風呂は混浴だった。
とはいえ、バスタオルで隠していて何かが見えるはずもない。それでも嫌らしい目を向けたせいで、ナルトはサクラに殴られていた。
サクラは酷く恥ずかしがり屋で露天風呂の中に入ってからも男性陣からは距離をとり、ぷりぷり怒っていたが、はのんびりしている上、イタチの側から離れようとはしなかった。
「見てみて、あひるさん。」
は何故か口から水を吐くプラスチックの黄色いあひるを風呂に持ってきていた。はそれでパチャパチャと先ほどから水音をさせている。
「・・・なんだそれは。」
湯につかったまま、イタチが隣のに尋ねる。
「あぁ、それ、女子の更衣室で近くの子供がくれたんですよ。」
サクラが説明をイタチにする。
更衣室は混浴であっても男女別だ。
そこには沢山の子供もいたわけだが、その子供が大量のアヒルを持って歩いていたのだ。はそれを見た途端目を輝かせ、子供の母親がそんなを見て、ひとついるかと聞いてくれた。当然はいらないと遠慮したのだが、子供は笑いながらにあひるを手渡してくれたのだ。
「かわいいでしょう?」
はにこにこと笑いながら黄色いあひるの頭を撫でている。
「・・・まぁ、な。」
イタチはもの言いたげだったが、の意見を否定はしなかった。もちろん肯定もしなかったが。
「それにしても、ってば本当に身長伸びなかったよな。」
ナルトはまじまじとを見る。
いつもは下駄でさばを読んでいるところがあるなので、あまり気にならなかったが、風呂場に来て見るとやっぱり小さいと感じたらしい。
その上体つきが華奢だからなおさらだ。
「え、やっぱり、そうかな。」
があひるから手を離して、しょぼんと目尻を下げる。
「いや、だってって父ちゃんも母ちゃんもでかいじゃん。だからこー、でかぼよんになるんだと思ってたってばよ。」
ナルトは手を上に上げてのびをする。
確かに父の斎は190近いのっぽだし、母も160は優に超している。母の方は胸も大きいし、誰もがはっとするほどの美人だ。
ただ、は自分でも落ち込みたくなるほど胸がないし、華奢だ。
綱手にその話をすると、時期が来たらでかくなると言われたが、全くその気配はないまま、16を越そうとしている。身長が伸びるのはもうそろそろ限界の時期だ。胸が大きくなるにも少し遅いだろう。
「ま、がそんなになるなんて、想像できねぇけど・・・ってあれ?」
ナルトはそこまで言って、が落ち込んでいることにやっと気づいた。
タオルで隠れてはいるが、水の中にあるの足は細いし、胸元のタオルもちゃんとクリップで留めておかないと胸がないのでずり落ちてきてしまう。
実はそのことをはかなり気にしていた。
「え?」
「・・・おまえ、馬鹿だろ。」
目をぱちくりさせているナルトに、サスケが冷たい目を向ける。
実は結構は自分の背が小さいことも、胸が小さいことも気にしているのだ。何となくそれを察していたサスケは絶対にそういうことを言わなかったのだが、ナルトはあっさりと言ってしまった。
悪気はないとわかっているが、そういう会話は女性とするのは避けるべきだ。
「え、ご、ごめんってばよ!」
「い、いや、事実だし、」
は目を伏せたまま、首を振る。
「しゃーんなろー!!」
サクラがナルトにパンチを食らわせる。顎の下から綺麗に入ったパンチはナルトを簡単に宙に浮かせ、そのままばしゃんと音を立てて露天風呂へと落ちた。
「黙ってろってのよ。」
サクラの冷たい一言が怖くて、男は全員黙り込むしかない。
「ま、女の子でほら、あんまり大きすぎるのもね。」
カカシはに慰めるように言う。強すぎるのもね、と言いたいところだが、そこはカカシも心得た大人で、口が裂けても言わない。
そんなことで大けがを負うなどばからしいにも程がある。
「そうだ、気にすることじゃないさ。」
イタチはぱちゃんと音を立てて手を水中から出して、のまとめてある髪をくしゃりと撫でる。すると髪留めがさらりと落ちて、長い髪の毛が水面へと落ちた。
「あ、」
「あ、すまない。」
イタチは濡れた手での髪の毛を軽く掻き上げ、結い上げる。そして先ほどと同じように髪留めで束ねた。手つきは酷くなれている。
「俺は小さい方が良いしな。」
先ほどのナルトの話だ。イタチはを優しく慰める。
「それに、はイタチさんがいるんだから、イタチさんが良いって言うなら良いのよ。」
「で、でも、ほら、胸、ね。」
はやはり随分と胸が小さいことを気にしているらしい。
「え?別に良いですよね。」
サクラはの反論を受けて、彼にもう一度確認するように尋ねる。
「なら気にしないさ。」
イタチは俯いているに笑う。
幼い頃からのことが好きだが、それは性格的な話で、別に胸があるない、背が小さい大きいのはなしではない。
それはに保障してやることが出来た。
「ほら、。イタチさん貧乳好きだって。」
「・・・サクラ、その言い方はないと思うぞ。」
サスケが一応突っ込んだが、サクラには届かない。イタチも複雑そうな顔をしたが、ため息をつくだけで何も言わなかった。
サスケはちらりとを見る。
確かには同年代にしてみると成長が遅い。特に頭が大きいせいか子供っぽく見えるし、白い肌はそれなりにそそるが、肩幅は非常に小さく、胸も確かにない。
ただ柔らかそうだなとは思った。
「それにしても女はどうしてそんなことを気にするんだ?別にどっちでも良いだろう?」
サスケはとサクラに言う。するとサクラが眉をつり上げた。
「少しでも美しくいたいって言うのが女なんですー。」
痩せていても、より痩せていたい。可愛らしくてもより可愛くありたい。そう思うのが世の女性の常なのだ。
「だからって、そんな気にすることでもないだろ。どうせ胸は脂肪だろ。」
サスケにとってはどちらでも良いことでをフォローするためにもあっさりそう言うと、次はサスケがサクラに殴られた。
「悪かったな脂肪で!!」
サクラはタオルを押さえながら、サスケを殴った右拳を握りしめる。
「・・・サクラって結構着やせするんだよね。」
は自分の悩みも忘れて、サイとイタチにこそっと言う。
要するに綱手ほどではないが、サクラは結構胸がある方らしい。ナルトも口に出してはいけないことを口に出したが、サスケもサスケで女性の胸が仮に脂肪で出来ていたとしても、その発言は酷いだろう。
そんなことを言い出せば、男のものなんてどう形容するのだ。
「・・・うん。よくわかったのは、女性に対しては身体特徴への発言は、気をつけろってことだね。」
サイは納得して、大きく頷く。
「その通りだな。まぁ、温泉の底に沈みたくなければ気をつけろ。」
イタチは年下のサイに助言をしながら、誤魔化すような、一線退いた笑顔でサクラと水中に沈んでいく自分の弟を見ていた。