「あいつ、なんなんだ?」





 サスケは思わず愚痴のようにそう口に出した。

 彼の視線の先にいるは修行もせず、ただぼんやりとサクラやナルトの修行を眺めている。明日から本番の任務だというのに、その自覚は全くない。自主練と言われればただぼんやりと座って空を眺めているばかりだ。

 先日下忍になった時、が出来る術の表を見たが、忍術だけを見ればはサスケより数多くの術を習得しているし、体力こそないが、体術も長引かないならサスケよりも早い。血継限界に関しても、二つ持っている希少な存在だ。

 だが、どう見てもは強そうには見えない。

 は長らくの幼なじみで、幼い頃から病弱だったを見ているからかもしれないが、はひいき目で見ても、どうしてもサスケには強いとは思えなかった。





「…あれはね、精神的落ちこぼれって奴さ。」





 カカシは、幼い頃からを見ているが故に、冷静にを分析していた。

 確かには潜在能力が高く、血継限界も二つ持っている。両親が火影波の実力を持つこともあり、彼女自身もセンスが非常に良い。

 だが、の心には随分浮き沈みがあるようだった。





「やる気になったら、あの子はすごいよ。でも、やる気にならないんだな。ありゃ。」






 カカシから鈴をとったのは本当に驚いた。

 彼女自身に自覚はないだろうが、あの子の使える術はすでに下忍のレベルでは全くない。彼女の父親である斎は教師としても非常に有名で、上手にをやる気にさせたのだろう。才能もある。

 だが、やる気が出るまでに長い時間がかかるし、やる気のない時のやらない具合は酷い。

 余程追い詰められればカカシとも戦うし、仕方がないと思っているようだが、それ以外はできる限り戦いは避けたいし、サバイバル演習も仲間を攻撃するのも嫌らしい。おそらくあまり修行も好きではないのだろう。

 別に忍になってやりたいこともないと思う。だからアカデミーに戻っても良いなんて言う言葉が出てくるのだ。

 多分、何となく才能だけで流れるままにここまで来た。




「斎さんもこの間、困ってたよ。」




 カカシはかりかりと自分のこめかみをひっかく。

 の父である斎もはが炎一族の次の宗主として人と関わらない立場になる事を望んでおらず、をアカデミーに行かせ、忍になる事を望んだ。おそらくこれから険しくなるであろう自分の道を自分で見つけていける心の強さを身につけて欲しいと思ったのだろう。

 だが、斎も娘に実際に忍をさせてみてそのもろさに気づいたのだ。

 彼は教育者でもあるため、一瞬でこれは駄目だと思ったらしい。娘であろうと早早に見切りをつけており、他の迷惑をかける前にやめさせることを真剣に思案していた。




「流されるまま流されるだけでは、いつか大きな過ちを犯すかも知れない。でも始まったばっかりだからね。」




 カカシはそんな斎を、まだ早いと止めた。

 は病弱だったこともあり、のんびりしている。確かにやる気はないが、人に流されやすいため、ナルトに強気で一緒にやろうと言われれば、必死で一緒にやろうとする。

 きっと、戦いになれば必死で仲間を守ろうとするだろう。その中でも、やりたいことを見つけられるかも知れない。





、俺にもあの影分身爆発するやつ、教えてくれってばよ!」





 ナルトは先ほどからやっていた術を諦めたのか、にねだる。






「え?」

「俺、影分身得意じゃん!それ出来たら便利だし。な?」

「良いよー」





 は忍とは思えないほどぺったぺったといった足取りで、ナルトに近づく。そうして術のやり方講座を始めた二人を眺めて、カカシは笑う。






「ナルトはを上手に動かすから、どうにかなるんじゃないか?」





 カカシは渋い顔をしているサスケに笑って言った。

 きっと、ナルトは無意識だろう。だが、ナルトはの不安ややる気のない所を、上手に解消し、引っ張り上げて自分のペースへと巻き込んでいく。単純で流されやすいは、比較的ナルトにあっさりと飲み込まれていくのだ。

