って本当に大人しいわぁ。」





 クシナはの母である蒼雪を見て呟く。灰青色の瞳を瞬いて、蒼雪は首を傾げた。






「なんですの。突然。」

「だって。ナルトってばうるさくて。」






 クシナの息子に対する嘆きは、ナルトが歩くようになってから長らく存在する物だった。

 先日を巻き込んでナルトとサスケがした喧嘩についての話だろう。特にナルトは落ち着きがない性格は自分に似たとクシナが嘆きたくなるほどに、ひどい。いたずらっ子であり、父親であるミナトが優しいこともあり、歯止めが利かない時があった。

 できれば性格はもう少しミナトににても良かったと常々思っている。息子は母に似るというので、仕方ないのかもしれないが。






「そんなの、うちも同じじゃ無いの。」





 クシナの嘆きを聞いていたミコトは、ため息混じりにクシナを見る。





「サスケも無愛想だけど、結局やっていることは一緒よ?」





 ミコトの息子、サスケもなかなかの問題児だった。

 ナルトは確かにいらないことしいで、サスケを煽ることもあるが、サスケも十分に子どもで、喧嘩をかい、また喧嘩を始めたら始めたで周りに目が行かなくなる。幼なじみのを周りを巻き込むことも多々あった。クールに見えてもやっていることは一緒である。






「うちはとろいだけですわ。」





 動きが遅くてとろいので大人しいと勘違いしがちだが、蒼雪の娘・はいらないことしいで、穴があったら入りたいし、木があったら上りたいし、紐があったら引っ張りたい。極めていらないことしいだ。そう言う点はナルトを上回るところがある。





「東宮、顔が斎様にそっくりよね。」






 ミコトは紅茶のカップを傾けながら、蒼雪の娘であるの話を振る。





「そうですわね。小さい時の斎とうり二つです。」





 比較的息子は父親に似ると言うが、はびっくりするほど斎そっくりで、紺色の髪とくるりとした紺色の瞳は、親子を通り越して同じ年頃の斎の写真にそっくりだ。あまり性格は似ていないとは言われるが、母である蒼雪から見ればとろいだけで、斎そっくりである。


 親子二人同じ顔が大小でじゃれ合っているのを見ると、正直蒼雪は笑いそうになる。





「そういえば、。イタチ君とはどうなの!?」




 クシナは突然目を輝かせて蒼雪に訪ねる。

 イタチとはミコトの長男で、サスケの兄だ。は5つほど年上のイタチが大のお気に入りであり、幼いながら誰が見ても分かるほど素直に彼を慕っていた。





「この間、うちの家にいる時に千羽鶴を折ってイタチにあげるんだ−とか言ってたのよ。ホントかわいいってばよ!」





 クシナは明るい色の髪の毛を揺らして手をぶんっと上から下へと振る。





「あっ!あれって東宮からもらったの!?」





 ミコトは漆黒に瞳を丸くして、開いた口を手で覆う。

 先日束になった鶴をイタチが持って帰ってきたのを知っていた。おそらく千羽には足りていないだろうが、失礼ながら千羽鶴をもらうなんて病気のお見舞いのようだなと思っていたのだ。

 イタチの方は相変わらず憮然とした態度で、「誰にもらったの?」とミコトが聞いても無言だったが、もしかするとただ単にからもらったというのは恥ずかしかっただけかも知れない。






「そうそ。もー!子犬みたいでめっちゃかわいってばよ!」






 乙女心は複雑とか言うが、まだ幼く素直なはどこまでもストレートだ。悪気も全くなく無邪気そのもので、斎の教え子であるイタチが来るのを楽しそうに待っている。その姿は誰が見ても可愛い。

 の成長が遅くて背が小さく、その割に目が大きくて人形みたいな容姿もあって、某金融コマーシャルの犬のように見えるのだ。来ないと聞いた時に潤む瞳が可哀想で、どうしても協力したくなる。






「イタチさんが迷惑していなければよろしいんですけど。」





 蒼雪は幼い娘の行動に小さくため息をつく。千羽鶴を送っても、いい年のイタチには少し迷惑かも知れない。そもそも真面目なイタチだ、幼いが構って欲しいと慕えば、拒むことは出来ないだろう。

 そう思った蒼雪の懸念に、慌てた様子でミコトは首を振る。






「ないない!迷惑だなんてないわよ!だって東宮と一緒にいる時頬がにやけてるもの!」





 母親の目から見ても、イタチはが好きだ。


 ことあるごとに炎一族邸を訪れるのは師である斎に会いたいからかと最初ミコトも思っていたが、どうにもに会いたいだけらしい。しかも9歳でいろいろなことが分かってきたせいか、の前で良い格好がしたいとか、そう言う感情もあるようだ。






