのも何となくチョウジの気持ちが分かって小さく息をついた。その幼げな容姿といまいち妊娠が結びつかないのだ。




「イタチさん、来た?」





 いのはこっそりとの耳元で尋ねる。





「ううん。来てないよ。」





 は首を横に振って否を示した。

 イタチとはナルトの家に行ってからだからもうかれこれ4週間ほど一度も会っていない。イタチは、子供を産むことに対してと言うより、が死ぬ可能性が高いことを受け入れきれないようだ。

 サスケから、兄貴も苦しんでると言われているから、会いたいけれど無理は言えない。

 は子供を自分の命を犠牲にしてでも産むと決めてしまった。勝手に決めてしまったから、イタチがそれを受け入れられないのは仕方がないことだ。




「ちょっと残念。だけどね。」




 はお腹をぽんぽんと叩くと、お腹の中で子供が動いた気配がした。

 としては最近お腹の中の子供はよく動くようになって、が楽しかったり、喜んでいたりするとそれに呼応するようにお腹をノックしてくる。

 自分は一人じゃないと思える。




「イタチに似ると良いな−。」





 が言うと、いのがぷっと吹き出した。





「なに?イタチさんに似たら美形って?確かにね。男でも女でも美形って良いわ。」

「でも、に似たって可愛くて良いじゃない。」







 サクラがいのの言葉に反論してから、「あ」と何かに気づいたようにぽかんと口を半開きにする。





「どうしたのよ。」

「子供がにそっくりだったら、親子三代で同じ顔か・・。」





 サクラは思わずの父・斎の顔を思い浮かべてしまった。

 は父親に性別を超えてそっくりだ。童顔で、彼もまた未だに20代前半くらいの容姿を保っている。

 と斎が並ぶと笑いそうにそっくりなのだが、それに赤子が加わるとなればまた強烈だ。





「確かにそりゃ面白いな。」






 シカマルはにっと意地の悪い笑みを浮かべてを見る。






「うーん。でも性格はぐらい大らかでも良いかも?だってイタチさんってすごく几帳面だって聞くし。」





 チョウジは少し顎に手を当てての顔を見ていたが、うまく子供の顔を想像できなかったのか、性格の話に移った。






「この間胃に穴開け・・・」

「チョウジ!」

「え?」





 シカマルが止めたが、その言葉にの方が目を丸くした。





「・・・イタチ、どうしたって?」





 はチョウジに尋ね返した。

 彼はばつの悪そうな顔をしてシカマルの方を見る。シカマルは全く表情がなく、知らないふりだ。いのとサクラを見ると、ふたりもそっぽを向いていた。





「サクラ?」

「・・・」




 はじっとサクラを睨む。サクラは黙っていたが、の圧力に押されて大きな息をついた。





「うん、一週間くらい前に、イタチさん、胃潰瘍で。」

「・・・悪いの?」

「まぁ薬飲んだら直る程度だけど、ちょっと、鬱気味?過労も。」




 実は4週間前が入院先から逃げ出してから、イタチは相変わらずどうして良いか分からず、悩み続け、区切りをつけることも出来ず、の前で笑うことなどなおさら出来ず、結局仕事に没頭するという方面に逃げたのだ。

 3週間ほぼぶっ続けで任務に参加し、で、一週間前にとうとう倒れたというわけだ。





「そんな、」





 は涙目で目を伏せる。

 の決断が、子供を産むことが彼を苦しめていると、そう知ればそれだけで気分が沈む気がした。