「・・・なんでこんなことになったのかな。」
ミナトは目の前に並んでいる4人の子どもを見下ろす。
紺色の長い髪の幼女はその大きすぎるほどに大きな紺色の瞳に涙を一杯ためて、頭を押さえて大泣きしている。ミナトの弟弟子の娘である姫だ。
その隣でを一生懸命慰めている幼女は桃色の髪で、同じ年頃。おそらくミナトの息子が思いを寄せているという“サクラちゃん”だろう。
泣いているの隣で片方の頬に紅葉を作り、金色の髪で、水色の瞳を潤ませてを慰めているのが、ミナトの息子、ナルトである。
そして最後の一人は黒髪で、ナルトと同じように頬に紅葉を貼り付け、不機嫌そうな顔ながら泣くを窺っている子どもが、うちは一族の嫡男サスケだ。
「えっと、どうしたの?」
ミナトは戸惑いながら膝をついて泣いているの頭を撫でると、隣にいたサクラがむっとした顔で隣の男二人を指さした。
「ナルトとサスケくんが、けんかして、にぼーるをぶつけたの!」
説明できないの代わりにサクラがミナトに言う。サクラはさぞ怒っているらしく、目尻をつり上がっていた。
「えっとぶつけ間違ったってこと、かな?」
ミナトは息子に目を向けると、しょぼんと素直なナルトは項垂れた。
「おれ、サスケになげたの、サスケがぼーるなげて、そしたら、」
にあたっちゃった、泣きながらナルトは素直に白状した。サスケも投げられたから投げ返したわけだが、近くにいるに頭が回らなかったらしい。
「、ごめんね?どこを打ったの?」
ミナトは息子の所業であるため謝り、の頭を確認する。ボールならたいしたことは無いだろうが、一応ナルトの所業である以上、友人の娘とは言え、親に謝りに行くべきだろう。
の父親である斎と母親である蒼雪の顔を思い浮かべていたミナトは、の頭を撫でて、手についた液体に目を丸くした。
「え?」
ボールをぶつけただけだろう?と思わずミナトはナルトに問いたくなったが、よくよく考えればがこれほど泣きじゃくること自体が珍しいことで、ボールがぶつかったなんて一過性の問題ではなかったのだ。
「ひとまず・・・」
医者!とミナトは結局を抱えて病院へと急ぐこととなった。
「良かった。たいしたことなくて・・・。」
ミナトはひとまずほっとして息を吐く。
はと言うと、病院で一日検査と言うことになったが、手当をされればけろっとして、退屈そうに布団をぽんぽんと叩いている。怪我はただ単に血が出ただけで、頭蓋骨に損傷もなく、内出血も無いと言うことだった。
道理でナルトが泣きじゃくってパニックになるわけだ。
「良かった良かった。たいしたことなくて。」
の父である斎は、娘にあんパンを与えながら軽く暢気に言う。は甘い物に目がないためそれにすぐに手を伸ばして食べ始めた。どうやらもう大丈夫なようだ。
「あんた!女の子に傷つけてなにやってんの!!」
連絡を受けて慌てて駆けつけたクシナは遠慮無くナルトを殴り飛ばす。
「ごめんってばよ〜。」
ナルトはえぐえぐ泣きじゃくりながら、の傍で謝っていた。サスケはあまりのショックにどうして良いのか分からないらしく、泣くのを我慢するように口をへの字にしていたが、手が小さく震えている。連絡は既にしてあるから、後からサスケの親か兄がやってくることだろう。
二人ともサクラにも殴られていたそうだから、親にまで怒られるとダブルパンチで気の毒だが、なんの関係もないのに頭に傷を作ったの方がもっと可哀想なので、ミナトは庇ってやることは出来そうになかった。
なんと言ってもクシナは恐ろしい。ただもう一人、サスケの兄であるイタチものことになると恐ろしいので、後々怖いだろうなとミナトは怒られている息子を尻目に、サスケに哀れみの目を向けた。
「本当に姫には可哀想なことをした。ごめんね。」
