は4日後に意識を取り戻した。
出血多量なら子宮の全摘出も考えるとのことだったが、幸い心臓が手術中に止まったこと以外は大丈夫だった。
生まれたばかりの稜智は妊娠7ヶ月での早産で、赤子の体重はそれでも通常の赤子よりは重く1500グラム程度だったが、たりない。
そのため、少なくとも向こう1ヶ月は入院と言うことになった。
も同じで、チャクラを躯に戻したが子供のチャクラで傷つけられた身体組織の回復には時間がかかるらしく、また限界まで栄養がとれずに痩せてしまっているため、点などを大量につないで栄養補給をしていた。
「おとこ、のこ。」
にイタチが男の子だったことを話すと、は小さく掠れた声で言葉を反芻した。4日、もっとか、眠っていたため、の頭はあまり働いていないらしく、反応は鈍い。
「名前は言ってたとおり、稜智だ。綱手様がしばらくしたら、おまえにも会わせると言っていた。」
イタチが説明をする。
はまだ集中治療室から出ていないため、直接保育器の中にいる稜智に会うことは出来ない。稜智の方は順調に体重が増えそうらしく、1ヶ月程度で退院できそうだというのが綱手の見立てだったが、はどう見ても難しそうだった。
退院したとしても、しばらくは自宅で療養。
正直、忍としての復帰のめどなど到底立たないというのが、実状だった。それ程にの体調は悪く、一人で立てるようになるにも時間がかかりそうだった。
なんと言っても、かれこれ4ヶ月ほど歩いていないのだ。
「う、ん。」
まだ食事すら出来そうにないほど衰弱しているの反応はやはり鈍い。
聞いているのか、聞いていないのか、喜んでいるのか、いないのか、それすらもこちらが感じられないほどに、戸惑いだけを浮かべては横たわっている。
「どうした?体調が悪いか?」
イタチは不安になって、の手を強く握る。
「うぅん、なんか。」
はイタチの手を僅かに握り替えして、自分の腹に目を向ける。
「なんだか、寂しくて、」
お腹、空っぽになっちゃった、と小さく言う。
今まで、人よりも短いとは言え七ヶ月間も赤子と共に過ごしてきたのだ。突然お腹にいた重みがなくなってしまう寂しさは、イタチが感じるような喜びよりも大きいのかも知れない。
「でも、ありがとう。おかげで俺は稜智に会えた。」
イタチはの長い紺色の髪をそっと撫でる。
には本当にこれ以上ないほどに感謝している。稜智を見た時の感動は、今もイタチの胸の中にくすぶっている。小さい、本当に小さくて、けれど酷く重い命だった。
簡単に、失われかけた命をつないだのはだ。
「、早く元気になれよ。稜智はいつまでたっても母親に抱いてもらえない。母親は、大きいものだぞ。きっと俺なんかよりな。」
結局子供を作った張本人ながら、イタチが出来たのは本当に少しだった。
が堕胎しないと決断し、自分の躯を犠牲にしても産むと決め、そして実際にそれを自分の躯で実行した。
多分、父親などよりもずっと、母親の存在というのは子供の中で大きいもののはずだ。
稜智だって母親に抱きしめてもらえることを望んでいる。直接愛情を与えてもらえることを誰よりも子供は望んでいるはずだ。
「でも、わたし、手に、力が、」
手に力が全く入らないのだと、は震える声で言う。
自分のチャクラを完全に封じることによって、は膨らむ子供のチャクラに耐えた。だが、はそれによって自分のチャクラで躯を守ることが出来なくなり、他人のチャクラである子供のチャクラに躯を蝕まれた。
元々は躯をチャクラで動かしており、チャクラを封じることによって動く力すら失うことになった。今は再びチャクラを戻したとは言え、身体機能が戻るまでに時間がかかる。
「泣くな。おまえの完全勝利なんだからな、」
の目に涙が浮かぶのを見て、イタチはの手を強く握りしめる。
「ひとまずおまえは躯を第一に考えろ。子供も、俺たちも大丈夫だから。」
「うん。」
は小さく頷いて、少し躯を動かしたが、痛むのか表情を歪める。
「痛いか、」
「うん。躯、動かしてないからね。」
筋肉が固まってしまっているのだ。
イタチはの手首をほぐすように、彼女の手首を回す。少し痛みがあるらしく、は眉間に皺を寄せた。
「?体調はどう?」
サクラが明るい声音と共に部屋に入ってくる。
「あれ、イタチさん。邪魔しました?」
「いや?全く関係ないことをしてただけだ。の手首の関節が硬いなと思ってな。」
「仕方ないですよ。数ヶ月動かしてなかったんですから。」
イタチの不安にも医者のサクラはあっさりと答えて、につながれている機器や点を確認した後、のベッドの近くに座った。
「あの、サクラ、赤ちゃんは?」
「うん。元気よ。と言うか、本当にびっくりするほど元気なんだから。今日は起きたばかりだから、検査をして、明日何もなかったら、連れてくるわ。」
の体調は決して良くない。
本当なら子供をすぐに会わせてやりたいところだが、起きたばかりで何があるかは分からない。まず検査をして様子を見るのが最初だ。
「ふぅん。かわい?」
「イタチさん似で可愛いわよ。」
生まれたばかりの時は真っ赤だったが、赤みが消えると色白で真っ黒な髪のとても可愛い赤子だった。
「イタチに似てるの?」
「黒髪だしな。」
顔の彫りの深い、精悍な顔つきはイタチに似ているのだろう。瞳の色もイタチに似たのか真っ黒だ。
「そっか、イタチに似たら絶対綺麗だね。」
「綺麗ってなんだ。」
「えー綺麗だよ。イタチは美人さんだよね。」
はサクラに同意を求める。
「美人さん、確かに言われて見ればそうよね。サスケ君とナルトは赤ちゃんに夢中だし?」
「え?なんで?」
「知らないわよ。黙ってじーって何時間も保育器の中眺めてんの。」
可愛いのは分かるが、サクラには理解できない。
サスケとナルトは子供に思う所がある、と言うか物珍しいのかよく分からないが、ひとまず時間さえあれば二人仲良く(それ自体が日頃あり得ないことだが)赤子を眺めている。
「サスケとナルトは、子供も見たの、初めて?」
「そうだな。あいつらは初めてかも知れないな。」
イタチは弟のサスケが生まれた時、4,5歳だったため、結構記憶が残っているところがあるため、赤子に対してもあまり戸惑いはなかった。
も初めてだが、炎一族の赤子を何度か近くで見たことくらいはある。
だが、サスケとナルトは下の兄弟もおらず、親族に近しい年齢のものもいなかったため、赤子を見たことがないはずだ。
そういう点では考えるところが二人にはあるのかも知れないなと、とイタチは顔を見合わせた。