やさしい記念日の作り方
結婚記念日だからと温泉旅行に行ったのは、稜智が一歳を過ぎた頃だった。
「こらこら、」
イタチは走る稜智を捕まえて、自分の膝の上へと座らせる。
まだ1歳過ぎの息子だが、もうおぼつかないながらもよく歩く。ただ気をつけてみていないと転ぶこともあるので、角のある机などは要注意だった。机の上には旅館ならではの珍味を扱った豪勢な食事が並んでいる。
昨年の結婚記念日はまだ稜智も数ヶ月と手がかかる上、も退院したばかりで遠出できる状況ではなかったが、今年はの両親のすすめもあり、休みを取って家族で出かけることにした。
「あー、」
稜智は食べ物に手を伸ばす。
どうやら今日は外に出ていた時間が長かったから、お腹がすいているらしい。最近徐々にではあるが、稜智は大人が食べられるものが食べられるようになった。前までは離乳食だったが、少しずつイタチやが食べる食事の柔らかいものを食べるようになっている。
手で掴んで食べるわけだが、もちろん食べてはいけないものもある。
「生ものは駄目だな?」
「うん。駄目だよ。」
が言うと、イタチは生ものを遠ざけ、デザートについていた桃を息子の方へと持っていく。柔らかいから、おそらく大丈夫だろう。
「最近動くようになって大変だけどね。」
横たわっていた数ヶ月の頃と比べ、稜智は随分と活発に動く。
の父である斎曰く、女の子だったはそれ程動き回らなかったと言うから、男の子だからと言うのもあるかも知れない。活発なのは性格なのか、何人もの子どもを見てきている綱手も驚く程に元気だ。いつもじっとしていられず、何かに興味を持ち、静かだと思うと寝ている。
「うん。これ、美味しいよ。」
はご飯を片手に刺身に舌鼓を打つ。
最近は子どもの世話に、イタチは任務にばたばたしていたので、こんなにのんびり食事をして過ごすのは久しぶりかも知れない。
イタチも目を細めて、膝の上にいる息子の行動も確認しながら食事をする。
「しー」
息子はよく分からない言葉を話しているが、甘い桃に満足なようだ。
「おいしいか?」
「んー」
何を話しているのかはまだまったくわからないが、喜んでいるようだ。イタチは目を細めて、小さな自分の息子の頭をそっと撫でた。