ミナトがと斎に言う。
「えー、ミナト。気にしなくて良いよ。それにどうせこの子のことだから、喧嘩の隣をのこのこ歩いてたんでしょ?」
斎は子どもの性格がよく分かっているらしい。全くその通りでミナトはため息をついた。
よくよく子ども達に聞いてみると、やはりことの始まりはナルトとサスケの喧嘩だった。
四代目火影の息子であるナルトと、うちはの嫡男であるサスケの喧嘩は前から良くある話で、大事や大けがにならない限りは男の子同士の喧嘩だ。放って置くのが常になっていたし、喧嘩が始まると周りの子ども達も二人を遠巻きに見守るのが普通だった。
ところが、超がつく天然かつお嬢さんでぼんやりしているは目の前でやっている喧嘩が気にならなかったらしい。
蝶々を追ってふらふらと喧嘩に近づいたかと思うと、案の定ナルトが投げて、サスケが投げ返したそのボールにあたり、それだけならまだ良かったのだが、その弾みで転び、近くのブロック塀に頭をぶつけたそうだ。
「もこれからはもう少し周りに目を配るんだよ。」
の父親である斎は、の額をぴんっと指で弾く。
「あう。」
は小さな悲鳴を上げたが、別段気にした様子もなく、またあんまんを食すに戻った。全く暢気な子どもである。
「本当にごめんね。女の子の頭に傷をつけるなんて!」
クシナはに頭を下げる。息子の所業だから、もう言い訳の余地などない。ましてや女の子に傷なんて、と言いつのった。
だが、とうのはよく謝られる理由が分かっていないらしい。
「ね?くしなのおばちゃまどちたの?」
不思議そうには斎に尋ねる。
「ん?え?ナルトとサスケがにボールをぶつけてが塀に頭をうって怪我しちゃったからだよ。」
「・・・?くしなのおばちゃま、ない。」
「うーん。ナルトのお母さんだからね。ナルトがに痛いことしたから、謝ってるんだよ」
「・・・?ナルト、わるい?」
「うん。だからね。ナルトが投げたボールをサスケが投げ返して、それがに当たったから、塀にぶつかったんだよ。で、そのことでナルトが悪いから、お母さんのクシナも一緒に謝ってるんだよ。」
「・・・?へいでいたいいたいしたら、なるとあやまる?」
斎が何度説明を繰り返しても、一向には理解できないらしい。ナルトが投げて、サスケが弾いて、それがにぶつかって、その反動で塀に頭をぶつけたわけだが、が理解できているのは塀に自分が頭をぶつけたと言うことだけのようだ。
説明するだけ無駄だろう。
「ってば、あったまわっるー。でも僕の可愛い娘だから良いよ〜」
斎は面倒になって、笑ってを抱きしめる。
いつもそうだ。は基本的に他人よりも成長が非常に遅く、どうしようもないほどに理解力が乏しく自分の方面からしかものが考えられない。いちいち説明していてはきりがないのだ。そういうも、娘であるから、斎はすっきりと認めている。
「きゃぁ〜」
は歓声を上げて斎の腕をペちぺちと叩いた。
気にしていない様子のに、ミナトは安堵の息を吐く。多分は頭をぶつけたことを誰のせいとも理解していないから、別に問題ないだろう。親の斎もおそらく気にしていない。
後はぶつけた本人であるナルトとサスケ、そしてその親たちがどう考えるかという点だ。
「本当にごめんってばよ、もうしない。」
ナルトは赤く腫れた頬を手で押さえ、もう片方の手で目元を擦りながら、一生懸命謝る。
「なんで泣くの?いたくないよ?」
はよく分かっていないので、真剣な顔で謝るナルトに首を傾げるばかりだ。斎はの手をふらふらさせながら、娘の額に口づける。
「、もう良いよ。って、言っておあげ。、気にしてないでしょ?」
「うん。きにない。ないよ。」
が拙い言葉で許すと、ナルトはますます泣きじゃくった。
天真爛漫