 は元々体力がないので近距離戦闘は苦手で、遠距離の忍術が得意だ。対してナルトは影分身しか基本的に出来ず、近距離が得意だ。

 互いの欠点を補っていくのに、とナルトは非常に相性が良い。





「それにしても、なんだかんだ言っておまえ、の事が気になるんだな。」

「そ、そういうわけじゃない!ただが真面目にやらないから!!」




 カカシはちらりとサスケを見て言うと、サスケは目を丸くしてから、すぐに首を振って否定した。






「まぁ良いけどね。そういうことにしておいてあげよう。」







 カカシとて、何となくサスケがの事を好きだと気づいている。

 何かとがナルトと一緒にいると嫌な顔をするし、目が完全にを追っている。おそらく彼女が修行をしないことが気になるのも、いつも目で追っているからだ。ナルトが修行をしていなくても気づかないだろう。




「あー難しいってばよ!!こつは?」




 ナルトはすぐに分身大爆破が非常に難しい術だと気づいたのだろう。に尋ねる。





「んー、わかんない。なんかこーまとまって、ぱーって感じ?」






 のチャクラを操る時の感覚的な使い方を説明する。





「…なんだってばよそれ?」






 ただ流石にナルトも理解できなかったらしく、の言葉に首を傾げた。カカシはそれを聞いて苦笑し、サスケは嘆息する。

 分身大爆破はAランク、もしくはBランクの高等忍術で、本来は下忍が使えること自体がおかしい術だ。は神の系譜としての莫大なチャクラと父親譲りのセンスでそれを可能にしている。

 本来はそう簡単にできる術ではない。




って案外すげーよな。忍術いっぱいできるじゃん!」





 ナルトは素直に自分より忍術の出来るを誉める。明るい笑顔に、もつられて笑う。





「他に俺に出来そうな術ってないか?」

「うーん。風遁とか?」

「なんでも良いってばよ!」





 ナルトからしてみれば、一つでも出来る術が増えれば良いのだ。彼は素直で、自分より忍術が出来るに素直にやり方を尋ねる。





「そうよね。に教わっちゃえばカカシ先生にもばれずに手数が増える訳よね。」





 サクラもナルトの賢いやり方に納得したのか、の前にやってきて、同じようにナルトと一緒に勉強してしまう気のようだ。

 カカシは目を細めて、サスケを見ると、サスケもサクラとナルトの隣に腰を下ろした。





「ん?」






 は皆が何故集まっているかよく分からないらしく、首を傾げる。





「…もう一回分身大爆破、やり方を話さないか。」






 サスケはに言いにくそうにそっぽを向いて言った。自分がそれを知らないとは言いたくなかったらしい。





「う?うん。」





 はサスケの言い方に含まれているものがよく分からなかったらしい。素直に頷いて、もう一度ゆっくりと印を皆に見せる。

 もちろん印は簡単にまねできても、チャクラのコントロールの仕方が分からなければ出来ない。





「誰から教わったんだってばよ?こんな難しい術。斎さんか?」

「うぅん。これはイタチだよ。」





 がナルトにさらっと答えると、サスケがあからさまに嫌な顔をした。

 カカシも暗部にいたため、本当はその術を得意としているのが、暗部にいるサスケの兄・イタチであることを承知している。今イタチは家出をして師の家である炎一族邸、要するにの家にいるから、の修行も何度も見ていることだろう。

 イタチとサスケは非常に仲の良い兄弟だったが、期待されていたイタチが家出という形でうちは一族を逃げた後、兄弟関係は一挙に悪化した。サスケとしては比べながらも尊敬していた兄の逃亡は、裏切りのように思えたのだ。





「たまに教えてくれるよ。」

「良いな。俺も教えて貰いてぇ。」

「イタチは任務がないときは朝に修行してるから、いたらきっと一緒に教えてくれるよ。わたしは見てるだけだけど。」






 はにこにこと笑う。にとってイタチは思い人であり、尊敬すべき大人の忍だ。しかしサスケにとっては複雑な思いがあるのだろう。





「…」





 サスケはしかめっ面のまま、その話を嫌そうに聞いていた。






( ひらく )