「あ。そういえばこの間髪紐もらってましたけど、よろしいんですの?」





 蒼雪はミコトに訪ねる。

 先日長期任務から帰ってきたイタチから、は綺麗な組紐をもらっていた。娘はそれを随分と気に入っており、綺麗な房飾りのついたそれを毎日つけたがっていたため、よく覚えている。

 蒼雪も任務で忙しかったため知らなかったが、父親である斎曰く、もらってすぐには報告に来たそうだ。嬉しそうに。






「贈り物!まーすごいってばよ!私達が10歳の頃は考えもしなかった!」





 任務に出ることもあったけれど、少なくともクシナは好きな人にわざわざ物を贈ろうなどとは思わなかっただろう。相手がいなかったというのもあるが、周りにもそう言う子どもはいなかったように思う。

 そう言う意味では、イタチは早熟だ。





「良いのよ。良いのよ。自分の給料で勝手にやってることだから。」





 ミコトは息子のいじらしさに苦笑しながら、手をひらひらと振る。

 この間の任務は短冊街近くで現地解散だったと聞いている。朝、解散で夕方過ぎに帰ってきたから、間違いなく彼は散々迷ったのだろう。その労力がの喜びという形で報われたのなら、何よりだ。





「それにしてもうちのイタチにはもったいないけど、娘ほしいわ。」

「わかるわかる!正直うちもナルトだけだし、手がかかりすぎてどうしようもないから仕方がないけど、娘もほしかったわ。」





 男ばかり二人も産んだミコトだが、女の子がほしいという願望がものすごくある。それはクシナも同じで、を見ているとたまに、女の子が良かったなと思うこともあった。







「まぁそりゃかわいい娘ですけど、父親とペアルックしてるってどうなんでしょうね。」





 と斎がそっくりであるため、二人で熊さんパジャマを着てみたり、父親の斎は悪のりしている。娘がかわいいのはわかるが、蒼雪としては恥ずかしいからちょっと控えてほしいものだ。いい年なのだし。




「そういや、サスケ君。のこと好きなんじゃ無いの?」




 クシナは楽しそうにぷにっと蒼雪の頬をつつく。





「確かに。宮とイタチさんがラブラブしていると不機嫌ですわよね。」




 蒼雪も思い出したのか、小首を傾げてミコトを見る。ミコトはうーんと顎に手を当てて考え込んだが、1つ頷く。





「多分・・・そんな気がする。なんだかんだで、東宮と遊びたいみたいだし?」






 母親同士が親友。父親同士は兄弟弟子という間柄のとナルトは、親の都合上良く一緒に遊ぶし、預かられる時もどちらかの家が多い。そこにサスケが混ざることも多いわけだが、やはり両親共に繋がっているふたりが遊ぶ機会は多いし、どうやら性格もあうらしい。

 それにサスケが焼き餅を焼いているのは、ミコトも知っていた。





「兄弟で女取り合って喧嘩なんて、ロマンだってばよ!」





 テンションが上がってきたのかクシナは机を叩く。と、その時、ミナトと斎、イタチが子ども達と共に帰ってきた。






「ただいまってばよー母ちゃん!」






 ナルトが一番に走り込んできて、その後に少し恥ずかしそうな顔でぶすっとしたサスケが続く。噂をされていたはと言うと、イタチの背中の上で非常に幸せそうに眠っていた。好きな相手におんぶをされて眠っていられるというのは、さぞ幸せなことだろう。

 今日は休みのミナトと斎が子どもを連れて動物園に行っていたのだ。





「お、おかえり。」






 クシナは慌てて先ほどのことを取り繕うように机の上の片付けを始める。





「あらあら、また寝てしまって。重かったでしょうに。」





 蒼雪がイタチの背中の娘を見て、息を吐く。またイタチに迷惑をかけたらしい。そう思って眉を寄せたが、イタチは軽く背中のを揺すりながら、首を横に振った。






「いえ、俺も、たのしかったから。」





 イタチは動物園を大人しく楽しむようなタイプではないし、子ども向けの小さな動物園などイタチにとっては楽しくなかっただろう。実際にミコトが連れて行った時はぶーぶーと文句を垂れていた。

 だから、楽しかったのは動物園では無いだろう。

 酷く満足げな表情でをおんぶしているイタチをじっと羨望の入り交じった目で見ているサスケを見て、ミコトはため息をつかざる得なかった。





「・・・・・・いつか、もめるんじゃないかしら。」






 ぽつりとした呟きを聞いたものはいなかった。












野次馬根性ママンズ