覚悟は出来なかったが、状況はこうやって息子を抱くを夢見られないほどに絶望的だった。がやっと病院から帰ってきて、ゆっくりと過ぎていく日々は穏やかで、退屈なものだが、かけがえのないものだとイタチは心から知っている。





「幸せだな。」

「うん。可愛いね。」




 その一言に尽きると、イタチは思う。は子どもを抱いたまま、イタチの肩に頭を預けて体を寄せた。

 まだ赤子の息子は母親に抱かれて安心しているのか、まだ起きていたが泣き出さない。きっと夜泣きが酷くて泣き止まなかったのも、母を呼んでいたのかもしれない。幼い稜智にはきっとが入院しているなんて分からなかったから、母がいないのが寂しかったのだろう。





「最近よくおしゃべりするし、ナルトにあやしてもらうと大喜びするよね。」




 日に日に、稜智は成長している。

 首が据わり、よく話すようになった。人が驚かせたりすると反応も返すようになり、やイタチが声をかけると嬉しそうにむにゃむにゃ言う。体つきも随分丸々してきた。





「あぁ、本当にふくよかになってきたな。」





 イタチが柔らかい頬をつつくと、またがしっとイタチの指を掴んだ。しばらく掴んで振り回すのを見ながら、イタチは目を細める。

 自分と同じ色合いの漆黒の瞳。

 イタチは自分の黒い色合いの瞳があまり好きではなかった。闇のようだ。うちは一族は黒髪黒い瞳が常だが、呪われた血筋であることもあって、あまり好ましいとは感じられなかった。でも、この濡れたように黒い、光で一杯の無垢な瞳はイタチの心を熱くするほど、愛おしい。

 きっと、世界で一番綺麗な黒なのだろう。




「ゆったり育ってくれよ。」




 イタチはそっと息子の額を撫でる。

 ただ名声を求めるのではなく、一族ばかりを大切にするのではなく、明るく地位や名誉にこだわらない、天真爛漫な子どもに育って欲しい。それがイタチが子どもに願うことだった。

 この子は炎一族の跡取りだ。

 でもを育てた一族は大らかで、東宮であるに何かを強いることがなかったように、稜智が生まれたことだけを喜んでいる。の両親も稜智が健康であること以外に大きな望みもない。強くなってくれなんて思っていない。

 大きな大樹である一族に抱かれて、のように穏やかで、明るく、天真爛漫に育ってくれれば良い。




「守って、やるからな。」




 子どもが何も気にしなくて良いように、父親として守るのがイタチの役目だ。

 これから大きな力を持つこの赤子はいろいろなものから狙われるだろう。外敵から守るのはイタチの当然の役目であり、イタチはそのすべてからこの子を守れるくらい強くあらねばならない。そう思えば、自分はまだまだ強くなれそうだった。


たいようみたいって、心から思った