10時ぐらいになって、サイと、サスケが二度目の入浴から帰って来ると、泊まっている部屋がなんだかすごいことになっていた。





「あはははは、」






 サクラが宙を指さして大きな声で笑っている。

 これが酒を飲んでいなかったら、気違いか、変なものが見えているかのどちらかである。ナルトはナルトでちびちびと机で酒を飲んでおり、その隣にはぐったりとしているヤマトがいた。

 カカシはカカシで飲み過ぎて頭痛がするのか、布団に突っ伏している。

 イタチは呆れた目で見ていたが、サクラが酒を飲むのを止めるのを諦めたらしく、近くのビール缶を片付け、サクラから遠ざけようと努力していた。

 確かたちが風呂へと行った時、部屋にはサクラとナルトだけで、大人組はまだのみに行ってから戻っていなかった。だがどうやら風呂に行っている間にイタチ、カカシ、ヤマトは戻ってきて、しかも部屋で飲み直そうとしていた酒をサクラにとられたらしい。




「おかえり。」






 イタチはき一応律儀ににそう声をかける。

 はなんと言って良いか分からず、自分の肩にかけたタオルをとって一応決まり文句を口にした。





「…ただいま。」





 は言って、部屋の惨状を目の当たりにして小首を傾げて言う。

 一体三人で風呂に入っていた30分の間で何が起こったのだろう。確かに酒をあけるのに30分は十分な時間だとも言えるけれど、とは思いながら部屋の中に入った。





「何があったんだ?」






 サスケは兄に尋ねる。





「・・・部屋で飲み直そうという話になったんだが、」







 いくつか居酒屋をはしごした後、調子に乗って部屋で飲み直そうと酒屋でビールやら酒を買ってみたは良いが、カカシとヤマトは既に相当飲んでいたらしく、戻って来るなりダウンした。

 代わりに買ってきた酒に興味を持ったのがサクラとナルト。

 イタチが止めるのも聞かず、酔っ払ったカカシとヤマトが勧めるがままに酒を飲んでしまったのだが、二人ともそれ程強くはなかったらしい。

 あっという間にサクラとナルトは酔っ払い、新たな問題を作り出した。





「うまいってばよー。」






 ナルトはビールを飲みながら机に頬をすりつけている。中年親父そのものだ。





「・・・なんか、すごいですね。」






 サイもそういう言葉しか思い浮かばないし、フォローのしようもない。






「・・・美味しいの?」







 はコップに入った透明の液体をじっと見据えて、それに口をつける。





!それは、」






 イタチが止めようとするが、既に遅い。はあっさりとそれを水でも飲むように一気に煽った。






「ん。う?なんか変な味・・・。」






 飲んでしまったがあまり口には合わなかったらしい。






「あ、これ、知ってるかも・・でも美味しくない。」






 舌の上で酒の中身を転がしながらもやはりまずかったのか、近くにあったボトルから水を入れてそれで流し込む。

 そのまま何事もなくは立ち上がろうとしたが、ふらっと目眩がした。






「う、うりゅ、なんかくるくるする。」

「当たり前だ。それは日本酒だぞ。」





 酒に強いイタチでも、アルコール度数の強い日本酒を一気に煽るなんて、そんな危険なことはしない。イタチはひとまずの体を支えた。





「あ、でも白ワインがある。」





 は頼りない腕を伸ばして今度はカカシが飲んでいた白ワインのあまりに手を伸ばす。






「サスケ、取り上げろ。」

「わかってる。」





 イタチが言うより先に、サスケはの手よりも早くワインをとる。






「えー!」






 は立ち上がり、声を上げてサスケに抗議するが、明らかに足下がおぼつかない。ふらふらとして、サスケに倒れ込むように白ワインに手を伸ばしている。






「ワインの方がすきー。」





 は一生懸命ビールに手を伸ばすが、サスケの方が背が遙かに高いため、ジャンプしても届かない。ましてやふらふらしているではまったくとることが出来ない。




「え?」






 サスケはの言葉に疑問を感じ、首を傾げる。






「ちょっと待て。おまえ、ワインの方が好き、ってなんだ。」

「泡盛は嫌いなの−。白ワインが好きーーー。」






 の更なる言葉にサスケとイタチはぎょっとする。

 日本酒が一発で泡盛であることを当てた上、白ワインがそれよりも好きとはどういうことだ、と二人でを見下ろす。彼女は未成年だったはずだ。






「おまえ、なんでそんなこと・・・。」

「だって父上がたまに飲ませてくれるもん。」

「・・・」







 どうやら父・斎の酒盛りにつきあっていたらしい。確かに斎は酒が好きだが、基本的にざるで、顔にすら出ない。よく斎に飲み比べを挑んだ若い忍が、つぶれているのを見たことがあるイタチには馴染みのものだ。

 で顔に変わりはなかった。

 ただ、酔ってはいる。それは当然だ。泡盛のアルコール度数は半端なく、コップ半分でも十分酔っ払って明日は二日酔いが出来る粋だ。

 それでひょこひょこ動けているのだから、は十分に酒に強い。

 たった一杯であそこまでできあがり、ぐでぐでに酔ってダウンしたサクラやナルトなどよりは遙かに。





「あー?こっち来て一緒に飲みましょうよ!」





 サクラが赤い顔でに呼びかける。





「でも、ビール嫌い・・・。」

「17歳のおまえに何で明確な好みがあるんだ・・・。」





 イタチは思わず突っ込みながら、の親であり、自分の担当上忍・斎の管理の甘さに頭痛がした。

 サソリから昔、斎がを放って置いて、が金魚鉢の藻とビー玉を食べたという話は聞いているが、放任にも程がある。

 多分飲んだ酒をそのまま机の上にでも放置して、興味を持ったが飲んだのだろう。

 あの斎を考えれば十分あり得る話だし、酒飲みでいろいろなものの管理が甘い斎のことだから、お酒が独りでに減っていることも「あ、自分が飲んだのか」くらいに思ったに違いない。






「まぁ、もう良いか。」





 サスケはもう事態の収拾を諦めたのか、自分の手にある白ワインを口に含む。






「あー、」






 が不満の声を上げたが、すぐにころりと表情を変えて近くにあった酎ハイを飲み出した。






「え?これって良いんですか?」





 サイがどうしたら良いか分からず、イタチに尋ねる。

 カカシは沈没、ヤマトは突っ伏している。ナルトはケラケラ笑いながらビールをちびちび飲み、は酎ハイを抱えている。サスケも諦めたのかカカシが買ってきた白ワインのボトルを自分用として確保し、サクラもその白ワインを自分のグラスに注いでいる。





「・・・」





 なんでこうなったんだ?とイタチは正直頭痛がしたが、もう既にほとんどの奴らがまともではない中で、自分だけ常識的にものを考えるのは苦痛が増す。





「もう、良いんじゃないのか?」





 イタチはそう言って、泡盛の入っていたボトルを傾け、自分のコップに注いだ。

 もうこうなればやけだ。

 自分だけしらふだというのもばからしい。





「・・・そうですか。」 






 サイもそう言われれば納得せずにはいられないし、一人だけ取り残されて後片付けをさせられるなどごめんだ。

 仕方ないのでひとまず近くにあった酎ハイをに文句を言われながらもとり、それを手始めにとあおいだ。