は幼い頃から素直で、随分と無邪気な子供だった。というか少し馬鹿だった。
「ひどいんだよ。ちちうえさまがぐーだして、ぼくはちょきだすからっていうから、ぐーだしたのに、ぱーだすの。ひどくない?」
拙い言葉でイタチに説明する。
要するにの父でありイタチの師でもある斎が、の干菓子をほしがったらしい。大人げなく真面目に娘と争って、じゃんけんで決めようという話になった。は素直だから、斎が「はぐーを出してね、僕が負けてあげるから、」という言葉を信じて、グーを出したらしい。当然斎はぱーを出してに勝利して干菓子をとったという。
子ども相手に何とも最低の話である。
「だからな、。それは嘘だって言っているだろう。」
イタチは何度もに言っている。そう、これが初めてではないのだ。
斎はたまにずるいことをする時があるのだ。なのに、毎回は幼いせいかそのことを忘れて騙されるのだ。
は確かに他人より少し知識が遅れている部分がある。だが、いい加減に覚えても良いものではないかと思わなくもない。
「だって、ちちうえさまが、こんどはしないっていったもん。」
「だからそれ嘘だ。それに斎先生は口だけはうまいんだから。」
大人でも口論でやり込めるのはお手の物だ。小さななど難しくはないだろう。
「何回もだまされるって馬鹿だよね。」
サスケは近くにあったてるてる坊主をいじりながら、言う。
正直こんな話は初めてでは無いのだ。がきちんと気づき始めたのが最近だと言うだけで、前からそう言う話は合った。だがは随分とのんびりした子どもで、だから今までは負けたことに不思議そうな顔をしていただけだった。
今更不満に思っているの方がサスケには謎なのだが、年の割に鈍いには分からなかったらしい。
自分が馬鹿だと言われたことがよく分かったのだろう。
はむっとした顔でサスケに鞠を投げつけた。よく弾む鞠は、サスケの頭にバウンドしてから御簾の向こうに飛んでいく。
「いって!何するんだよ!」
「だって、ごめんねっていうんだもん!」
さっきの斎の話だろう。
「だからって鞠投げつけてくるなよ!」
「サスケがいじわるいうから!」
「二人ともやめろ。」
喧嘩を始めたサスケとにイタチはため息をついて、二人を宥める。
鈍かっただが、最近徐々にいろいろなことが分かるようになった。それも成長なのでよい事だが、それがサスケと一緒だと問題を生む。
サスケは今までが分からないのを良いことに、結構酷いことを言っていた。それをが理解して怒るようになったから、小競り合いが起こるのだ。基本的に小競り合いを仲裁するのはイタチで、そちらの方が非常に面倒くさかった。
「サスケ。おまえも苛々するのは分かるが、八つ当たりはやめろ。」
外では雨が降り続いており、梅雨特有のべたつく雨は子どもの遊ぶ場所を簡単に奪う。サスケはここ数日遊びに行けない上に、修行も出来ないため、苛々しているのだ。
だからといって、それをにぶつけるのはお門違いだ。
「わかってる。でも、退屈なんだ。」
サスケはぶすっとした顔で板張りの床に座ってため息をついた。
もちろんうちはの家にいるよりはずっと炎一族邸にいる方が本も多いし、楽しいが、それでも何日も続くと気分も落ちがちになり苛々する。
「ならおまえも勉強でもしろ。」
イタチはサスケの額を軽くこづいて、を見おろす。の方はさっきの喧嘩など忘れたように、退屈しのぎの本を開いている。
「だって、つまんないじゃん。」
「じゃあと記憶力の勝負でもするか?」
「無理だよ。、記憶力だけは馬鹿みたいに良いんだから。オレじゃ勝てっこない。」
何度か神経衰弱など、記憶力に関するゲームをやったことがあるが、は日頃の馬鹿さが信じられないほど記憶力が良い。サスケも比較的記憶力は良い方だが、は見たまま覚えられるらしく、勝ち目は全くなかった。
というか、年上のイタチでも勝ち目がないのだから、サスケなどなおさらのことだ。
「あめいやね。」
日頃病気で外に出ないでも雨は気分が晴れなくて嫌なのだろう。少しむっとした顔で言う。活発なサスケなどなおさらで、飽き飽きした忍術の本を見てため息をついた。
「たいくつだよな。梅雨なんて、すぐ終われば良いのに。」
サスケも退屈になって、の持っていたひよこの丸いぬいぐるみを彼女の手から取り上げた。いつもなら不思議そうに首を傾げる程度だったが、最近分かってきたは、反抗するようにぬいぐるみから手を離さなかった。
「…貸してよ。」
「やだ。のだもん。」
サスケが口を開いて言うと、が反抗する。
「今までは貸してくれたじゃん!」
「いーや。」
「もう勘弁してくれよ。」
イタチが眉間を押さえて呟くが、雨で部屋に閉じ込められて苛々しているとサスケには全く聞こえていなかった。
6月