はミナトの家に戻ってからも、ぐずってイタチからなかなか離れなかった。イタチが風呂に行くだけでも離れるのが嫌で泣くので、12歳という微妙な年頃のイタチはびくびくしながらを風呂に入れる羽目になった。

 まぁ今年で7歳のには、よく分かっていないだろう。





「大丈夫だよ。クシナがちゃんと話し合ってくれるから。」




 ミナトも何度かそう言ってを宥めたため少しもイタチからはなれたが、それでもイタチの服を掴んで全く離さない。金魚の糞のようにとことことクマさんパジャマでついて行くはぬいぐるみのようで可愛かったが、理由を知る親からしてみたら楽観できる状態ではなかった。





「なんなんだそのくまのパジャマは。」





 茶色いフードと耳のついた繋ぎのパジャマを見て、イタチは首を傾げる。





「ちーえまとおそろい。」

「…そうか。」






 もう30近い自分の師とおそろいと思うと、イタチとしては複雑の気持ちだったが、当たり前のように言われてしまえば仕方がない。しかも二人揃って童顔で同じ顔だから、が似合うと言うことは斎もそれなりに似合うのだろう。

 イタチは関係ないことを考えながら、ソファーに座ってを膝に乗せ、紺色の髪をタオルで拭いてやった。




「明日もうちだからね。」





 明日はクシナが休みの予定だ。だからアカデミーから帰った後はとサスケ、そして任務が終わればイタチも揃ってナルトの家で過ごすと決まっている。

 ミナトが言うと、が俯いた。






「…学校いきたくない。」 





 は自分でフードを被ってその耳を引っ張って表情を隠す。





「いたいし、わたしいると、サスケとナルトまでたたくから、やだ。」

「…。」







 イタチは小さくなっているを抱きしめて、背中を撫でてやる。

 確かに、それは十分に許されることだろう。酷いいじめを受けているわけだし、炎一族は東宮であるが傷つくことを望んでいない。神の系譜の直系がアカデミーの一般クラスに通うなど前代未聞のことで、本当なら綱手など手練れの忍の弟子にすぐになって、チャクラの使い方を学ぶのが普通なのだ。

 ただおそらく、の性格では力がなかったとしても、いじめの対象になったのは間違いないだろう。だからこそ、それを自分で克服して欲しいとの父・斎は願ってアカデミーに通わせたのだ。

 とはいえ、難しいことなのかも知れないとミナトも思わざるを得なかった。





「じゃ、じゃあ、俺もいかない!」





 唐突に、ナルトが手を上げて言った。





「いじめっ子がに謝りに来るまで、俺もいかねぇってばよ!悪くねぇもん!!」





 ナルトはの手を取って、ぽんとイタチの隣に座る。はイタチの胸から顔を上げて、目をぱちくりさせた。





「お、オレも、オレも行かない。」






 ナルトに感化されたのか、サスケも同じように言う。

 真面目なサスケとしてはそう決断するには少し勇気がいったが、それでもナルトに負けてなどいられない。ナルトはサスケの賛同ににっと笑って、驚いているを見た。




「よっしゃ、俺、みんなにも連絡してくる!」

「え?」

「前にキバたちと話したときに、あいつらもいじめっ子のやつらいけすかねーって言ってたってばよ。だから、みんなでいじめっ子をボイコットしてやろうぜ。」







 ナルトはの手を大きく振ってから離すと、ぴょんと今度はソファーから飛び降りて家のベランダに入っていった。ベランダには鷲が飼われているから、それで皆に知らせるつもりなのだ。





「ちょっとナルト、おまえも明日学校を休むつもりなのかい?」





 ミナトは少し困った顔でナルトに問う。




「うん。そんかわり、ちゃんとみんなに連絡するってばよ。それに、前から女子とも話してたんだ。」





 が虐められるようになってから、ナルトもサスケも一生懸命を庇っていた。

 しかし最近いじめっ子も人数が増え、巧妙になってきたため二人ではを庇いきれなくなっていたのだ。ましてやものを隠したりなどは隠れてやるため、見つけるのが難しい。女子たちが少しずつに気をつけてくれるようになっていたが、力が弱いので助けられない部分もあった。

