「大丈夫?ナルト。」




 斎がナルトの背中を撫でる。







「うぇ、気持ち悪いってばよ。」

「だから飲み過ぎだって言ったじゃねぇか。」





 サスケは呆れた様子で腰に手を当ててクールに言ったが、足下が危うくふらふらしていた。





「お願いだからおまえまで倒れてくれるなよ。」





 弟に言うイタチの背中にはヤマトが背負われている。

 自力で歩ける人数が少なく、比較的酔っていない人間は全員誰かを支えているので、これ以上倒れれば情けない話し、口寄せでもしない限り運べない。






「そうだよ。これ以上は無理だからね。」





 は一人で歩けないサクラを支え、隣のヒナタはいのを支えている。ネジがリーを、テンテンとサイが教師のガイを、シカマルはチョウジを、シノはキバをそれぞれ背負ったり引きずったり、支えたりしている。カカシは困った顔をしていたがシカマルと共にチョウジを引きずっていた。





「成人式だからって、みんな飲み過ぎだ。」





 イタチは悪態をついて、成人したばかりの全員を順々に見て行く。

 と同期たちは今年、やっと20歳になった。それぞれ中忍だったり、下忍だったり、暗部だったり、専業主婦をしていたりといろいろだが、良い機会だからと成人式の後、一つ上の年代のネジたちや世話になったカカシやイタチ、そして監督役に斎をくわえて飲みに行くことになったのだ。

 とはいえ、もともと監督役の斎は放任主義で、まだ本気で飲んだことのない面々を止めることもなく、今の状況に陥った。





「吐いちゃった方が楽だよ。ほら。」





 斎は道の端で蹲っているナルトの背中を相変わらず強めに撫でながら言う。





「父上に酒で競うなんて、無謀すぎる。」






 イタチは義父となった斎と飲み比べをしたナルトをそう評した。

 ナルトは酒ならば斎に勝てるかも知れないと思って、飲み比べを提案したのだ。斎が一応止めたのだが、先日また模擬戦で負けた恨みもあり、ナルトは引くに引けなかったらしい。そこにキバとリーも参戦して、飲み比べをしたわけだが、当然斎の圧勝だった。

 斎はもともとざるで、酒に滅茶苦茶強い。イタチも比較的酒には強い方だが、彼に勝てたことはないし、勝とうと思ったこともない。それは昔から飲み会でありったけ飲んでもけろりとしている斎を見ているからだ。


 とはいえ昔からそういうことのある斎は、随分と酔いつぶれた人間の処理にも慣れていた。






「サクラも大丈夫?」






 はサクラを支えながら心配そうに彼女をみやる。

 ちなみには斎ほどではないが、意外なことにそこそこ強い。流石にワインを一本くらい一気に空ければもちろん酔うが、普通に酎ハイを2,3杯飲んだ程度では全く問題はない。だがサクラはそれ程強い質ではないらしく、ぐったりだった。

 結構な人数が酔いつぶれているわけだが、幸いなことに飲み屋が炎一族邸の近所に最近出来た飲み屋だったため、このまま広い炎一族邸に全員を運び込むことになっている。

 こんな酔っ払いを全員それぞれの家に送っていくなど負担が重すぎる。

 炎一族邸につくと侍女達は遅く帰ってきた上に酔っ払いを大量に従えているのを見て酷く驚いた顔をしていたが、慌てた様子でとイタチが住まっている東の対屋に布団などを運び込んでくれた。





「ちーえ、みなあかい。」






 2歳のとイタチの息子・稜智も騒ぎを聞きつけて、12時にもかかわらずぽてぽてと枕を引きずって歩いて来た。今日は両親であるイタチとがふたりとも飲み会でいないので、の母で稜智にとっては祖母に当たる蒼雪と一緒に寝殿で眠っていたが、起きてきてしまったらしい。






「成人式とはいえ、はめ外しすぎですわね。」





 流石に蒼雪もあきれ顔で、それでも全員が結構酔っ払っているのを見て、仕方なくふらついているヒナタが支えているいのを東の対屋に運び込むのを手伝った。






「あ、す、すいません。」






 ヒナタは酔っていてもきちんと頭を下げる。





「よろしいですわ。これで懲りるでしょうしね。」







 蒼雪は鮮やかに若者たちの失敗を笑って、手を貸した。

 しっかりと動けるとイタチ、斎が東の対屋に大量の布団を敷き詰めていく。どうせどの布団だとか言っても、酔っ払っているので分からないだろうから、適当に敷き詰めて雑魚寝である。既に酔っ払っていたナルトやキバはぐったりとして布団の上に身を横たえた。

