戦術を立てるためにはお互いの手の内を知っていることが条件だ。団子を食べながら全員の使える術を把握するのが一番最初だった。





「えっと、」





 は地面に順番に自分の使える術を書いていく。





「え?」





 サクラはそこに順番に書かれていく術に、目を丸くした。

 まだ下忍なのでサクラがうまく実戦で使える術など、30を少し超えるぐらいだ。しかしが書き出している術の数は既に50を超えていた。





「俺なんて、5つ以下だってばよ」





 ナルトは影分身が出来るが、基本的にそれ程有効的な術を持たないし、元々勉強は苦手だ。





「…おまえ、」





 サスケも驚きに目を丸くする。

 サスケでもせいぜい覚えている術は40程度で、その中にはアカデミーで習った初歩的なものが非常に多いため、実戦では全く役に立たないものも少なくない。

 対してが出来ると主張している術はほとんどがBからCランクの、下忍にしてはかなり難しい術ばかりだ。

 はアカデミーに一年足らずしか通っていない。アカデミーの成績は比較的良かったが、体力テストでは最下位だ。元々気が弱いので今まで全く目立たぬままに来ていたが、彼女の基礎能力は非常に高いと言える。





「それ、本当にできるのか?」





 サスケはの表情を窺う。はぱっと顔を上げてから、首を傾げた。





「んー、ちょっと危ないのは書いてないよ。危ないのはねぇ…」





 いつも自信のないは、どうやら自分が出来るかどうか分からない術は書いていないらしい。更に増える術の数にサスケは舌打ちをしたくなった。





「体が良くなってから、しばらく学校に行かなかった間に、勉強したの。」






 がアカデミーに通ったのは体が弱かったため、一年足らずだ。体が良くなってからも様子見のために半年ほど学校に行かなかったので、その間に今まで病のためまったくしていなかった勉強や、忍術を家に居候していたイタチに見て貰って覚えた。

 だから、勉強や忍術にそれ程アカデミーでも困ることはなかった。






「ふぅん。、随分出来るんだね。」





 気づけば後ろにカカシが立っていて、が地面に書いている自分の出来る術表を眺めていた。





「うん。父上様とイタチがね、教えてくれたよ。」





 出来る50以上の忍術のうち、基礎的なものを覗けば9割が風遁と火遁だ。教えた本人である父・斎が風遁と水遁を、イタチが風遁と火遁を得意とすることにも由来している。






「斎さんが教えたっていうのに、水遁はないじゃない。」






 カカシにとって斎は暗部での先輩で、よく知っている。もちろん好んで使う術も、だ。彼は水遁も非常に得意だったはずだ。





「全く出来なかった。」





 カカシの突っ込みには笑顔で答える。

 要するに性質変化が風と火で特化されてしまっているは、教えて貰っても水遁が苦手で全く出来なかったらしい。チャクラの練り方がやっぱり難しく、よほど練習しない限り出来なさそうだったし、アカデミーに入る限りは手数が多い方が良いので、手数を増やすことに専念することにし、水遁は諦めた。





「…おまえ、ね。」

「あと、蒼一族お得意の結界術も駄目だった。」





 えへへ、と恥ずかしそうに笑う。

 チャクラがあまりにも多くコントロールが出来ないにとって、医療忍術ばりに緻密なチャクラコントロールのいる結界術は全く向かず、断念した。






「ただ、この感じだと手数が一番多いのはだね。どっかの誰かは足手まといとか言ったらしいけど、どっちだろうねぇ。」





 カカシはぽんぽんとの頭を撫でて、これ見よがしにサスケに言う。

 一昨日の初めての演習でに足手まといなんて言ったのは彼だ。だが、単純に考えての総合力はサスケにも劣らない。

 もちろんには明らかな弱点があるが、決して弱いわけではないし、誰かから劣っていると言うこともない。のその気弱で自信なさげな態度がを弱く見せているだけなのだ。





「人は外見に寄らないって言うでしょ?ちょっと、おいで。」





 カカシはそう言って、軽くに蹴りを入れる。咄嗟のことだったがはそれを綺麗な動作で避けて空中で一回転をして、次に横から入ってきたカカシの左手を体をひねることによって避けた。

