飲み会の翌日の朝は皆遅かった。




「こりゃ全員使いもんにならないね。だめだよー。そんなことじゃ。」





 昼ご飯時に明るい斎の声が響き渡るが、全員まだ頭痛がしたり、眠かったりでぐったりだ。遅い朝食として食べやすいようにと果物やすっきりしたサラダなどを侍女達が出してくれたが、それを食べられるものも少数だ。




「なんで斎さん、あんなに平気なんだよ。」




 ナルトは未だに布団に転がったまま、枕を抱える。





「あれはいろんな意味で化け物だからな。競っちゃ駄目だってわかっただろ。」






 カカシも少し頭痛がするのか辛そうだったが、それでもふざけたように言ってナルトの額を軽く弾いた。


 幼い頃から斎は大人たちの間で育っており、酒を飲む機会も誰よりも多かった。しかもざるであったため、年かさの忍たちはこぞって斎を酔い潰そうと頑張ったらしい。結果は全員惨敗。

 それからも暗部の中や上忍たちの間で飲み会がある時に少し酒に強い忍が酔い潰そうと頑張ったが、それも全員敗北で、今のところ斎は飲み比べにおいて無敗だ。


 ちなみに斎曰く、「先にお腹が酒でたぷたぷになる。」ということで、水と変わらない感覚で酒を飲めるらしい。

 そんな事情をとうにしっている弟子のイタチや暗部で後輩だったカカシ、ヤマトは絶対に斎と競おうなんて思わなかったが、若くて成人したばかりのナルトやキバは違ったらしい。

 まぁ、これに懲りて二度としないだろうが。






「みんなじーじ。」





 イタチとの息子の稜智は、布団の上で昼過ぎてもへばりついている昨日成人した大人を見て、ぽつりと言う。日頃祖父の斎が昼間でだらだらしているので、なんとなくそれを思い出したのだろう。

 既に酔いの浅かったシカマル、いの、リー、ヒナタなどは頭を押さえながらも自分の家に帰ったが、昨日風呂場で倒れたサイとネジはもちろん、ガイやチョウジ、キバ、ナルトは全く動ける状態ではない。それはサクラも一緒で、枕を抱えてまだ布団の中にいた。

 とはいえ、ナルトとサスケ、サイは炎一族邸の別棟に住んでいるため、ここからどんなにゆっくり歩いても5分なのだが、その気力すらもないらしい。





「さすにー、だいじょぶ?」






 稜智は珍しくだらしなく布団に転がっているサスケに心配そうに言う。





「…頭が、割れる…。」





 サスケはイタチも酒にはそこそこ強いのだが、飲み過ぎると翌日に酷い頭痛に襲われるタイプだ。しかもイタチと違って飲み慣れていないため、なおさら酷い。飲んでいる時には翌日の頭痛の程度まで分からないので、これから徐々に計っていくしかなさそうだった。





「かわいそね。」





 日頃、サスケに厳しく怒られているだけに、その相手が頼りなくへばっていると心配になるものらしい。稜智は言いながら小さな手でサスケの頭を撫でなでした。






「みんなぐったりだね。」






 昨日は一応何とか歩ける程度に酔っていただったが、比較的強いタイプの上、しかも次の日響かないので連絡役を買って出て、任務にでることが出来ない友人や家族への連絡に奔走していた。






「すいません。」






 本当は任務があったサイは、申し訳なさそうに言う。





「まぁ綱手様も予想してたみたいだったよ。」





 斎は朝に綱手に報告して、二日酔いで出来ることの出来ない面々の任務の欠席を申し出、代わりの人員も提示した。もちろん綱手も呆れていたが、昨日の成人式の様子から、十分に想像できたらしい。

 調子に乗っていたのは、誰の目にも明らかだったのだろう。





「さけ、こわい。」





 稜智は酔いつぶれている大人たちを見て、素朴な意見を漏らす。





「みんな飲み過ぎたからね。」





 は目を細めて幼い息子を抱き上げた。





「なるにーにもだめね。」

「うん。みたいだね。父上とお酒の飲み比べなんてするから。」

「じーじつよい?」

「うん。すっごくね。」

「へん。じーじ、よわそうなのに、ちーえよりつよいでしょ。」







 幼い息子が話しているのは酒の話なのか、忍術の話なのかはわからないが、どちらにしても斎の方が強いのには変わりはない。





「でも、イタチももそこそこお酒に強いし、誰に似ても稜智は大丈夫だよ。」





 斎は柔らかに孫に笑う。稜智は突っ伏しているサスケをもの言いたげにじっと見下ろしてから、「ふーん。」と意味深な返事をした。叔父であるサスケに似たら駄目だよとでも言いたいのかも知れない。





