ミコトとフガクの外出許可が出たのは、稜智が生まれて2ヶ月ほどたった頃だった。

 その頃になると、未熟児の赤子もなんとか保育器から出るようになっており、親が抱ける程度に容態も安定した。対して母胎の方も何とか持ち直しはしたが、やはり莫大なチャクラに当てられた後遺症が酷く、は熱が上がったり下がったりを繰り返しており、その日も熱でぐったりしていた。






「おはぎ、持って来たんだけど。」






 うちはの昔の家に軟禁されている状態のため、普通に料理をすることが許されている。ミコトは一応来客を迎えるためにベッドのリクライニングを少し斜めにしながらも赤い顔で笑っているを見て、持って来た重箱を困ったように近くに置いた。





「やったーおはぎー。」






 は嬉しそうに言うが、何やら声も随分ぼんやりしている。






「…出直した方が、良いのではないか」






 フガクも流石に驚いたらしく、妻のミコトの肩を掴んで言う。出産したばかりのへの負担は一番避けるべき事だ。だが、とうのはにこにこ笑って楽しそうなので、フガクも閉口するしかなかった。






「頭が熱慣れしてるから、案外辛くはないらしい。」






 イタチは生まれたばかりの息子を抱きながら、困ったような顔をする。

 一週間ほど熱が続いているせいか、顔も赤いが見た目の割に頭が熱になれてしまっており、それ程辛くはないらしい。おかげで毎日朝起きるとサクラに、熱は下がったと訴えている。ちなみに相変わらず熱は45度を超えており、普通の人間ならば死んでいる域だ。






「うん。おはぎ食べたい…」






 は子どものようにねだる。






「わかった。」 







 サスケは子どもを抱いているイタチに変わり、仕方なく重箱をミコトから受け取り、皿に取り分けていく。

 イタチは小さく息を吐き、子どもを抱いたままミコトへと歩み寄った。

 もう4年も前になる。フガクがクーデターを企て、里を襲おうとし、それをイタチが密告し、うちは一族の裏切りもとして完全にうちはから籍を完全に抜くことになったのは。

 その後、罪を問われて牢へと入れられたフガクとミコトにイタチが自ら会いに行ったことはない。やはりクーデターがすべての始まりであり、イタチにはどうしても理解できず、親であっても許せない思いがあった。

 は頻繁に牢を訪れてイタチの近況を語っていたが、イタチがついて行ったことはなく、が会いに行くことも良いことだとは思っていなかった。


 サスケが帰ってきてからも、サスケもイタチと同じ気持ちのためやはり両親のクーデターを受け入れきれず、会いに行くことはなかった。1年前からはうちは一族の屋敷に軟禁されているため、会いに行くことは可能だが、自分から会いに行くこともなく、結婚式の時も特別に出席していたにもかかわらず、イタチが言葉を交わすことはなかった。

 が妊娠中に何度か世話になり、イタチやサスケも渋々ついて行く羽目になったが、は彼らと話したとしても、決してイタチとサスケが直接ミコトやフガクと話すことはなかった。

 イタチは自分より小さな母親を見下ろし、小さく息を吐く。





「俺の子供だ。」




 そして、ミコトやフガクにとって初めての孫になる。ミコトは本当に何年ぶりカニ息子に声をかけられたことに、目を僅かに見張ったが、何とも言えない泣きそうな表情で笑い、慎重に孫に手を伸ばす。





「少し、小さいのね。」





 ミコトの声は、僅かに震えている。





「あぁ。未熟児で、生まれた時は2000グラムたらずしかなかったが、健康そのものらしい。」

「名前は?」

「雪羽宮稜智だ。」







 イタチはぎこちなく、素っ気なく言って、それでも愛おしそうに子どもの産着で顔にかかっていた部分を手でのけてやった。

 の体が子どものチャクラに耐えられなかったため、母子が無事であるぎりぎりのところで帝王切開をした。そのため稜智は生まれてからついこの間まで保育器を出られなかった。莫大なチャクラが身体機能を押しつぶし、神の系譜の直系の血を色濃く受け継いだのか、体も丈夫そのものだ。

 は元々劣性遺伝だったはずの蒼一族の血を強く受け継いでおり、父である斎にそっくりだ。しかしその普通の体が逆に母の血筋である神の系譜のチャクラに耐えられなかった。そのためは随分と心配したようだが、莫大なチャクラを持っている割に今のところ異常はなく、それ故の弊害もないようだった。






