誰を待ってるの?


 紅は思わず待機所の前の段差に座っているを見て、そう問うた。





「イタチを待ってるの。」




 はにこにこ笑って、紅に答える。

 綺麗な長い紺色の髪がさらさらと風に揺れる。彼女はついこの間まで病弱だったが、何故かの理由でチャクラを封じ、回復したらしい。それに深く関わったのがうちはイタチだと言う話は、まだ若い紅も何となく聞いていた。

 うちはイタチと、彼の師の娘である蒼の仲の良さは、里の中でも有名だ。

 二人とも里の中でも有数の名家の出身で、本来なら政略的なものも多分に含まれているはずだが、それが感じられないほどに仲が良いのだという。年の差は4,5つ。紅はその話が少し信じられなかった。

 うちはイタチは怜悧で、確かに優秀な忍であるのは間違いないが、紅の目からはどこか冷たい少年に見えた。あまり人と笑いあっているところは見かけず、無駄話をしていることもない。もちろん紅がイタチとそれ程親しくないこともあるが、彼が人を愛せるなどとはなかなか思えなかった。

 しかもはまだ11歳だ。大人の事情が分かるほどに大人ではない。本質的にはわかっていないのではないかと思っていた。




、」




 待機所から出てきたイタチがの姿を認めて、小走りで彼女に近づく。いつもの無表情ではなく、少し慌てているようなのに、紅は驚いた。





「アカデミーの帰りか?まさかずっと待ってたのか?」

「うん。演習の代わりに通ったから。」




 はにこっと笑って、イタチに言う。彼はの答えに困ったような顔をしたが「ありがとう」とはにかんだ笑みを漏らした。それが17歳の彼に非常に釣り合ったもので、いつもの大人びた冷たい印象は全く消えていて、紅は驚く。

 こんな男だったかしら。




「あ、紅さん。お疲れ様です。」




 あまり面識のない紅の顔を覚えていたのか、イタチは礼儀正しく頭を下げた。彼の能力的には全く問題はないがこの礼儀の正しさも、彼が年相応に見えず、冷たい印象を人が受ける原因の一つだが、と手をつないでいるせいか、いつもの冷たさはない。





「今からデートなの?」

「家に帰るだけー」




 は酷く嬉しそうに笑って、イタチを見上げる。すると彼もまた満面の笑みをに返した。あまりに日頃の印象と違い過ぎて、なんと言ったら良いのか見当もつかない。これが暗部でも、普通任務でも恐れられ、酷い時には殺人人形とまであだ名されるうちはイタチなのだろうか。

 この小さな少女にでれでれの年相応の少年が。

 紅は引きつる頬を無理矢理上げて笑みを形作り、若いカップルに手を振って見送った。