「本当に、って頭は良いのよね。」
ナルト、サスケ、そしての勉強の光景を見ていたクシナは思わずそうしみじみと呟いた。
三人の中で一番最初に生まれたくせにのんびりしたは動きが遅い。なのに勉強に関しては驚くほどによく出来た。特に記憶力は天才的によく、一度見たものは忘れない。これに関しては学年トップのサスケも全く及ばなかった。
いじめの件で最近不登校気味だが、イルカから届けられたテストや宿題はあっさりやってみせる。
それを見ながら、クシナは正直感動とともに僅かに苛立ちを覚えずにはいられなかった。要するに根本的には賢いのだろう。ついでに素直に宿題をやっている。多分今日もナルトはちゃんと宿題をやらず、適当に済ませているはずだ。
「なんで学校にちゃんと行ってるナルトがこんなに馬鹿なのかしら。」
「それ酷いってばよ!母ちゃん!!」
「事実でしょうが。」
クシナは机に頬杖をついてため息をつく。
対して体も強く皆勤賞のナルトは、全くと言って良いほど勉強が出来ない。特に算術などは壊滅的で、どれも地を這うような成績だった。
「あ〜面白くねぇ、、ボール蹴りしようぜ。」
ナルトはもう勉強に飽きてきたのか、隣のの長い紺色の髪を引っ張る。
「ぼーる?」
「うん。とうちゃんがサッカーボールくれたんだ。めっちゃはねるんだ。それを地面に落とさないように蹴って遊ぶんだ。」
「ふぅん。もできるかな。」
「できるできる。」
「それは、これが終わってからよ。」
クシナは息子に釘を刺して大きなため息をついた。
「えー良いじゃん。宿題は後でやるってばよ。」
「いっつもそう言ってやらないじゃない。なんてもう書き写しの宿題終わったってばね。」
「そりゃは記憶力いいからさぁ〜」
ナルトは少しむっとしたように言う。
は一度見たものを記憶できるので、書き取りも一度見たらそのまま5,6頁なら淀みなく見ることなく書き写せる。とはいえ、その中身自体をが全く覚えていないことを、ナルトは知っていた。意味を全く理解せずに書き写していると言うことだ。
「おれももうちょっとで終わる。」
サスケも順調に進めていたようで、ぽつりと手を動かしながら言う。
「えーおれだけ?」
「おまえがぐずぐずやってるからだろ。」
「別にほど記憶力良くなれとか言わないから、サスケ君ぐらい真面目にやって頂戴。成績の方も」
クシナは大きなため息をついて、ナルトの額を軽くこづく。
「運動能力テストは良かったってばよ!」
「体育だけでしょ?」
「、うんどうてすと、どべだった。」
ぽつりとがナルトとクシナの会話に口を差し挟む。
「え?」
クシナが驚いて振り向くと、は小さな手でお泊まりグッツの袋から紙切れを取り出した。
その紙には多くの項目がある。徒競走、800メートル走、握力、砲丸投げ、幅跳びの計5種だが、そのうち四種では最下位だった。おかげで、総合順位はどべだ。
「そういや、徒競走だけは女子で一番早かったよな」
真面目に勉強していたサスケが、顔を上げる。
6歳になってアカデミーに入って初めてのスポーツテスト、要するに運動能力テストなわけだが、が徒競走で女子学年トップだったと騒いでいた。運動神経は悪くないらしい。だが、トップだったのは徒競走だけだ。
「…なんだってばよ、この幅跳び0センチって。」
ナルトは首を傾げての記録を見る。
記録をしたとき、サスケはと同じグループだったが、ナルトは別グループだったため結果を知らない。だが正直、10センチは誰でも飛べそうだ。むしろ一体何があったのか分からない。
クシナもじっとその記録を眺めて目をぱちくりさせた。
「握力5?砲丸投げ10センチ。何よこれ。」
初めて見るような成績だ。なんぼ子どもだと言っても、もう少し飛べるものだろう。事実ナルトもそれ程悪い成績ではなかった。