 そのため、ナルトが友達で仲の良いキバやシカマルに相談したのだ。他の同級生にも今相談している真っ最中で、今回が殴られ始めたときにサクラがすぐに先生を呼びに言ったのも、そうするように話し合っていたからだった。

 他にも女子と協力して、いじめっ子たちを無視したり、逆に冷たい目を向けようという話も進めていたのだ。

 流石に友人たちは学校を休めないだろうが、いじめっ子たちに圧力をかけることは十分に出来る。





「いじめっ子が謝らない限り、俺らはとボイコットだってばよ!」





 ナルトはミナトの戸惑いも放り出して、ベランダへと走っていってしまった。

 ミナトは少し困ったが、息子がここまで言っているのだ。止めるわけにも行かず、の方を振り返ると、彼女も驚いたのか、酷く困惑していた。





「大丈夫だよ。オレとナルトがうまくやるから。」




 サスケはの頭をぽんぽんと撫でる。





「だから、もし、いじめっ子たちが謝ってきたら、オレらと一緒に、学校行こう。」





 不安そうに彼はの表情を窺った。

 サスケもナルトも、と一緒に学校に通いたいと願っているのだ。この行動が、が学校に行くという勇気をかき立てなければ全く意味がない。ここで謝ったとしてもまたいじめっ子たちは虐めてくるのかも知れない。それでも行く勇気を持って欲しいと思っているのだ。





「ちゃんと怖くないようにするから。」

「…うん。」





 は僅かに躊躇うようなそぶりを見せたが、それでもサスケに言われてつられるように頷く。するとサスケは少し安心したのか、ぐしゃぐしゃとの髪をよくイタチがするように撫でた。






「ナルトは人を巻き込む行動力があるな。」





 イタチはしみじみと言ってを抱き直した。

 自分一人の手には負えないと潔く理解した途端に、周りの協力を仰いだのだ。その行動力はさすがだと思う。いじめとは言っても、全員がを虐めたいわけではない。だからこそ、今まで傍観に回っていた生徒を自分の方に引き込もうとしたのだ。

 子どもながらも、よく考えたと思う。





「おっしゃー!シカマルが連絡しといた。サクラちゃんとこにも。」





 ナルトは戻ってきて、ガッツポーズをして見せた。

 はイタチの膝の上にちょこんと座ったまま、相変わらず俯きがちだが落ち着いたのか、先ほどのようにしょげている風はなかったし、怖がってもいなかった。





「それにしても、、そのパジャマ、本当に可愛いね。」





 ミナトは真剣な顔でを見下ろしていたが、思わず頷く。

 茶色いフードに耳つきのクマのパジャマ。

 特には同年代の中でも小柄で目が大きく、童顔である事も相まって本当にぬいぐるみのような感じだ。ころっとしていてまだ6歳で可愛い年頃というのもあるのだろう。




!今度おそろいでカエルパジャマしようぜ!」





 ナルトは自来也から貰ったという自分の蛙パジャマを出してきて、着替えながらに言う。





「かえる?も?」

「え、いや?」

「うぅん。かえるパジャマかわいい。ちーえまにたのんでみる。」





 は蛙パジャマに何となく惹かれたのかこくんと頷いた。




「サスケも着たらどうだ?」





 イタチはじっと仲の良い二人を見ているサスケに声をかける。






「お、おれは良い!」





 いらないと恥ずかし紛れにサスケは答えたが、目線は蛙パジャマだ。





「じゃあ俺が今度二人に買ってやろうか。」





 子どものパジャマ二着ぐらい、働いているイタチにはどうとでもなる。値段もそれ程はるものではない。





「おっしゃーおそろいだってばよ!」

「…既にシュールな光景なのにね。」





 ミナトは喜ぶナルトに苦笑して、頭を撫でる。

 既にはクマパジャマ、ナルトは蛙パジャマでシュールだが、ここにサスケが加わればなおさらだ。だがとナルトは二人で固まると悪のりして変なことをし出すくせがある。悪いことではないが、それを止めるのはいつもサスケだ。とはいえ今回は無理そうだが。






「可愛いなぁ。」







 ミナトは目を細めて子どもたちを見つめる。徐々に、速度は違ってもゆっくり成長しているんだなと、優しい気持ちになれた。







天真爛漫