サスケは目の前に座って炎一族の宗主である蒼雪と話す自分の父親を眺める。

 隣には兄のイタチがいて、退屈そうに欠伸をかみ殺していた。どうせ自分たちには関係ない話だというのに、たまに父はサスケとイタチを連れて炎一族を訪れる。5歳のサスケから見れば酷く退屈で、足も痺れる。

 サスケが退屈のあまり御簾の向こうに広がる立派な庭を眺めていると、ひょこっと庇の方から幼女が顔を覗かせた。




「ははうえさま、」





 少し舌っ足らずな声で、歓談していた蒼雪を呼ぶ。

 紺色の長い髪は顔の傍の一房だけリボンがつけられ、髪は綺麗に切り揃えられている。鮮やかな緋色の羽織は彼女の紺色の髪に良くあっていた。




「あらあら、」





 蒼雪は会合に入り込んできた娘を諫めるでもなく、困ったように小首を傾げて、腕を広げた。柔らかそうな彼女の銀色の髪が着物を滑り落ち、さらっと音を立てる。





「ははうえさま、」





 幼女は満足げに母親に駆け寄り、母親の首に手を回す。蒼雪も彼女に何も言うことなく、を強く抱きしめて自分の膝へと抱き上げた。

 炎一族東宮、雪花宮蒼

 次の宗主となる予定の幼女は病弱で、あまり外には出てこない。サスケもよく炎一族の屋敷を訪れるのに、会うのは5回に1度くらいだ。母親の膝にちょこんと座って不思議そうにフガクを見つめるの目は大きく、母が何をしているのか分かっていないようだった。

 歓談にサスケが仮に割り込めば、父はこっぴどくサスケを叱るだろう。

 だが、蒼雪は娘が歓談に入ってきても全く怒ることなく、優しくの手をあやすように撫でながら、膝の上でを遊ばせる。






「大きくなられましたな。一族の方も可愛がられておられるとお聞きしております。」





 フガクはを見て、蒼雪に言った。

 は未熟児である上、病弱だ。大きくなったと言ってもそれは前よりと言う意味で、同い年のサスケよりずっと体は小さい。





「えぇ、本当に目に入れても痛くない可愛い娘ですわ。」





 蒼雪は全く臆面もなく、心から愛おしそうに目を細め、を見下ろす。

 病弱な東宮に対する不満は炎一族の中には存在しない。年を重ねるごとにただそのことを喜び、の体が弱いことを皆心配している。そして、母である蒼雪は人の前でも変わりない愛情をに示す。





「うん!もははうえさまだいすき。」





 が嬉しそうに大きな声で言う。

 誰もが理想的とするただ愛情に満たされた幸せな家庭が、木の葉で一番大きな一族である炎の屋敷には当たり前のように存在していた。




限りなく幸せに近い現状