「やりかたが分からないってさ。砲丸とかまず持ち上がらなくて両手で、ちょっと持ち上げただけだったし。幅跳びとか、こけてたもんな。」
サスケは見ていたらしく、あっさりとの所業を暴露する。
は鈍くさくて、やり方を理解するのが苦手だ。何度か練習の時間を教師のイルカはとっていたし、がのんびりしていることを知っているため、の失敗も何度か大目に見ていたが、全くは出来なかったのだ。
結局イルカも諦めて、そのままの成績を運動能力テストに書くしかなかった。結果的に学年でもどべである。
「まぁ、女の子はちょっとのんびりしたほうが可愛いわよ。」
クシナは慰めるようにの頭を撫でて、笑う。
「そうだってばよ。母ちゃんみたいになったら大変だってばよ!」
「どういう意味だってばね!」
「げっ、やべっ、おれちょっと歯磨きしてくる!!!」
ナルトは母親に殴られる気配を感じて一目散に風呂場へと駆けだしていった。こういうときのナルトの逃げ足は誰よりも速い。
「今日はずる休みだけど、あとでご飯がてらお買い物でも行こうか。」
クシナがに優しく言うと、は「うん。」と嬉しそうに返事をした。
虐められていたが、サスケとナルトを殴ったいじめっ子のクラスメイトに怪我をさした事件が昨日あってから、いじめっ子への抗議のためにもナルト、サスケともに今日はアカデミーを休んでいる。今日の夕方にはクラスメイトのシカマルとサクラが訪れ、いじめっ子たちの状態を詳しく教えてくれる予定だという。
子供たちのやることなので、ずる休みはいけないが、クシナも納得して宿題や勉強をすることを条件に許した。とはいえ、一日家にいるのも良くないだろう。それに家にいるといつもサスケとナルトが喧嘩を始めるのが普通だった。
「、おばちゃんが髪の毛編んであげる。」
「ありがとう。」
クシナが櫛を持って来て言うと、は素直にお礼を言う。
紺色の長いの髪はさらさらで少し太いがまっすぐで、編みやすい。一房櫛を通して編んで、リボンをつけてやる。
「本当に、雪はずるいわ。一人だけ女の子産むんだもの。それに大人しいし。」
クシナはの髪に櫛をとおしながら、思わず口を尖らせる。
ナルトの母・クシナ、イタチとサスケの母・ミコト、そしての母の蒼雪は親友同士だ。蒼雪が一番若いのだが、それでも仲良くやってきたし、同時期に子供も産んだ。なのに、だけが女の子だったのだ。ミコトなどは次は女の子が良いなとぽつりと言っていたが、男系なのか生憎男の子だった。
男の子はやはりやんちゃだ。良い子のサスケですらも、階段から三階落ちて気絶していた経歴がある。ナルトなどもっと強烈で、多動症候群を疑うほどに元気な子供だった。
対して女の子のはのんびりしていて、よくこけはするが大人しいし、いたずらはあまりしない。別にナルトに不満はないが、大人しくて可愛いを見ているとたまに女の子も欲しかったと思ってしまう。
「…クシナさんに育てられたら、そんなことないとおもう。」
ぼそりと、サスケが核心を突く。
がのんびり育ったのは両親の育て方に寄るところも大きい。の両親である斎と蒼雪は基本的にが生きていれば良い程度に思って育てたため、をせかしたりもしなかったし、声を荒げて怒ることもなかった。
確かに生まれ持った性格というのはあるのかも知れないが、それでも性格は境遇に寄るところが大きい。
「何か言った?」
クシナはにっこりとすごんでサスケに問う。
「なにも。」
要するにナルトが元気すぎるのはクシナに責任があると言外に言った訳だが、サスケもただ単に何回もナルトと喧嘩をしてクシナに怒られているわけではない。すぐに黙って知らない振りをした。
それが一番賢いともうわかっていた。
触らぬ神にたたりなし