「かっわいーーーー!!!」
いののテンションのあまりに高い声が東の対屋に響き渡る。
いのの腕に抱かれているのは生まれたばかりのイタチとの息子・稜智だ。まだ4ヶ月ほどの息子はよく分かっていないのか、機嫌良くいのを見上げている。
「目がくるくる真っ黒で本当に可愛いね。」
赤子を見下ろしていたヒナタが両手をそろえて言う。
「・・・そうかぁ?」
キバはよく分からず女組の意見に反論したが、その途端ぎろりとサクラが睨んだ。
「苦労したに何か一言無いわけ?」
「・・・ご苦労様でした。ご出産おめでとうございます。」
キバは先ほどとは打って変わって礼儀正しく頭を下げる。
「あははは、良いよ?」
は穏やかにそう言って、大きなソファーに腰掛ける。
寝殿造りの板張りの床に置くにはあまりに不釣り合いな品だが、出産してから立つことすらままならなくなったが、楽に座ったり眠ったり出来るようにとの両親が与えた物だ。
はそこに背もたれと共に座っている。
「キバってば、子ども嫌いなのか?こーんな可愛いのに。なぁ。」
ナルトはふにふにと赤子の柔らかで白い頬を指でつつく。
ナルトは最近生まれたばかりの稜智にめろめろで、足繁く炎一族邸に通ってきている。任務が終われば即やってくるので、最近はサスケがやっている子どもの世話も半分くらい出来るようになった。
「ちっちぇぇな。」
いつもはクールなシカマルも興味津々で赤子を見下ろしている。それはチョウジも同じで「次俺!」と赤子を抱いているいのに訴えた。
「おいおい、そっとしろよ。」
サスケはいのの抱き方にもはらはらしていたが、慣れていない上男のチョウジとなれば心配なのだろう。
「まぁ。サスケが見てるなら大丈夫だろ。」
「兄貴も心配しろよ。」
「サスケが心配してくれるから、大丈夫さ。」
ソファーのの隣に座っていたイタチは、明るく笑う。
サスケが必死などに比べて、イタチは大らかで細かいことは気にしていない。任務で忙しいイタチなので、家事と育児はかなりの部分がサスケ任せだ。母親のは生憎体調が整っていない。
それでも、幸いの両親である斎や蒼雪が同居で色々手伝ってくれるおかげで、育児ストレスを感じなくて済んでいる。何より初めて生まれた幼い甥っ子に戸惑いはしているが、可愛いに違いは無い。
「いずち可愛いってばよー。」
ナルトは稜智をいのから奪うようにして抱き上げる。
「ちょっ!ナルト!」
「いーじゃん。俺の弟で良いってが言ったもん。なぁ!」
いのが抗議の声を上げると、ナルトはを振り返る。
「まぁ、おじちゃんよりは、お兄ちゃんの方が、素敵かなぁって。」
「な?な?俺の弟!!」
兄弟のいないナルトにとって兄弟はあこがれだったらしい。
ちょうど仲良くしているに息子が生まれたとは言え、まだ17歳だ。息子と言うには早すぎるため、ナルトは弟だと思っているようだ。
元々ナルトは両親を早くなくしており、後見人はの父である斎だ。幼なじみでもあるため、もでナルトのことを、息子にとって頼りがいのあるお兄ちゃんで良いじゃないかと思っている。
「そうだな。サスケは少し神経質だから、ナルトが大らかで良いんじゃ無いか。」
「神経質って、ナルトも兄貴達も適当すぎるんだろ?」
イタチがあまりにもあっさりと言うから、サスケはナルトの抱き方にはらはらしながら、ため息をつく。
イタチは細かいが、それを他人に求めようとはしない。は物を知らない部分が多く、それ故に細かいことが気にならない。ナルトは性格が元々大らかだ。
対して家の中で一番細かいのはサスケで、育児に関してもマニュアルや本をありったけ読み、その上、経験者であるの父母に経験談を聞きまくるという努力をした。
ちなみに、ナルトやイタチは斎から聞いただけだ。
「だいたい初めての育児だってのに。なんとかなるとか意味のわからねぇことばっかだろ。」
サスケは不機嫌そうな顔でぶすっと言った。
他の家族の大らかさが、サスケとしては危機感を煽る部分がある。また、一連の事情のせいで、兄が自分が思っていたほど万能では無いことも、迷惑をかけたことも分かっている。サスケとしては甥っ子の育児に失敗は許されないと一生懸命になったわけだが、実の親となったイタチとは酷く大らかで、こちらが緊張するのがばからしくなるほどだ。
「案外育児疲れなの?サスケ君。」
庇に出ていたサクラが御簾の中に入ってきて、尋ねる。
「そういうわけじゃ無い。稜智は可愛いし。」
「えー疲れてるんだったら、任務俺とチェンジしようぜ。俺が稜智みたい!」
サスケが言うと、ナルトが片手で稜智を抱いたまま、片手でサスケの肩を叩く。
「なんでだよ。」
「え、決まってるってばよ。任務より稜智可愛いもん。嫌なら変われってばよ。」
「断固拒否する。任務を押しつけられてたまるか。」
サスケは素っ気なく返す。
「別に苦痛なわけじゃ無いさ。兄貴達の脳天気に苛立つだけで。」
「脳天気とは酷いな。」
「誰だよ。母乳吐き出した時に“あれ?”とか言った奴。」
「それをそっくりそのまま返すぞ。誰だ。“病院!!?”とか叫んでパニックになったのは。」
イタチはサスケを鼻で笑って、の方を見て目を合わせて笑った。
「サスケの焦りっぷりは酷かったってばよ。ぷくくくく」
「おまえらが焦らないからだろ!?」
ナルトが笑えば、サスケがむかつきついでに近くにあった鞠を投げようとして手を止めた。
ナルトが赤ん坊を抱いていると言うことに気づいて、投げられなかったらしい。代わりに投げつけたのはイタチだ。
当然あっさりとそれを受け止めたイタチはそれをに渡す。
「まぁ、そんな感じで、みんな仲良しうまくやってるよ。」
「なんかそれがよく分かったわ。今ので。」
いのは頭をかりかりとかきながら、小さく笑う。
も楽しそうに笑って、鞠をついていたが、何かがぽたりと落ちた。
「ぁ、れ?」
それは口と鼻から出た、血だった。は焦った様子も無く、どうしようとでも言うように目をぱちぱちさせて、落ちてくるそれを手を押さえている。
「!」
隣にいたイタチが慌てたようにの肩に手をかける。サスケはあまりの事態に声すらも出ず、ナルトはただ、赤子を抱きしめているだけだ。
「!ちょっと、男ども、タオル!!」
サクラが狼狽を押し殺した声音で慌てて男達に言い、の手をどける。サスケが弾かれたように立ち上がってタオルをとってきて、サクラに渡した。
「これで押さえて。大丈夫?」
「う、うん。止まら、ない。どうしよう、」
が真っ赤に染まっていくタオルを見て初めて、困惑するような声音を上げた。
「ん、あ、たま、痛い。」
「ひとまずタオルで押さえて、病院に行きましょう。」
「また?」
の紺色の瞳が、哀しそうにサクラを見上げる。
また子どもと離れなくちゃいけないのかと問われたような気がして、サクラの心が酷く痛んだが、それでも今、この場で出来ることはありそうになかった。