イタチがに初めて送ったのは、任務の帰りに通った短冊街で見つけた髪を束ねる紐だった。
先に鮮やかな黒色のガラス玉のついた赤い髪紐。それは特別高い物では無かったが、の長い紺色の髪をまとめるには十分だったし、暗い色合いのの髪によく映える色合いだった。
「わぁ、何これ?」
は箱を開いて出てきた黒色のガラス玉のついた髪紐に目を輝かせた。
黒いガラス玉には黄色い菊の花が刻まれており、赤い紐と良くあっている。ガラス玉の下にはちゃんと房がついており、なかなか本格的なものだった。当時十歳のイタチにとっては少し高いものだったが、それ程根が張るものではない。
「短冊街に行ってきたんだ。だから、ついでに。」
素直に彼女に買ってきたというのは恥ずかしくて、イタチはついでと言った。
本当は短冊街を通って帰る必要はなかったので、彼女のために何かお土産はないかと、わざわざ見に行ったのだ。馬鹿みたいな些細な嘘だったが、にとっては関係なかったようだ。
は近くにあった櫛を取り出し、軽く自分の髪を束ねる。そしてその髪紐で自分の髪を軽く束ねて結んだ。
「にあう?」
は髪をその髪紐で束ねて、嬉しそうに笑う。
「あぁ、」
イタチは気の利いた言葉が思い浮かばなかったが、言われるがままに頷いた。
今日は体調が良いのか寝台から起き上がって、勉強をしていたはイタチが来たことにもちろん喜んだが、初めての贈り物に法外な喜びを示す。にとって同年代の友人はイタチのみで、同年代からの贈り物も初めてだった。
だから目に見えてはしゃいでいた。
「大切にするよ。嬉しい。ありがとう。」
本当に心から嬉しそうに彼女は笑って、イタチに抱きついてくる。
少し驚いたが、彼女が喜んでくれればイタチも素直に嬉しい。わざわざ迷って買ってきたかいがあると言うものだ。イタチはの細くて小さい体を抱きしめて、満足感に身を浸す。
髪紐のガラス玉同士が擦れ合って、かちりと硬い音を立てる。
イタチはの長い紺色の髪に指を絡めながら、の背中を優しく撫でた。心の中にある年相応の下心を、イタチはまだ自覚できていない。土産を買ってきたのもただ、の顔がふと思い浮かんで、喜ぶかなと思っただけだった。
「。」
まだ贈り物を贈るという意味も知らない頃の、小さな贈り物の話。
やさしい音をぜんぶあげるよ
( 拙い恋のおはなし )