 きちんと布団を敷ける人員の方がほとんどいない。

 家に連絡をと言える人間も少ないくらいだが、おそらく親たちも承知しているだろう。斎が監督役にたった限りは全員炎一族邸には少なくとも連れ帰ってくれるとは思っているためか、それぞれの親たちからの連絡も来なかった。

 良い経験だと思っているのかも知れない。







「はい。お水ですよ。」







 蒼雪は寝殿からお盆と共にたくさんのコップと水を持って来て、酔っ払ってぐったりしている面々を見下ろす。





「すんません。」





 シカマルもかなり飲んだのか、謝ってからコップを受け取った。





「うぅ、気持ち悪い。袋…」

「はいはい。これね。」





 斎は慣れた調子でキバの背中を撫でてやりながら袋を渡す。






「…みんなすごいね。」






 は少し呆れた調子で酔っ払っている面々を眺めた。

 今まで未成年で酒をほとんど飲んだことがなく、皆が自分の限度も分からなかったため、ありったけ飲んだ。強い弱いも判明したわけだが、もう既に取り返しのつかないところまで飲んでしまっている。同期ではとヒナタ以外のほぼ全員が、動けるような状態ではなかった。

 炎一族邸までたどり着くのがやっとだったのだろう。多くが布団で力なく横たわっていた。






「これで懲りて気をつけて飲むんだよ」






 斎はにっこりと成人した全員に言う。

 多分、それが斎の目的だったから止めなかったのだろう。それぞれの親たちも斎が監視役にたった限りは分かっていたはずだ。成人になった限り酒を飲むなと言うことは出来ない。ここで斎監視の下、ありったけのませて、自分の限界を理解させようとしたのかも知れない。






「…二度としない。」





 シノも飲み過ぎたのか、布団の上で横たわった状態のままため息のような呟きを吐き出した。

 まぁガイのように何度失敗しても懲りられない人間もいるので、ここで自分の限界を理解して二度と失敗した人と、それでもまた失敗を繰り返す人に明暗が分かれるだろう






「頭ふらふらする。」





 サスケも布団の上に座り込んで、自分の額を押さえる。





「ゆする?」




 にーっと楽しそうに笑ってみせる無邪気で可愛い2歳児の稜智が悪魔にしか見えない。正直サスケとしては今揺すられたらそれでなくとも気持ちが悪いのに、吐きそうだった。

 稜智もの友人である同期たちとは顔見知りだ。

 もう12時を回っているが、知り合いのお兄ちゃんたちが一杯遊びに来て感情が高ぶってしまった稜智の目はぱっちりで、しばらくは眠りそうになかった。






「羽宮、可哀想なことを言っては駄目ですわ。サスケ君にお水を渡してあげてください。」







 蒼雪は柔らかに孫を諫め、呼び寄せる。







「あーい。」






 稜智も素直なもので、若い祖母に呼び寄せられるとすぐに駆け寄って水の入ったコップを貰い、それを素直にサスケに持って来た。






「さすにー、くさい。」

「…」






 頭も痛いし、怒鳴れば揺れてもっと頭痛が増すだろう。水をくれたのだからサスケは生意気な甥の暴言を不問にすることにした。





「…風呂〜」

「やめた方が良いよ。酔っ払っている時に風呂に入ると血圧上がってもっとしんどくなるからね。」






 最後のあがきというようにナルトがずるずると布団から這い出て言うが、斎が止めたのでそのままばたっと力尽きた。







「みんなもだよ。平気な子は良いけど、一日我慢しなさい。」







 斎は他の面々にも声をかけるが、正直な話、そんな気力のある人間の方が少ない。

 それでも大丈夫だと真面目なネジときれい好きなサイが律儀に風呂に入りに行ったが、もちろん風呂場でぶっ倒れて修羅場となったことは言うまでもなかった。




酒は飲んでも飲まれるな