「やーい、きしょくわりー色だぜ!」
の長い紺色の髪をひとりの子どもが引っ張る。
「いた!」
「調子にのんなよ!泣かねぇし、気色わりぃ!」
が痛がると、他の3人の男の子がの背中を叩いたり、突き飛ばしたりした。
離して貰おうとはもがくが、クラスの中で一番小柄なが男子に勝てるはずもなく、されるがままだ。子どもは親のヒエラルキーに敏感で、身分も高い名門の出身であるが何も言わず、大人しいのをよい事に乱暴な数人の男子グループがしょっちゅう虐めていた。
もまた小柄で、血継限界を絶対使ってはいけないといわれているため、抵抗の術がない。
周りの女子は乱暴者の男子を怖がって止められない、だが、それでもいのとサクラがすぐに廊下の外に出て担任のイルカを呼びに行く。
「何やってる!」
小さなを囲んでいる男子たちを見て、教室に入ってきたサスケが声を上げて睨み付ける。だがそれよりも一緒に入ってきたナルトの方が手が早かった。
「になにやってるんだってばよ!!」
ナルトが叫んで、の髪を引っ張っている男の子に殴りかかる。
「うわっ!何しやがる!!」
「に何してるって聞いてるんだってばよ!!」
驚いた拍子にの髪を手から離した男子は、今度はナルトととっくみあいの喧嘩を始めた。
「くっそ!」
もう一人の男子もそれに参加しようとするが、その手はサスケに阻まれる。だが他にもまだ3人いるため、サスケが強かったとしても2対4では分が悪い。ましてやアカデミーの高学年ならば忍術で差もつくが、まだ1年では所詮ただの殴り合いに過ぎない。
「ぁ、」
今まで泣くこともなくただ痛がっていたが、一歩後ずさって怯えたような声を上げる。
「何ぼさっとしてるんだ!早く先生に呼びに行け!!」
サスケは殴られながらもに叫ぶ。
どうせここにいてがまた捕まれば、もっと嫌な状況になるのは目に見えている。のために第一どうせ2対4で分が悪いことは分かっていてサスケとナルトも喧嘩を始めたのだ。が無事でなければ何の意味もない。
だが、は髪を引っ張られても泣かなかったというのに、くしゃりと表情を歪めた。
の肩にいつもいる白く輝く蝶が、ふわふわと鱗粉を散らせる。次の瞬間その白い鱗粉が目を焼くほどの光を放った。
「さ、さすけとなるとにひどいことしないで!!!!
声と共に、閃光が爆発する。
目が光りになれて閃光が消える頃、サスケが目を開くと、サスケとナルトの上に乗って殴りつけていた男子が床に転がって呻いていた。
今まで黙って見て見ぬふりをしていた子どもたちの視線が一気にに集まる。
「ふぇ、ぇえええええええ、ひっ、」
がぺたりと膝をつき、酷く怯えた表情で首を横に振り、泣き出した。
「!」
ナルトは慌ててに這うようにして駆け寄る。
「どうしたんだってばよ?痛いのか?どっか殴られたのか?」
「違う。」
サスケも殴られて痛む肩を押さえて、の方へと歩み寄った。
「もう、オレたちは大丈夫だ。だから、泣かなくて良い。」
「ほんと?」
「あぁ。」
は自分が髪を引っ張られている時はよくわからず、泣きもしなかったが、ナルトとサスケが殴られるのを見て、怖くなったのだ。
サスケは引っ張られてぐしゃぐしゃになったの髪を撫でてやる。
泣いていたは少し安心したのか、着物の袖で目じりを擦ったが、呻いている男子たちを見てはっとした。
「…いって、」
男子の一人がなんとか痛みに顔を歪めながらも起き上がる。彼は何か熱いものに触れた時のように肩の服が破れて赤い火傷が出来ていた。
サスケが見回すと、どうやら倒れている男子の全員がそうらしく、痛みに呻いていた。
「ぁ、」
がどうしたら良いか分からないとでも言うように、男子に声をかけようとする。だがが何かを言う前に、怯えを含んだ目をに向けた男子が叫んだ。
「ば、ばけもの!!」
の肩が、びくりと揺れる。
「こんなことできるなんて化け物だ!!」
叩きつけられるような言葉に、またの表情が歪む。それにすら男子はに対する怯えが増すらしく、小さな悲鳴を上げて、後ずさった。
「ふぇ、」
がまた目じりに一杯涙をためる。サスケがどうやって慰めれば良いのか慌てていると、ナルトがに手を伸ばした。
「大丈夫だってばよ、な、こわくない、おれはの事こわくないってばよ。」
ナルトはぎゅっとの頭を自分の腕で抱き込み、を宥める。
幼い頃から両親同士が仲が良いために一緒にいたナルトは、が何に一番怯えるのかをよく知っている。また、何度か白炎を暴走させるを見たことがあった。
他人が自分に恐怖の感情を向ける、はそれを一番怖がる。相手が自分を怖がるから、自分も相手が怖い。
「ばけものは、ばけものどうし、すきにやれよ!」
男子がとナルトに冷たい言葉を浴びせる。
知っているのだ。が特別な力を持つ炎一族の東宮である事も、ナルトが同じように九尾を封印されたということも。
人は違うものを恐れる。抵抗しないからこそ簡単だと虐める。
だからこそ他の子どもと違う名門の娘であるを虐める。ナルトとは違って穏やかですぐ黙るために担任たちにもばれにくいをターゲットにしたのだ。
だが、返り討ちに遭えば、自分より強いと分かれば今度は化け物と言って敬遠する。
「…誰がばけものだ。」
サスケは男子の視線から二人を庇うように立ち上がる。
「そうやって弱いをいじめる、おまえらのほうがばけもんだろ!」
彼らは違うものを恐れているだけだ。恐れ、疎み、敬遠する。
自分はそうされたら悲しいだろうし、嫌なのに−今のように反撃に遭えば痛くて怖くて、こうして怒りを向けてくると言うのに、を一方的に殴ったり、痛みを与えることは平気なのだ。
自分に嫌なことを人に出来る彼らの方がよっぽど人の痛みの分からない、同じ人とは思えない存在だ。
人の痛みも悲しみも、相手の気持ちになって理解できない。誰にも共感できずに、平気で人に酷いことが出来る。それを人は化け物と呼ぶのではないだろうか。
「何やってる!」
サクラが連れて来たのか、やってきたイルカが慌てた様子で子どもたちを怒鳴りつける。
「先生!がやったんだ!!」
火傷を負った四人の子どもたちが一斉にイルカに訴えた。
「おまえらがにひどいことするからだろ!!」
サスケは被害者面をするいじめっ子たちを大声で怒鳴りつける。
イルカはそれを見て驚いた顔をした。サスケは勉強のよく出来る、どちらかというとクールな子どもで、ナルトと喧嘩する以外は他人を怒鳴りつけることはほとんどない。元々何度ものいじめの話は聞いていたし、サクラの証言も元々ある。だからこそ、サスケの様子ですぐに大体の状況は飲み込めた。
「ひとまず、おまえら四人は俺と一緒に保健室だ。ナルト、サスケ、おまえらも…」
イルカはをまだ守るようにして抱きしめているナルトの頬の痣をそっと撫でる。
「このぐらいだいじょうぶだってばよ。」
ナルトは自分の頬を軽く擦って、を心配そうに見下ろす。サスケも同じで自分の傷よりもの事が心配らしく、目線はそちらだ。
「は大丈夫か?」
イルカはナルトに抱きついたままのを見る。小さな体はがたがたと震えていて、簡単にナルトから離れそうではなかった。
天真爛漫