一昨日初めての鈴をとる演習をしてカカシにこてんぱんにやられたナルト、サクラ、サスケに対して、は鈴をとり、先に帰っていた。
は最初から3人に協力を訴えていたが、無視したのは3人とも一緒だ。
謝りに行ったが、結果的に彼女は部屋から出てこず、今日の演習にもは計ったように遅刻したカカシと同時に来たため、3人とも謝ることが出来ずにに微妙な視線を送る。
「じゃあ、今日も始めるぞ。」
「おっしゃーーー!!」
ナルトは手を振り上げ、今度こそは鈴をとってやるとリベンジに燃えている。クールに装ってはいるが、実力差を見せつけられたサスケ、サクラも同じようにやる気満々だ。
「いやだな…。」
対しては木の株に座り込んで、手元にあった石を積んで遊んでいる。
「、おまえね。」
イチャイチャパラダイスを片手にさすがのカカシもあきれ顔だ。
「だって、人を攻撃するの好きじゃないし、鈴はとるけど、もう、良いじゃない。一昨日はとれたし。」
カカシとしても相手に油断していたのは事実だが、鈴をとられたことには驚いた。
もちろん元々基本的な忍術と体術しか使わないつもりだったため、カカシは写輪眼も使っていない。とはいえ既に彼女の実力は彼女自身の血継限界を抜きにしても、下忍のものでは無かった。
体力テストになると彼女は幼い頃から病弱だったためすぐに負けるが、動きの早さはサスケよりまだ一段早いし、忍術に関してはサスケよりも遙かに手数が多い。しかもセンスが良く、頭の回転もサスケよりも速いくらいだった。
ただし、それは覚悟を決めた時のみだ。
「−、あのねぇ、鈴をとることがゴールじゃないの。それにね。一昨日とれたからって、今日とれるとは限らないよ。」
カカシとて、の実力はもう把握した。二度と同じ手を食うことはないし、二度と彼女に鈴を渡す気はない。
「…でもなぁ。」
煮え切らないそれが、の一番の問題だった。
しかもサスケに協力を断られ、足手まといだと言われたことが尾を引いているらしい。その実力に対しての自己評価は非常に低く、それをサスケの発言がますます低くしたといったところだろう。
この精神性が、イタチや父親の斎がを忍に向かないのではないかと心配する最大の要因だった。
「一昨日、下忍になったって言っただろ?合格だって。」
カカシは大きなため息とともに、を見下ろす。
「おまえ、アカデミーに戻るか?」
「…それでも良いかも。」
にとってただ単にアカデミーに一年行って卒業したら下忍になれたと言ったところで、別にもの凄く忍になりたかったわけでもない。ただ友達がみんな忍になるといっていたのでそういうものなのだろうと思った程度だ。
アカデミーに戻ったところでにとってなんの問題もないし、むしろそれでも良いかなくらいに思っていた。
「…」
だめだこりゃ、とカカシは肩を下ろす。
普通の下忍ならアカデミーに戻すと脅せば大抵言うことは聞くし、やる気も出るものだが、は押しても引いても駄目だ。
完全にネガティブモードでフォローのしようがない。
「一応下忍になった限りは、命令は絶対だ。」
カカシが言うと、はやっとため息をついて立ち上がった。だが手には相変わらず積み上げていた石を握ったままだ。
「ルールは一昨日と一緒だが、ま、おやつをしてからにしようか。」
「おやつ?!」
やる気満々だった三人がカカシに詰め寄る。
「そ。差し入れでね。斎さんからお団子貰っちゃったんだ。」
まぁ差し入れと言うよりは、勝手にとってきただけだが。
の父親である斎は甘い物好きで、よく弟子のイタチと一緒に甘味屋の食べ歩きをしている。最近出来た団子屋が美味しいと言うことで、たまたまカカシが昨日暗部の斎の執務室に行ったら、彼がお中元だかお歳暮だと言って、団子を配っていたので1箱貰ってきたのだ。
「斎さんは相変わらずだな。」
もう既に変な人とよく知っているサスケは口をへの字にする。
「じゃ、俺は一時間後に戻ってくるから。」
ぽんっとカカシは手を振ってから消えた。
残されたやる気だったサスケ、ナルト、サクラは大きな脱力感をため息と共に吐き出したが、は安堵の吐息を漏らした。これでしばらくは戦わずに済む。
は団子を箱からとると丸太の上に座り、食べながらもまた石を積み重ねる作業に戻っていた。
「あの、さぁ、。」
サクラはおずおずとに声をかける。
「ん?」
は団子が大きいのか、口をもこもこさせていた。
昨日のことを謝ろうかと思っているのだが、その調子がちっともいつもと変わらなくて、サクラは口を噤む。サスケもちらちらとの事を見ていたが、同じだ。
だが、そんな空気を読めないナルトは、の目の前に団子を差し出す。
「やるってばよ。」
「…?」
はよく分からないが首を傾げて、ナルトを見つめる。
「一昨日は本当に悪かったってばよ。」
ナルトは目を伏せて、素直にに謝った。
協力しようともせず、勝手に突っ走った挙げ句の果てに失敗した。彼女だけが協力しようとしていたとカカシに怒られた時、そんな簡単なことも分からなかったナルトは本当に悪かったと思ったのだ。
「だから、今日の団子で許してくれってばよ。」
本当はナルトも団子を食べたいけれど、それは我慢する。が甘いものが好きなことは知っているから。
「…足手まといじゃ、ない?」
は困ったように目尻を下げて、問う。
「え?」
それはサスケがに言った言葉だった。
――――――――――――はっ、足手まとい以上の何になると
協力しようと言ったに、サスケはそう言い捨てた。それはではなく、他の二人に向けた言葉のつもりだったけれど、はそれを素直に受け入れた。
「何言ってるんだってばよ!が足手まといなんかじゃねぇ!」
ナルトは真っ向からの言葉を否定する。
「それに、何言ってるんだってばよ!は鈴とったんだろ?」
のみが一昨日の演習で鈴をとったと聞いている。ならば寧ろ実力的に足手まといになるのは他の班員のはずだ。
「今度はも一緒にやる!そしたら鈴なんて簡単にとれるってばよ!」
ナルトは腕を振り上げる。
「…そう、なの…かなぁ。」
は少し考えるそぶりを見せたが、足手まといでないと分かったため、ナルトの勢いにつられて考え込む。ついでに美味しい団子を2つももらえたならなおさらだ。単純なもので少しだけ沈んでいた記憶もなおっている。
「わ、わたしも悪かったわ。お団子上げる。」
サクラもに謝る。
「あ、うん。」
はその謝罪をあっさりと受け入れた。
「よっしゃ!そーと決まれば、カカシ先生をぼこぼこにしてやるってばよ!!」
ナルトはもの凄くやる気で、ぶんぶんと手を振ってる。
「でも、カカシさんって、父上様も一目置いてるくらい、すごい忍だよ。はやかったし、わたしが鈴をとれた時も、全然本気じゃなかったよ。」
はナルトと違って、カカシの実力を過小評価しているわけではない。
特にはカカシが父の斎の暗部での後輩だったことを知っている。また、斎もカカシの実力には一目置いていた。
楽観的なナルトを見ながら、は真面目に勝てる方法を考えていたが、さっさとサクラとサスケは見切りをつけて、ため息をついた。
湧