綺麗な真っ黒な瞳の男の子だと思った。
父である斎が教えていたのは大抵暗部に入ってくる、既に10歳を超した人ばかりで、まだ幼いには皆大きく見えたし、酷い時には20歳を超している人もいた。
既に大人の事情を十二分に把握している子どもの目は、大人と変わらない。への恐れと敬いの情を無条件に向けてくる彼らが、は基本的に怖かったし、好きではなかった。それでも父や母が自分を置いてどこかへ行くのが仕方がないことだとも理解していた。
でも、父の新しい弟子になったうちはイタチという少年は、まだ5,6歳だった。
「、おいで。」
父に会いに来たついでなのか、よくの所に寄ってくれるようになった彼は、優しかった。
は一日中家で過ごしている。体が弱くてすぐに風邪を引くし、よくわからないが、は大人にも恐れられる力の持ち主らしい。一度侍女が緊張のあまりに皿を割り、恐れをなしてに土下座したことがあった。だから、は自分が何となくおかしいらしいことを、幼いながら知っていた。
しかし、イタチはそんなこと全く気にしない。じっとが自分よりずっと背の高いイタチを眺めていると、彼は慣れた手つきでに手を伸ばす。
「どうしたんだ。今日はご機嫌斜めか?」
イタチに抱き上げれば、少しだけ今までより視線が高くなる。窺うようにこちらを見てくる漆黒の瞳は、沢山が見る黒い目の人よりもずっと深い黒をしているが、どこか寂しげだ。
「ん。」
はイタチの下がっている目尻をちょっと上へと小さな手のひらで引き上げる。
「なんだ?」
困ったようにイタチは笑う。
「だいすき!」
は寂しげなイタチの首に手を回して、しがみつく。するとイタチはの背中をぽんぽんとあやすように叩いた。
「俺はあんまり弟以外には好かれないんだけどな。」
イタチに弟がいると言うことをは知っている。
彼がたまに話をする弟は、彼にとって大切な存在で、どうやら少し意地っ張りで素直ではないらしい。と同い年で、そしての仲間だ。弟はきっとイタチのことが大好きだとは思う。
「イタチ、だいすき。」
「そう言ってくれるのはおまえだけだよ。」
イタチはそう言って、満たされたような顔でを強く抱きしめた。
本当はイタチには同年代の友達が少なくて、寂しくてたまらないことをは知っている。
優秀な人でも、平気そうな顔をしていても、一人で良いと言いながらも、彼の心は年相応の子どもで、友人や愛情をくれる人を無意識に探している。
あなたのしあわせが、わたしのしあわせです