クシナも恐ろしかったが、サスケの兄であるイタチも十分に恐ろしかった。





「何やってるんだ!」





 日頃では考えられないほどの剣幕でサスケを一度怒鳴りつけ、一発殴り飛ばし、次は師でありの父でもある斎に平謝り。





「本当に申し訳ありません。兄として一緒に謝ります!」





 サスケの頭も無理矢理深々下げて、イタチは無駄に怒鳴りつけることなく、最短、潔すぎる親として(親ではないが)模範的な態度にミナト、クシナ、斎は拍手を送りたくなった。

 同年代の親でもなかなかここまで早い対応は望めないというものだ。





「すいません。父母は任務から戻り次第謝りに来ます。今任務で。」

「いや、たいしたことないから良いよ。イタチ。」




 斎は自分の弟子にひらひらと手を振って、宥める。

 子ども同士の喧嘩の巻き添えを食っただけで、正直な話サスケ、ナルト共に悪気があったわけではない。反省もしている。だから親として斎が怒ることは別段なかった。





「本当に、イタチ君ってしっかりしてるよね。」





 ミナトは思わず感心するしかなかった。

 両親が忙しく、弟の世話をよくし、アカデミー始まって以来の天才で、暗部の親玉と名高かった斎の弟子となっただけでなく、非常に常識や礼儀にもきちんとしているらしい。

 遅刻癖のある斎をたたき起こすだけのことはある。





「本当だわ。ちょっとナルトも見習いなさい!」

「いてててて!母ちゃん!痛いってばよ!!」





 クシナはナルトの耳を思いっきり引っ張る。






「いたちー」





 は嬉しそうにイタチに手を伸ばした。まだ頭は痛いようだが、イタチの顔を見ればそれも吹っ飛んだらしい。イタチを慕っているらしい。





「大丈夫か?頭は?」





 イタチはを抱き上げながらも、頭の様子を確認する。





「ん?こけた。」

「は?おまえ、ボールに当たって塀に頭をぶつけたんじゃないのか?そう俺は斎先生から聞いたぞ。」





 斎の式神で事情に関してはすでに聞いている。だが、なにやらの認識とは違うらしい。





「うん。いたいいたい。」




 は少し痛みを思い出したのか、自分の頭を小さな手で抱える。





「・・・?」

、ナルトが投げて、サスケが投げ返したボールに当たって、ブロックに頭をぶつけたこと、全く分かってないんだよ。放って置いてあげて。」





 の意味の分からない説明に混乱するイタチにあっさりと斎は言ってから、殴られて項垂れているサスケに目を向ける。






「サスケもそんなに気にしなくても良いよ。」






 斎はサスケの頭をくしゃりと撫でる。

 ナルトのように泣きじゃくることはなかったが、が頭を打ったことを自分のせいだと責めているサスケの後悔は間違いないだろう。不器用なので素直に謝れず、黙り込んでいるだけだと、斎はよく分かっていた。

 傾ける感情は決してナルトと相違あるものではない。





、よく聞けよ。」





 イタチは諦めず、に説明を試みる。






「まず、ナルトがサスケと喧嘩をして、ボールを投げたんだ。」

「うん。なげた−。」





 は投げたふりをする。






「それを、サスケが投げ返した。」

「うん。」

「ボールはの背中に当たった。」

「うん。あたった。いたかった。」





 の背中にはボールが当たった痣があって、今は湿布が貼ってある。頭に比べればたいしたことの無い痣だ。






「で、だ。おまえは、次はどこにぶつかった?」

「んー、へい。」

「そうだな。で、だ。は痛かったな。」

「いたい。」






 もちろん痛くないはずもない。頭まで打って血が出たのだから。






「痛くないのは誰だ?」

「ナルトとサスケ−。・・・あ。」





 はやっと意味が分かったらしい。長い説明の後、やっと謝られている理由を理解したは何度も頷く。





「・・・お兄ちゃんって、すごいんだね。」





 ミナトはきちんとに言い聞かせたイタチに驚きながら、少し冷たい視線を斎に向ける。父親である斎はにそもそも言い聞かせる気が無かったらしい。

 真面目なイタチは説明せずにはいられなかったのだろう。





「・・・ごめんなぁ・・」





 ナルトは絶えきれなくなったのか、に抱きついて謝罪を繰り返す。基本的にナルトは性格は優しいので、どうしてもの頭を見ると罪悪感にいたたまれなくなるらしい。





「なると?・・・はだいじょうぶ。ね?」





 ナルトがあまりにも泣くので、は一生懸命抱きついてくるナルトの背中を撫でていたが、自分もなんだか哀しくなってきたのだろう。一緒になって泣き出してしまった。

 それにつられてサスケもいたたまれなくなって、突然に抱きついて、声を上げて泣きじゃくった。彼もまた、の怪我のことを存外気にしていたのだろう。





「・・・ほーら。騒ぎが大きくなった・・・。」






 斎はちらりと説明したイタチを見て、息を吐く。





「あらあら、泣いちゃったわ。」





 クシナも困ったような顔でを真ん中にして団子になって泣いている子供達に困った顔をする。病院でうるさいことこの上ないが、これも良い経験だろう。

 これで少しはサスケとナルトの喧嘩も治れば良いものだが。






「みんな反省したみたいだし、良い経験になったんじゃないかな。」





 ミナトも泣きじゃくる息子達を見て、仕方ないなぁと笑う。




「・・・そういえば、なんではナルトとサスケの喧嘩に巻き込まれたんですか?」





 理由をすべて知るわけではないイタチが、斎に尋ねる。

 普通ナルトがボールを投げて、サスケがボールを投げ返しても、サスケが投げ損ねない限り他人に当たることはない。だがサスケはどちらかというとボール投げなどは上手な方だ。





「決まってるじゃない。ふらふら真ん中を歩いたんだよ。蝶々か何かに気をとられて。」






 斎は呆れたように腰に手を当てて言う。

 サスケとナルトが喧嘩をしているど真ん中をはなんと通ろうとしたわけだ。ある意味で当たって当然である。





「ちょっとも学習しないかな。」





 斎は腕を組んでため息をつく。それと同時ぐらいに病室に駆け込んできたのは、サスケの父親であるフガクだった。





「斎さ、宮、よ、四代目、失礼します、あ、え、宮は大丈夫ですか!?」





 フガクは真っ青な顔で四代目火影であるミナトを見て、挨拶の順序を焦ったようだが、慌てて斎に尋ねる。





「大丈夫ですよ。あそこで団子で泣いてます。」





 斎はまだを抱きしめて泣いているサスケとナルトを示して、笑う。




「え。あれ?え?」




 全く事態を飲み込めないフガクは戸惑いながら呆然と子ども達を見る。




「父上、一応サスケも反省しているらしいですよ。」




 イタチは後からやってきた父親に簡単な説明をすると、フガクも納得したのか、斎に深々と頭を下げた。




「申し訳ない。娘さんに怪我を。」

「飛び出した娘も悪いので、気にしないでください。]





 斎はあっさりと言って、ひらひらと手を振る。団子になっている子ども組はそれぞれ思う所があるだろうから、これ以上怒ってやるのは可哀想だ。

 えぐえぐ泣く子ども達を前にして、親たちは苦笑するしかなかった
天真爛漫