風呂が終われば旅館の食事が出てきた。
「かにかにー。」
は乗り気で大きなかにの足をちまちまと割って、中から実を取り出している。
「あれ?姫は甲殻類が好きだった?」
サイが意外そうに尋ねた。
肉類より魚を好む傾向にあるが、あまりかになどの甲殻類を食べたところを見たことがなかったので、サイはがそれらを嫌いだと思っていた。
「・・・?はかにとかえび、好きだよな?」
イタチは日頃のを知るため、首を傾げる。
「うん。好きだよ。」
「でも任務では絶対手をつけないじゃないか。」
野宿をする時などは、川などにたくさんいるエビやかには楽な食料だ。しかしはそう言ったものを絶対に口にしたことはなかった。
「だって、川のエビやかにはなんか草とか砂の味がしておいしくないもん。」
はお箸でカニの身をつまみながら、唇を尖らせた。
「・・・まぁ川のものは泥くさいのは事実だな。」
イタチはさらりと言った。
サイはかなりが偏食だと思っていたようだが、グルメなだけだ。ただ、何もなければ何でも食べるところがある。それがインスタント食品であっても。
「それにしても、来年とイタチ、結婚するんだよね?サスケはどうするの?」
カカシがふっと顔を上げてサスケとイタチを見る。
微妙に確執の残っているこの兄弟だが、現在は同居している。と言うか正直サスケには結局の所、イタチ以外頼るつてがなかった。ナルトと同居でも良いが、そもそも部屋がない。
結果的にとイタチが同棲する部屋には小さいなりとも部屋があり、サスケはそこしか行く場所がなかったのだ。
「同居ですよ。もう少し大きい家を借りるか、まぁしようと思っているので、」
もう少しサスケが気にしなくても暮らしていけるようになるだろうとのことだった。
「それに、俺もも家事能力低いしな。」
イタチはに目配せをする。
二人暮らしを始めた達だったが、どうも家事がうまくいかなかった。もちろん現在ではそれなりに出来るようになったが、任務も忙しくそれ程時間もかけていられないし、そもそも得意でもない。
サスケは現在も里に信用されておらず、任務も少ない。おかげで現在サスケがほとんど家事をしていた。
「・・・俺はもっと兄貴が器用だと思ってた。」
サスケは嫌みのようにぽつりと言う。
「出来るはずがないだろ。母上が全部やっていたんだ。」
「普通演習とかでそれなりにやるだろ?」
「やるが、斎先生の作るご飯は美味しかったな・・・。」
イタチはさらりと言った。
要するに家にいる時はうちは母が、演習においては担当上忍である斎が料理をしていたため、別に必要なかったと言うことだ。ついでに斎は器用で食事も非常に美味しい。
担当上忍があまり器用でも困るといった所だろう。
「サスケ、おまえ、案外イタチが万能だと思ってたんだろ。」
カカシは鋭くサスケに突っ込む。
「・・・」
サスケは答えなかったが、その通りだったのだろう。
昔はねたみと羨望混ざって脳内変換し、イタチを結構なんでも出来る万能な兄だと思い込んでいた。イタチは忍術ではなかなか万能だが、苦手なところもあるし、家事は全く出来ない。
「え?そんなこと思ってたの、サスケ君。」
サクラが驚きの声を上げる。
「違うの、かな?」
サイがサクラに不思議そうに聞けば、サクラはとイタチの二人暮らしに良く出入りしていたため、実情もよく知っており口を開いた。
「違うわよ。ふたりともコンロの付け方も知らないくらい何も出来なかったんだから。」
「そんなに酷かったのか?」
サスケも流石にそこまでは知らなかったのか、驚きの目をイタチに向ける。
「おまえ、コンロの付け方、知ってたのか?」
「知ってるに決まってんだろ。知らない奴がいたことに驚きだ。ってか母さんがやってんの見てなかったのか?」
「・・・やってたか?」
おおよそ手伝いといったものをイタチはろくすっぽやった記憶がない。
幼い頃は忍界大戦まっただ中で両親が忙しく、ある程度の年齢になる頃にはアカデミーを早々卒業していたため、イタチは家事をする機会がなかった。
それを当たり前のように感じていたが、弟のサスケから見ても常識から外れていたらしい。
「ちょっとショックだな。そこまで言われると。」
イタチは食事をしながら、大きな息を吐く。
「え?わたしも知らなかったよ。」
「は良いんだってばよ。」
が訝しそうに問えば、あっさりとナルトがフォローする。
何となく元々が常識からちょっと外れているのは、家柄と育ちを含めて何となく想像がつくが、イタチの方は冷静で常識的と言う元々のイメージがあったため、意外だったのだ。
「でも、サスケが来てから家事は本当に楽になったよ。」
はにこにことサスケに笑いかける。
「それにサスケのご飯、美味しいしね。」
「・・・俺は毎日醤油がけとポン酢がけを繰り返すのは嫌だからな。」
サスケは素直にの言葉に喜べそうではなかった。
最初、サスケも慣れていなかったし、怪我もしていたため兄がする料理を見ていたのだ。確かに口が肥えているためか、美味しい豆腐を持って帰ってきていることは分かる。
だが、朝、昼、夕とおかずが毎日、豆腐やゆでたほうれん草などの醤油がけかポン酢がけを繰り返された時は、少し頭痛がした。
が家事が出来ないであろうことはすぐに予測できたが、兄すらもこれほど酷いとは知らなかった。
「別に簡単だし美味しいから良いだろう。」
イタチもも、存外食の質自体にはこだわりがあるが、毎日日替わりにしたいなどそう言った願望はないらしい。毎日同じものを食べていても平気だったりする。
もちろん違うに越したことはないが、考えるのが面倒だそうだ。
「なんか、家政婦サスケちゃんになってるってばよ。」
ナルトが面白そうにけらけらサスケを指さして笑う。
「黙れ、こっちはシリアスなんだよ。」
そう言ってサスケが食べ終わった小鉢をナルトの顔に投げつける。ナルトはしゃべっていたため油断しており、小鉢はナルトの顔にクリーンヒット。
「てっめ!」
ナルトが叫んで立ち上がり、サスケを指さして怒りに燃える。だが、次の瞬間。
「あ。」
お箸でサラダについていたプチトマトをさして食べようとしていたが、それを吹っ飛ばして、隣にいたサスケの顔に直撃。油断していたサスケが避けられるはずもない。
「・・・・・・ご、ごめん。」
はおそるおそるサスケを見上げて、謝る。サスケは無言だ。ころりとプチトマトがサスケの顔から落ちて、畳の上に転がる。
「ぷっ、あははははは!!」
堪えきれなくなったのか、ナルトは怒りも忘れて腹を抱えて笑い転げる。
「・・・うるせぇえ!!」
苛立ちをにぶつけるわけにはいかず、サスケは笑い転げるナルトに叫んで立ち上がり、ナルトに掴みかかった。
始まった乱闘には目をぱちくりさせながら、半分自分のせいだけれど、知らないふりをした。