「大人組は飲みに行っちゃったね。」
サクラは枕を叩きながら、不満げに頬を膨らませる。
20歳を過ぎた大人であるカカシ、ヤマト、イタチは食事が終わると外へと飲みに行ってしまった。大人の特権と行った所だろう。
20歳以下のサスケ、ナルト、、サクラ、そしてサイは部屋に残され、やることもなくお菓子を食べながら布団の上で転がっていた。
まだ眠るには9時と早い。
「イタチさんがついて行くのが意外だったかな。」
サイはを見て、そう言う。
が残るなら、イタチは絶対に誘われても一緒に部屋に残るだろうと思っていたが、カカシ達に誘われるとあっさりと一緒に出て行った。
「わたしが良いって言ったんだよ。たまにはね。」
は済ました様子で机のお茶を飲んでいた。
「それに今回は慰安旅行だから、イタチにも休んでもらわなくちゃ。」
「そりゃそうね。」
サクラも笑いながら、の近くにあったお菓子をつまむ。
正直ここ三年ほど彼は心身ともに病んだし、心配もしただろう。だから、少しは飲みに行って、すっきりする機会があっても良いかもしれない。真面目一辺倒も、時には息抜きが必要だ。
「そういや、イタチ兄ちゃんって、お酒強いのか?」
ナルトはばりばりと昼に買ってきたポテトチップスを独り占めしながら、に尋ねる。
「うん。強いよ。父上ほどざるって訳じゃないみたいだけど。」
「斎様はざるなの?」
サイは同じ暗部なのに知らなかったのか、驚きの目をに向けた。
「うん。父上は童顔に似合わず、ざるだよ。だからしょっちゅう酔っ払ったアスマさんとか、持って帰ってきてたし。」
ざるだと大抵、酔っ払いの介抱を任されることになる。
炎一族住まいで基本的に部屋も余っているため、色気もへったくれもない話だが、酔っ払ってぐでぐで、もう帰れないような男が炎一族邸に運ばれてくる。
斎は口寄せが得意であるため、複数の時は渋々文句たらたら言いながら犬神が持って帰ってきたこともある。
その中には三代目火影もいた、なんていう笑い話もあった。
まだ未成年なのでサイを連れて飲み歩くと言うことはないだろうが、おそらく彼も成人すれば斎が飲みに連れて行くことになるだろう。イタチはあまり親しい友人は少ないし、飲みに行くことも少ないが、斎はイタチを連れ回している。
サイもきっとこれから連れ回されるだろう。
「カカシさんは普通。ヤマトさんは微妙って聞いてるけど。」
「へぇ、ってことは、イタチさんが持って帰ってくるのかしらね。」
サクラはの頭を撫でながら、もう片方の手でとうとうナルトのポテトチップスを取り上げた。
の話をまとめると、三人で飲みに行ったのならばイタチが一番強いことになり、世話係は自動的に彼と言うことになる。
「あー!何すんだってばよサクラちゃん〜」
「いい加減にしなさい。これで3袋目でしょ!?」
もサスケ、サイもあまりポテトチップス自体が好きではないため、さっきからナルトが一人でむしゃむしゃと脂っこいポテトチップスを食べているのだ。
どうやら医療忍者で健康志向のサクラの逆鱗に触れたらしい。
「・・・怪我をしたらメタボまっしぐらだな。」
サスケは冷たく言って、緑茶を自分の湯飲みに注ぐ。ついでにとサイの湯飲みをとって、緑茶を入れた。
「ありがとう。前から思っていたけど、サスケ君って実はこの7班で一番常識的だね。」
サイがしみじみと言う。サスケはやサクラ、ナルトを順に見てから「そうだな。」と同意した。
ナルトは驚くほど馬鹿、は常識を逸して鈍い、サクラは感情が高ぶれば遠慮なく怪力。
一応現在でも高ランクの任務にかり出される時、カカシを抜いた場合、を隊長にしてサイを入れて七班だったりといろいろだが、正直一番常識的なのは自分だという自覚がサスケにはあった。
サクラとはよく同じ班で任務していたと言うが、他の班員がよくこの二人に耐えたと思う。に何か文句を言えばサクラから遠慮なくエルボーである。
