いの、サクラ、ヒナタ、紅、そしてが一緒になって商店街の喫茶店に出向いたのは、が二人暮らしをはじめて1週間くらいのことだった。
「けーきーーー」
が間の抜けた声を上げてメニューを嬉しそうに見る。
「すごいわね。」
サクラもの手元のメニューを隣からのぞき込んで、笑った。
最近新しく出来たこの喫茶は、美味しい甘味を出すというので有名だ。舶来ものの鮮やかなケーキは女子の目を引くため、喫茶店には女性が多かった。
所々カップルとおぼしき人もいる。
雰囲気も良いので、デートにもぴったりなのだろう。
「それにしても、ちゃん上忍になったんだね。」
ヒナタも話を聞いていたのか、目を丸くする。
「本当にすごいわよ。女でしかも同期で一番。」
「あぁ、聞いたわよ。上忍も全員一致だったものね。」
いのと紅もの昇進を賞賛した。
やはり男性優位の社会なのは忍も一緒だ。火影も今までで5代目の綱手だけが女である。
そういう意味で、早いの昇進は木の葉の女性にとって、女であっても優秀であれば早い昇進を望めると示した。
「うん。女性としては早いから、みんなに誉めてもらえて、すごく嬉しい。」
はメニューから顔を上げ、朗らかに笑った。
成長したとは言え、その無邪気な笑顔は昔とあまり変わっていない。
「あ、今日は買い物も含めて、お代は貴方は払わなくて良いからね。」
紅が思い出したようにに言う。
今日はこのおやつの後、短冊街に買い物に行く予定だ。
「え?」
はよくわからず首を傾げる。するとふふっと紅は大人っぽく笑った。
「私とヒナタからのささやかな昇進祝いよ。」
「ちなみに、私といのからの昇進祝いはみんなで考えてるから、期待しててね−。」
サクラはの肩をつついて、楽しそうに笑った。
いのの顔を見ると、どうやらサクラも含めて2人で何かを考えているらしい。
「引越祝いでもあるしね。ちゃん、イタチさんと二人暮らし始めたんでしょう?」
ヒナタはの向かい側でメニューを見ながら言った。
「え?うっそー!?」
いのが身を乗り出してに詰め寄る。
「ほんとほんと。一週間ぐらい前よね。」
と姉妹弟子であるサクラは、驚くいのと紅にあっさりと事実を認めた。ヒナタが知っているのは、おそらく旧家同士であるため、親同士の会話で聞いたのだろう。
「早くない?」
いのは驚いたのか、目をぱちくりさせる。
「そうなの、かな?」
は一般的な基準がそもそも分からない。
「え?うちはイタチっていくつだっけ?」
「20歳です。」
紅には言う。
「なるほどねー。20歳なら、早くはないか。」
大人の紅は、納得して頷いた。
忍の結婚は早くないことが多いが、それでも20歳ともなれば任務も落ち着き、一人暮らしくらいは普通だ。
昇進が早い分だけ給料が上がるのも早いし、任務が落ち着くのも早い。
ただとイタチが5歳も年が離れているから、何となく年齢を考えると不釣り合いに思えるのだろう。
「それに、流石にの実家じゃ手を出しにくいでしょうしね。」
紅は唇の端を僅かにつり上げて笑う。
炎一族邸は広く、は両親とは違って東の対屋に部屋を与えられていたが、の両親同居の家で流石にに手を出すのはイタチとて気が引けるだろう。
ましてやの父、斎はイタチの担当上忍である。
斎がそう言ったことを気にするタイプではなさそうに見えるが、真面目なイタチは気にしたことだろう。
「それ言えてるかもしれないですね。」
ヒナタもくすくすと笑って、の方を見る。
「良いなー。格好良い恋人がいて。」
いのは唇を尖らせて言って、はーと息を吐く。
「誰か良い人いないかなぁ。」
「あれ?この間いのちゃんが言ってた、2つ年上の人はどうなったの?」
おっとりと、ヒナタがいのに聞き返す。
「あぁ、そうだよ。あの人とはどうなったの?」
そういえば数ヶ月前に、良い感じの中忍がいると聞いていたもメニューといのの顔を見比べる。
「全然駄目。マザコンでさぁ。」
「いのにはそれぐらいがお似合いよ。」
「ちょっとサクラ。」
いのはむっとした顔でサクラの手元にあった飲み物のメニューを取り上げた。
「何すんのよ、イノブタ!」
「やんの?」
「ふたりとも早く決めないと、わたし頼んじゃうよ。」
喧嘩を始めたふたりに、はのんびりと二人に言う。
ここ数年でも二人の喧嘩にはかなり慣れた。これはじゃれ合いみたいなものだ。
なんだかんだ言っても同期4人女組は、いのとサクラは気が強く、ヒナタとが気が弱い、でうまくいっている。
「量。多いかな・・・」
ひとまずはミニパフェとケーキ、紅茶のセットにしようと心に決め、ケーキのメニューをサクラに渡す。
「良いわよ。もし食べられなかったら私が食べてあげる。」
が小食であることを知るサクラは軽くフォローして、メニューに目を向ける。
「よし。普通のパフェと、紅茶にするわ。」
「私はと一緒かしらね。」
サクラと紅も自分のメニューを決定し、サクラはいのの意思を確認することなく、ウェイターに声をかけた。
オーダーを通してから、は机に肘をついた。
「でも二人暮らしってすごい大変。二人とも料理できないし。」
「あ、そっか。ふたりとも今まで家事したことないのか。」
紅は事情を理解し、大変ねと困った顔をする。
「うちもアスマがまったく家事してくれなくて殴りそうになったことが何度あったか。」
紅がアスマと結婚したという話は既に聞いている。
同棲も一年ほどしていたと言うから、それなりに悩みや二人暮らしの苦労があったのかも知れない。
「イタチはよく家事もしてくれますよ。ただ、わたしもイタチも家事の仕方が分からないだけで。」
「そうそう。本当にコメディみたいだもんね。こないだなんて、台所泡だらけだし。」
サクラはひらひらと手を振って言う。
「挙げ句料理が実験みたいなのよね。きちんと量を計量器で図って、包丁でほうれん草切るのも解剖作業みたいでのけぞるわ。」
「そう?至って真剣だよ?」
「知ってるわよ。だからこそシュールなんでしょ。」
とイタチが二人暮らしをしてから、サクラは心配で何度となく二人のアパートメントを尋ねている。
そのたびに発見される失敗は、二人が真剣にやっているので笑うのは悪いのだが、ただの笑い話としか思えないものばかりで、いつもサクラはため息をつくしかなかった。
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