「…うぅ、気持ち悪い。」





 小さく呻いたのは布団に蹲っているチョウジだ。帰ってきてから夜中トイレに立てこもっていて、トイレで眠ってしまったらしいが、シカマルが帰る前に何とかチョウジを風呂に入れ、引きずるようにしてこの東の対屋に連れて帰ってきた。

 とはいえ、チョウジは胃に既に何もないだろうに、まだ気持ち悪くて動く気がしないらしい。





「ちょーにーに、しぬ?」

「う、うーん?それは困るんだけどな。」






 は息子の言葉に小首を傾げてチョウジを見やる。

 彼は体を折り曲げて丸くなっているため、何やらこんもりと布団が盛り上がっていて面白い。稜智はの腕の中からそここんもりとした山に飛びつきたくて仕方がないのだろうが、それをしたら本当にチョウジは胃液まで吐きそうで、は息子を抱く腕に力を込めた。

 流石に追い打ちをかけるのは可哀想だ。





「おい、薬を貰ってきたぞ。」





 イタチが御簾を上げて、東の対屋へと入ってくる。

 彼はあまりの惨状を見かねて、炎一族の薬師である青白宮に二日酔いにきく薬を貰ってきたのだ。漢方薬の部類なので、副作用も少ない。





「水はここにあるけど、飲めるかな?」





 斎は水差しを手に持ってコップに順番に注いでいく。

 だが、気持ちが悪すぎて薬を飲むことも出来ないくらい重傷の二日酔いもいるので、薬を無理矢理飲ませれば逆に吐きそうだった。





「チョウジ君は無理だね。ネジ君はいける?」

「は、はい。」





 ネジは身を起こし、頭痛はしているようだが何とかコップを受け取る。サクラやサイも何とか水と共に薬を流し込んだが、チョウジとキバは全く駄目のようで、起き上がることもしなかった。

 ナルトとサスケも半分ぐらい薬を飲んだが、それ以上は嚥下できなかったらしく結局枕に突っ伏した。






「覚えておけよ。稜智、酒を飲みすぎると、お兄ちゃんたちのようになるぞ。」






 イタチはの腕に抱かれているまだ2歳の息子を抱き取って言う。





「さけ。こわい。」





 稜智は倒れ伏している里でも有数の忍たちを見下ろして、少し緊張した面持ちだ。日頃怖いサスケやサクラをここまで重傷に追い込む酒は確かに怖いものだろう。

 いつも二人から怒られてばかりの、稜智からしてみればなおさら。





「そんなことねぇってばよ。次はぜってー斎さんに勝つ!うぅ…」





 ナルトは手を振り上げたが、情けなくまた布団にへばりつく。

 彼は最近また模擬戦で斎に負けたのを根に持っているのだ。酒の飲み比べとはいえ負けたことは悔しいのかも知れないが、正直ざるの斎と競うなんて無謀だと言うのに、諦められないらしい。






「ナルト、おまえみたいな奴が懲りずに失敗するんだぞ。」






 イタチは哀れみともつかない視線をナルトに向けたが、気持ち悪さに俯いている彼には届かない。とはいえ仮に飲み過ぎたとしても、炎一族の敷地内に新しく立てられた別棟に住んでいる限り、かサイかもしくはサスケかがナルトを持って帰ってくるだろう。

 そういう点で同じ家に住んでいるというのは実に便利なものだった。





「一応みんな大人になったんだから、次の日任務に出られないような飲み方はしないように注意しようね。」






 一番たらふく飲んだはずなのに、斎は涼しい顔であぐらをかいて、ナルトをうちわで扇いでやる。気持ち悪いらしいナルトは相変わらず布団の上でぐったりだ。






「ほんとすんません。」






 流石にキバは反論する気力もなく、ぐったりとしたまま斎に言った。

 結局全員連れて帰ってもらえたから良かったが、斎や他の面々がいなければ、酔いつぶれていたキバたちは路上放置である。木の葉は安全だが、それでもスリぐらいに遭ったかも知れない。情けない話だ。





「お願いだからこれで最後にしてくれよ。」





 イタチも少し頭痛がするのか、頭を軽く押さえて小さく息を吐く。とはいえ、これに懲りてやめる人間がどれだけいるのか、疑問だった。



酒は飲んでも飲まれるな