二人目を作ろうと言って2週間後、あっさりの妊娠は発覚した。




「…脱帽だね。」




 の両親である斎と蒼雪は、斎原因の不妊で子どもは全く諦めていたそうだ。偶然なのか、奇跡なのか、蒼雪はを妊娠し、もちろん二人とも若かったのでが生まれた後も不妊治療をしたそうだが、それでも全く駄目だったという。 

 そのため話し合いからたった2週間で子どもが出来たと聞いた斎は思わずそう口にしていた。

 は体が弱いため、昔から跡取りが望めるのかと心配していたし、実際に妊娠した後子どもを自分の体に育てることに難はあるが、妊娠自体に問題はないらしい。それともうちは一族であるイタチの精子が強いのか、どちらにしても、幸いである。




「おめでと。と一応言っておくよ。」




 これから待ち受ける苦難を考えれば、本来ならに簡単におめでとうとは言えない。今はまだ2週目なので喜ぶ時間があるが、4週目にもなればまた10キロ以上痩せるほど酷い悪阻がやってくるだろう。にとっての戦いの始まりである。




「今のうちに、美味しいものを食べて、あ、フガクさんたちのところにも挨拶に行くんだよ。」




 相変わらず反逆首謀者だったフガクとミコトは屋敷に軟禁中である。

 ことがことだっただけに恩赦が望めない上、あの一件以降二人と息子であるイタチとサスケの間には大きな溝があり、兄弟が両親に自分たちで会いに行くことは全くと言って良いほど無い。だが、はちょくちょく遊びに行っていた。

 それがフガクやミコトにも慰めになっているようだ。

 一応義理の父母に当たるのだ。二人目の子どもが出来たのなら挨拶に行っておくべきだろう。彼らにとってもまた、二人目の孫になる。




「綱手様も、喜んでくれたよ」






 は笑って言う。が知らせると、火影である綱手も二人目の子どもを喜んでいた。

 は綱手の弟子であり、同様にの母も綱手の弟子だった。綱手も今から二人目のひ孫を抱く気分だとうきうきである。

 またある意味で里にとっても、とイタチの結婚、そして出産は好ましいことだった。

 は炎一族の東宮と言うだけでなく、既に滅んだ一族とは言え里有数の名家であり、火影である千手一族とも近い縁戚関係にある蒼一族の娘だ。要するにとイタチの結婚は、長らく争い合っていたうちは一族と千手一族を一つにするものでもある。

 または二つの血継限界を、イタチは一つの血継限界を所有しており、子ども達がどの血継限界を保有するかは分からないが、将来的には血継淘汰を持つ忍を生み出す可能性も高かった。





「ねーいつできるの?」





 まだよくわかっていない稜智は、の腰にしがみついて頭での腹あたりをぐりぐりした。





「こらこら、あまりお腹にそういうことをするな。」




 イタチが慌ててから稜智をはぎ取り、軽く頭を叩く。





「うー。だってー。」

「お腹にいるって言っただろう。」

「だってはーえのおなかはいつもといっしょだよ。」







 まだ妊娠2週間。見た目の上ではまったくいつもと変わらないなので、実感が湧かない稜智の気持ちも分かるが、乱暴をしてもらっては困る。逆に3ヶ月までが流産の可能性が高いのだから。






「サクラに言われただろ。」

「わかってるー。だっこはだめ、おもいのもだめってきいた。」

「あはは、分かってるじゃないか。」





 斎は笑って孫を見つめる。

 どうやらサクラに随分と注意されたらしい。稜智は比較的やんちゃな子どもで、もちろんその乱暴さを母親であるに向けることはほとんどないが、それでも可能性はある。だからサクラがきちんと言い聞かせたようだった。






「あんまり乱暴すると、パパが怒るよ−。」




 斎は稜智の頬をふにっと人差し指でつついた。

 のことになるとすぐ我を忘れるイタチだ。日頃のクールなところなどどこへやら、でれでれな上に過保護だ。愛しい息子といえど、妊娠中のに何かすれば、殴られるのは間違いないだろう。





「しってる。ちーえ、はーえだいすきだから。」





 稜智は何故かすごい自信を持って頷いた。




「…そんなに俺はに甘いか?」






 確かに多少の自覚はあるが、そこまで言われるほどのものだろうか。





「甘いでしょ。泳げない子どもが鮫に追いかけられたら泳げると思い込むくらい甘いでしょ。」

「ちーえ、おだんごすきだもんね。」






 斎と稜智は全然違うことを言って、頷いた。全く咬み合っていない会話だが、二人とも気にしていない。

 前回と同じくは炎一族邸で過ごすことになるため、の両親である斎と蒼雪に世話になる部分は多いだろう。その上今回は息子の稜智もいる。斎の協力は必須だ。





「すいませんが、またよろしくお願いします。」






 イタチは斎に頭を下げる。






「そーんな改めて言わなくても、僕子ども大好きだし、孫だしね。」






 斎は稜智を抱いたまま、ひらひらと手を振る。





「でも今度は女の子が良いな。」

「えーおれおとうとがいい!」

「うん。大丈夫。今度も弟の気がする。」





 斎の勘は良く当たる。稜智の時も性別を先に聞くことは無かったが、も斎も男の子だと思うと言っており、実際に子どもは男だった。





「そうか、名前をまた考えないとな。」





 稜智と言う名を考えたのはイタチだ。

 斎と相談しながら、予言を司る蒼一族では神事に記録の残る漢字を使った。稜は際だった鋭さを、智は知識を意味する。鋭い知識をという意味の名は、イタチの願いでもあった。本当に大切な知識を身につけて欲しい。

 雪羽宮という稜智の宮号は稜智の白炎の媒介が鷲であることに由来する。





「良いじゃない。嬉しい悩みだよ。」





 斎は稜智の黒髪を撫でながら、軽く笑って見せた。





「なまえ?」

「そ。名前。一番最初の、子どもへの贈り物だよ。」

「ふうん。おれのは、ちーえがきめたの?」

「うん。そうだよ。」

「はーえのは?」





 稜智が無邪気な目で稜智に尋ねる。





の名前を決めたのは、ミナトだよ?」

「え?」







 は初めて聞く話に、目を丸くして斎を見た。イタチも同じような表情でぱっと斎を振り返る。その名は木の葉の忍なら誰でも知っているほどの、有名な名前だ。





「あれ?言ってなかったっけ?」





 斎は何でもないことのように頭を掻く。





「だれ?」

「ナルトのお父さんだよ。」

「なるにーにの、おとうさん?」

「波風ミナト、四代目火影だ。」





 イタチはよく分かっていない稜智に分かるように言うと稜智も黒い瞳を丸くした。






「そっか。父上とナルトの父上は親友同士だったんだもんね。」







 は納得したように頷く。

 斎とナルトの父・ミナトは同じ自来也の弟子で、斎は四代目火影の時代は彼の右腕と呼ばれて暗部のダンゾウをはめたりと暗躍していたと聞いている。ちょうど九尾事件の数ヶ月前に生まれたの名前を彼が決めていたとしてもおかしいことではない。






「なまえ、なににするの?」





 稜智は体を揺らしながら楽しそうに尋ねる。






「…簡単に言ってくれるな。名前を考えるのは難しいんだぞ。」






 イタチはため息をついて、言う。

 稜智の時にもどれだけイタチが悩んだか、子どもの彼は分かっていないのだろう。それでも、大切な名前を簡単に決めることなんて、真面目なイタチには出来そうになかった。



名前