「イタチの小さい時にそっくりだわ。ねぇ、お父さん。」





 ミコトは笑ってフガクに言う。フガクもミコトの腕に抱かれている初孫を何とも言えない表情で見つめた。

 赤子でも分かるのか、泣きもせず、じぃっとフガクとミコトの顔を見ている。その黒い瞳は大きくて、まだふわふわと生えているだけの髪の毛は漆黒だ。は鮮やかな紺色の髪をしているので、イタチに似たと言うことになる。






「じゃあ、イタチみたいにハンサムになるね。」






 はミコトの言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。





「…」







 ミコトの腕に抱かれている孫をじっと見下ろして、フガクは黙り込む。手を伸ばすことがないのは、おそらくイタチを気にしているからだろう。





「義父上も抱いてね。わたしの父上なんていつも頬ずりしていくし。」





 は何でもないことのようにさらりと言う。フガクは一度を見て困ったような顔をしたが、ちらりと確認するようにイタチを見た。






「せっかく来たんだからな。」 






 イタチはサスケからおはぎを取り分けた皿を貰い、のベッドに座って言う。





「おはぎ…。」





 の主張に、サスケが横で吹き出した。はまだ妊娠中にチャクラを封じ、元々幼い頃から病弱でチャクラで足りない腕力を補っていたため、チャクラコントロールが乱れて手足に力が入らない。だから一人で大好きなおはぎを食べることが出来ないわけだ。

 はイタチが手に持っている皿を見て、甘い物好きなイタチがそれを自分の前で食べる気だと思ったのだ。






「あのな。俺は確かに甘いものは好きだが、ちゃんとおまえにだって食べさせてやるさ。」





 イタチは日頃の甘いものに対する食い意地の張り具合をに注意された気がして、複雑な気分でフォークでおはぎを切り、の口に運ぶ。





「おいしい。」





 は満足そうに口を動かして頷く。が咀嚼している間に、イタチも一口おはぎを口に放り込む。母のおはぎは相変わらず変わらぬ味で、美味しかった。






ちゃんの方は大丈夫なの?」






 ミコトは孫をフガクに託し、尋ねる。

 が子どもの持つ莫大なチャクラに当てられて死にかけたことは、ミコトも聞いている。ましてやまだ熱も高いとなれば心配にもなる。





「うん。ご飯も普通に食べられるしね。」






 は笑って、力の入りにくい手の指だけでイタチの服を小さく引っ張る。おはぎをもう一口くれという主張らしい。イタチはに一口大に切ったおはぎをまた与えた。





「リハビリがあまりうまくいっていないから歩けないが、熱が下がれば退院だ。な。」

「…その熱が一週間下がらないんだけどな。」





 イタチの説明にサスケが付け足す。

 未熟児で生まれた稜智よりもどちらかというとの容態の方が深刻で波もあり、少し体調が良いかと思えばすぐに倒れたり、食事が出来なくなったりしている。リハビリの前問題であり、なかなか状態は良くならなかった。

 サクラも気をもんでいるようで、毎日のように見舞いにやってきている。へたをすれば子どもの方が先に退院ではないかと危ぶまれていた。





「稜智が先に退院するのは嬉しいが、不安だ。」





 サスケは思わずぽつりと零す。


 子どもが先に退院した場合、どちらにしてもイタチとサスケはの両親である斎の家である炎一族邸の東の対屋で暮らしているため、協力はしてもらえるだろうが、世話はイタチとサスケがすることになる。特にイタチは任務が多いため、元犯罪者で任務の少ないサスケが育児の大半を担う。

 故にサスケとしては不安一杯だった。





「ごめんね。サスケにも負担かけちゃって。」





 は申し訳なさそうにしょんぼりする。





「何言ってンだよ。オレは居候だぜ。」





 サスケは言いながらため息をついた。

 今も犯罪者というご身分は変わっていないため、身元引受人が必要で、しかもの両親の所にほぼ家賃ゼロの状態で住まわせて貰っているのは何を隠そうサスケである。

 子どもの世話ぐらい当然のことで、不安はあるが、この状況がの大きな温情の元にあることをサスケも十分理解していた。




初対面