 この速度なら綺麗に避けてくると分かったカカシは、少し速度を上げる。





「わ、」





 は小さく驚きの声を上げたが、それでもカカシの動きについて華麗に避ける。攻撃は全くしないが、流れるように綺麗な動きは無駄が少なく、速度的にもカカシについてきている。





「すっげぇ、」





 ナルトは感心して声を上げる。日頃のんびりしたでは考えられないほど素早い動きは、誰が見ても圧巻だ。とはいえ、体力がないのか、3分も続けないうちに徐々に速度は落ちてきた。






「このぐらいにしようか。」






 かけ声をかえ、カカシはとの体術での掛け合いをやめる。はもう体力的に辛いのか、酷く疲れた顔で荒い息を吐いていた。





「もう少し体術の勉強をしないとすぐ負けちゃうよ。ただ、が誰かに劣っているわけじゃない。」






 強者と戦う時に長距離の術の得意なは忍術に対しては非常に手数があるが、対照的に近距離戦闘に策を持たない。手持ちの忍術も遠距離用のものばかりだ。力も弱く体力もないことを考えれば、もっと本気で体術の勉強をしなければならない。確かに動きはサスケより速いが、体力に難があるため、すぐに捕らえられてしまうだろう。

 戦闘時間が長くなればなる程、近距離に持ち込まれればすぐに倒される。






「体術、かぁ。苦手…」





 何度かイタチに組み手をして貰ったが、避けるのは得意でもすぐにばてるし、どうしても相手を攻撃できない。やっぱり手足を使って誰かを蹴ったりするのは苦手だ。





「案外…強いんじゃねぇか。」





 サスケは少し不満そうにぽつりとに向かって呟く。






「さて、と、話し合いはすんだかな。」






 カカシはいつも読んでいるイチャイチャパラダイスを閉じて、4人を見る。





「すんでないよ。もうちょっと。」

「あのね、、おまえ、本当に賢いのに馬鹿だな。」






 もう少し自分の出来る術を隠すとか、戦略があるふりをしてみたりとか、そう言ったことをするべきなのだが、は正直だった。

 先ほどまでに嫉妬の入り交じった視線を向けていたサスケは、大きなため息をつく。競うのが何となくばからしくなったのだろう。






「まぁ良いよ。ひとまず、この間はにとられちゃったからね。今回は本読みながらはやらない。」





 カカシは腰に片手を当て、もう片方の手をぶらぶらさせて余裕を装っている。





「…どうする?」





 は他の三人を見て、小首を傾げた。





「もちろんカカシ先生をぶっつぶす!」





 ナルトはやる気満々で叫ぶ。





「もちろんだ。」





 サスケもやる気はナルトと変わらない。ましてやこの間の鬱憤を晴らす意味でも、簡単に負けてはいられなかった。





「顔面エルボーよ!」






 サクラも胸元で拳を作って言う。

 全員のやる気を横目には箱から最後の団子をとって、口に入れた。まだ食べ終わっていなかったらしい、三色団子を容量悪く食べてから、団子の串を振りながら、少し姿勢を正す。

 乗り気はしないまでもやる気がないわけではないらしい。





「…」






 カカシはの様子を見て少しほっとする。

 の父・斎は寝坊に遅刻、サボりの常習犯の上今風少年で、自来也の弟子だった当時もゲームや漫画に夢中で全く演習に参加しなかったという。そのためやる気を出さすのに苦労したという話だったが、も別の事情でやる気がない。

 それでも任務にかり出され、忍にされるのが、希少な血継限界を2つも持つが故の、の運命だ。





 ―――――――――――――運命の中でも自分が自分らしくいられる、心の強さを。






 カカシはの父親である斎が言っていた言葉を思い出す。

 彼が望むものがまだまだにとって遠い先にある事を、カカシは知っていた。