月が既に中天を越した頃、息子が夜泣きを初めた。




「えっぇぇえええ!!」




 激しく泣きじゃくる息子に戸惑いながらも素早く抱き上げ、は御簾を上げて庇へと出る。外はまだ真っ暗で、かがり火がたかれている以外は光もない。広い屋敷と庭は静まりかえり、たまに池の鯉がはねる音と、息子の泣き声だけが響く。その中では一人、庇に座り込み、ぽんぽんと息子の背中を叩き、手早く慰めた。

 頬を撫でる夜風が少し冷たくて気持ちが良い。

 まだぐずぐず言っているが、縋り付いてくる息子の重みを感じながら、眠たさも混じってうとうとしながらも、稜智の背中を叩く手は止めない。





「大丈夫か?」




 御簾の向こうからイタチの低い声がして、は小さく笑った。





「大丈夫だよ。寝ていて、」





 は休職しているが、イタチは忍で、明日ももちろん任務だ。寝不足は禁物の職業であり、子どもの夜泣きで怪我をしたら笑えないだろう。 だからと思ったが、元々寝付きの良くないイタチは一度起きてしまえばもう一度寝るのに時間がかかる。と同じように庇へと出てきて、の隣に座りにやってきた。





「もう、起きれなかったら父上を笑っていられないよ。」

「大丈夫だ。明日は夜からの任務だからな。」






 イタチは言って、の隣に座り、稜智を見下ろす。

 まだ生まれて三ヶ月の息子は、未熟児で生まれてきたため、普通の三ヶ月よりは少し小さいが、元気そのもの。もう少ししたら、予防注射をしようと綱手から言われている。




「夜泣きの酷い子は元気だそうだ。おまえは元気だな。」





 イタチは呆れた口調ながらも、息子の鼻先を指でくすぐる。するとむずがゆいのか、泣いていた息子はイタチの指を払うそぶりを見せた。

 は妊娠後も体調を崩していたので、先週病院から帰ってきたばかりだ。やっと退院できて、体調も徐々にだが回復しつつある。授乳も出来るようになって、母親にしがみつくと安心するのか、稜智は変わらず夜泣きはするが、こうしてが抱き上げているとすぐに泣き止む。

 やはり母親は違うらしい。

 今まで長い時間世話をしてきた身としては少し不公平も感じるが、やはり母親の役割というものが大きいというのは本当なのだろう。




「あー、」




 稜智はイタチの指をかしっと掴んで、声を上げた。最近ものを掴んだり、声に応えるようになっている。

 未熟児だったので皆心配したが、少し小さいくらいで今では全く問題無く普通の子どもとして育っている。心配されていた莫大なチャクラを持っているが故の弊害もない。





「かわいいね。おめめくるくるで」




 は嬉しそうに笑って、息子に頬を寄せる。その姿にイタチも目を細めて幸せをかみしめた。 

愛だけで満たされた声で