「でも隊長としての姫は優秀だよね。」
サイが笑いながらを誉める。
それはサイの本心からの言葉だった。大らかで細かいことを気にしない上、頭の良いは人の意見に対する需要生も高く、また、的確な選択もする。戦略を立てるのも得意だ。能力も極めて高く、透先眼を持っていることもあり、非常に優秀な司令官だった。
「勝手に突っ走らないしな。」
サスケはサイの言葉に付け足す。ナルトを司令塔にすると彼を押さえるのがまず一手間だ。それでも彼にはやはり、人を引きつけるカリスマ性があるのだけれど。
「そ、そんなことはないよ。まだまだだし。」
ははにかんで、首を振って見せる。
「昔はが昇進していくことが不満だったが、今ならわかるさ。俺は絶対あんな生意気な奴らを庇う気はさらさらねぇ。」
サスケは緑茶を飲みながら吐き捨てるように言った。
先日一緒に任務に出た際、一緒になったのは数週間前に生意気なことを言ってサスケに殴られた中忍だった。それでもは彼が危なくなると、彼をフォローし、自分が無理をすることをいとわず助けた。
中忍の男の方は、泣いていた。
殺される、助けてもらえないと思い込んでいたらしい。明らかに中忍男の失敗であり、サスケなら100%見捨てていたが、は彼を見捨てることが出来なかったのだ。
サスケにはそう言った、下のものを守ると言った気持ちはさらさらない。
正直前はどうでも良いと思っていたし、今でも、や自分の友人や、迷惑をかけてしまった同期たちが守れればそれで良いと思っているが、
「そ、そうかな?実力的には、サスケは上忍だと思うけど。」
「実力の問題じゃねぇだろ。」
隊長となる資格があるかどうか、だ。
そういう点ではサスケは中忍にすら相応しくない。隊を守る気なんてさらさらないのだから、現在も友人達以外の班に配備されないのは、信用されていない云々の前に当然かも知れないと思った。
「ふぅん。相変わらずクールだね。」
サイは正直興味なさげに言って、机に広げた本をめくった。
「なぁに、それ?」
はサイの手元をのぞき込む。それは短冊街を含む温泉街のガイドブックだった。
「近くの商業都市、不知火にもたくさん舶来ものの露店があるらしいよ。結婚祝いなら、いろいろ見てから選んだ方が良いって、イタチさんも言っていたし、」
「そうなんだ。結局決められなかったもんね。」
皆から結婚祝いを買ってあげるから、欲しいものがあれば言えと言われた割に、は欲しいものがそもそも思いつかなかった。
簪も良いなと思ったけれど、結局決められなかった。
「わたし、優柔不断だからな・・・」
「かといって男の俺たちには結婚祝いに何を送るかなんて、さっぱりわからない。」
サスケはあっさりとに棚上げした。
は同期の中で最初に結婚する。ましてやサスケの兄とであり、当然今までにサスケの近しい人が結婚したと言うこともない。
経験がない分、何を上げたら良いなんて、思いつくはずもない。
同期の男ども全員とも話し合ったが、皆同じような意見で、親に聞いたものもいたが、多くの場合「迷え迷え、経験だ」みたいな言葉が返ってきたという。
「あ。美味しい甘味屋さんがのってる。」
はサイの本の写真に目を輝かせた。
「え?あぁ、和風みたいだね。」
「すっごくおいしそう・・・・。」
行きたいとは言わないけれど、目が完全に写真のスイーツに捕らわれている。
は甘味に目がない。イタチもだ。二人共通の趣味がスイーツの食べ歩きであることを知るサスケは嫌な顔をした。と言うのも、サスケは甘味が嫌いだった。
「行きたいの?」
サイが拙い言葉でに尋ねる。
「え、良いの?」
「多分。・・・サクラ!」
サイはに答えて、サクラの名前を呼ぶ。
「なになに?」
「この甘味屋なんだけど・・・」
話が速やかに進んでいくのを見ながら、サスケは苦虫をかみつぶしたような顔でため息をついた。